問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-136 侵略3











「火を放て!!王の命令だ!!この村の全てを焼き払え!!!」




そう叫ぶ隊長の声に反応し、伝言が周囲に拡散してく。

その声は火薬が設置された場所まで届き、待機していた火の精霊使いが躊躇しながらも火薬の塊に向かって火を飛ばした。




――ドン!!ドドン!!ドン!!


村を囲む数か所から火薬が爆発する音が鳴り響く、その音はグラキース山の山肌に跳ね返り、その周囲に威力の大きさを知らしめた。

周囲にいた兵たちは、火を放った直後に土の精霊使いが創り出した分厚い壁によって、その爆風から逃れることができた。
だが、タイミングを間違えた場合には、この身も爆風によって吹き飛ばされていたとだろうと、壁を越えて伝わってきた地面から突き上げられる衝撃によってそう感じた。

ここまで貴重な存在の精霊使い達を危険な場所に接近をしなければならなかった理由は、爆発によって生じた炎を精霊使いによってコントロールさせるためだった。
この一帯を焼き尽くすための炎を一挙に創り出すには、高度な技量が要求される。
王宮精霊使いと言えども、ある一帯を炎によって焼き尽くすことなどできるはずはない。
シュナイドや火の大精霊のミカエルクラスの能力を持たなければ、望む火力を生み出すことなどできない。
だからこそ、今回は火薬を使って火を起こすという作戦が用いられた。
その案は当然、キャスメルから出たものだった。
それ故に、その危険な案に反対できるものは誰もいない。
自らが精霊使いだった妃でさえも、その案に対して何も言わなかった。






上空には、赤い炎と爆風によって吹き飛ばされた木々の残骸が浮かんでいるのが隊長の目にも見えた。
目を凝らし、その中に人影のようなものが無いか探したが、幸いにしてその姿は今のところ発見されなかった。
それは、自分の部下の姿もそうだが、この村の住人や亜人のことも気になる。
敵とはいえ、抵抗もしてこない……それどころか、王国としては敵と認定しているが元々何が悪いのかという持ってはいけない疑問を抱くものもいる……隊長もそのうちの一人ではあった。

それに、この森が今の状態に戻るためにどのくらいの時間が掛かるのだろう。
ここに居るのは亜人と人間だけではなく、その他の生物もそれぞれの生態系を維持しながら生きている。
いつか地下牢にいた女性のエルフが、エルフは森に感謝をしながら生きているという独り言のような話を聞いたことがあった。
決して自分たちは、自分たちだけで生きているものではないという。この世の全てがバランスによって成り立っており、その恩恵で生きているのだという。
実際にはそう言って人間の行動を批判していたのだろうが、男にとっては未だに喉の奥に詰まった異物が胃の中に流れずに一定の場所に定期的に引っ掛かっている。


「――た、隊長!あ、あれを!!!」

「――!?どうした、何事……!?


傍に居いた部下が驚愕の声で、隊長に状況の変化を告げる。
男は部下が指さした方向に目をやると、二体の大きな竜が空に向かって競うように飛翔する姿が見えた。






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