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山口 犬

6-277 ニーナとステイビル6





ニーナはハルナの申し出を断ってまで、ステイビルに自分の気持ちを伝えたかった。ほんのわずかな期間だったが、この国に滞在しステイビルの傍にいられたことは、ニーナ自身にとっては奇跡的なことだった。
だが、いつまでも、自分以外の者たちが用意してくれたこの状況に甘えすぎるわけには行かない。
それこそ、ステイビルに対して迷惑をかけていることに他ならないとニーナは判っていた。

そこで考えたのは、本当に自分が東の王国……ステイビルにとって”必要な存在であるのか”ということ。ニーナはそのことを確かめるため、この返答の内容次第で、この状況が「続くのか、変わるのか、終わってしまうのか」という恐怖と向かい合い、ゆっくりとステイビルの目を見て口を開いた。




「わたくしは……ステイビル様のお傍にいたかったのです。初めてお会いした日から、ずっとそうなればよいと願っておりました……ですが、婚姻とかそういうことは考えてはおりませんでした。それは決して叶うことのできない夢、王選の旅を共にした”あの”お方には決して敵いませんから」



そう告げるが、決してその人物を恨んでいたり、羨んでいるわけではない。
こうして自分のことを考えてくれて、相談役という地位まで与えてくれたのだから。

ステイビルの頭の中にも、ニーナと同じ人物の存在を思い浮かびあがり、その推測が間違っていないことを次の言葉で確認する。


「ハルナ様から”ステイビル様の力になって欲しい”と依頼されたあの時。ハルナ様の広いお心には、わたくしには決して届かないと悟りました。ステイビル様も、そんなハルナ様のことに惹かれていらっしゃるのだということも」


「私もハルナ様のお役に立ちたいのです……ですから、わたくしも頼ってはいただけませんか?」


ニーナは、振り返りながらステイビルに訴える。
その目には涙が流れており、その感情の元となる自分の力が不足しているためステイビルの力になれないということが悔しくてたまらなかった。


「う……」


「もし……もしも、私のことを邪魔であれば……おっしゃってください、覚悟はできております」


「覚悟?ニーナ、お前は何を言って……」


ステイビルはニーナの覚悟という言葉に、悲惨な状況を思い浮かべる。
こういう追い詰められた者は、自らの命を絶つ傾向にある。カステオをから”預かっている”というニーナがそういうことになったとすれば、カステオは間違いなく自分自身を恨むだろうと考える。
それが、自分が望んだことではないにしても、最愛の妹を失った場合のカステオはこちらの言い分を聞くとはないだろうと。

ステイビルはそのことを制しようとしたが、ニーナはその言葉を被せるように言葉を繋げる。


「わたくしの体調を心配して頂き、一時的でもわたくしのことを受け入れて頂いたことで、私の心情としては十分です。少々、わたくしと絆を深めてくれたメイドの方々が心残りではありますが……ステイビル様のお言葉によってわたしこの国を出ます」



ニーナは意を決して、自分の今後の選択をステイビルに託した。

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