問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-206 違和感16










数日をかけて、キャスメルは再び東の王国へと戻ってきた。
ディバイド山脈を超える際には、西側の商人の中に紛れて入国した。
そこから数名の協力者と一緒にグラキース山を目指して数日間かけて目的の地へとやってきた。

この町を収めている一人のエルフが、キャスメルの訪問を出迎えてくれた。



「ご無沙汰しております……キャスメル様」


「あぁ……こんにちは。ナルメルさん」


「”グラキアラム”へ、ようこそおいでくださいました。どうぞこちらへ」




グラキース山の麓の名もなかった町は、王選が終ると”グラキアラム”という名前が、ここを重要な町に発展させたステイビルによって名付けられた。


グラキアラムは人と亜人が共存する町の運営のモデルケースとして、王国の未来に向けた王直轄の事業となっていた。



「賑やかになりましたね」


「はい。ステイビル様……いえ、今は国王様でしたね。国王様のおかげで、こうして我々も新しい取り組みを行なっていおります。それにあの建物は鉄を……」




キャスメルが目にした町の感想を口にすると、ナルメルの隣を歩くニナが堰を外した水のように、自分たちが創っている町の自慢話が連射砲のように流れ出てくる。
キャスメルはその話は聞き流していた……その話しの中にステイビルの影がいくつもちらついていたためだった。




「ニナ、そろそろ……どうぞキャスメル様、こちらへ」



ニナの話しは途切れることなく続いていたが、同じドワーフの長であるイナがそれを制した。
イナはナルメルから案内を引き継ぎ、この町を運営している建物の中に案内をした。



キャスメルはイナに案内され、応接室へと通された。
来客用のお茶が用意され、イナとニナがキャスメルの相手をする準備が整う。



「……そういえば、もうひとりいらっしゃったのですよね?」


「サナ……ですか?サナはいまでも、エルフのブンデルと一緒に王国の各地を回っているところです」


「そういえば、キャスメル様はお会いしたことはなかったのですね?サナはステイ……!すみません、ハルナ様たちと一緒でしたから」





ニナがステイビルの名を口にしようとしたが、途中で何かに気付いた。
その行動は、自分に対して気を使っているのだとキャスメルは理解した。
王選の決着がついてから、一部の者たちはキャスメルにステイビルの名を出すことを気遣っていた。

その行動は敗者に対しての気遣いではあると理解していたが、反対にその行動がキャスメルにとっては気に障っていた。だからこそその行動をみると、キャスメルの胸中には黒い感情が沸き上がっていく。




「……キャスメル様?どうなさいました?」


「い、いえ!?何でもありません!」


「そうですか?……お身体の具合が悪くなったときは遠慮なくおっしゃってくださいませ」


「それで、今回のご訪問はどのようなことで?」




ニナが気を使い、イナがキャスメルに今回の訪問の意図を尋ねる。
キャスメルは、表情を作り二人の疑問に対してこう答えた。



「ステイビルの婚姻を阻止するために、あなた方にご協力いただきたいのです」





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