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山口 犬

6-131 ソイの記憶3









「……俺は必死にジュエを連れて行かないでほしいと頼んだ。自分でよければ何でもする……この命と引き換えにしてもかまわないと言ったんだ!!!!」




ソイの大きな声が、石の壁で囲まれた空間の中に反響する。
そして再びこの場に沈黙が侵食し始め、ときおり高い頭上の開いた空間からグラキース山から吹き下ろされる乾いた風によって木々が擦れる音が聞こえる。


「……だが、俺の妹は連れていかれて、アンタたちに弄ばれたんだ。ステイビル……アンタは覚えていないだろうがな、幾人もいるお前たちの犠牲になった一人が俺のたった一人の家族……妹だったんだ」




ソイの言葉に対し何の反応を見せないことを気にかけ、近くにいたナルメルが悲痛な記憶を語ったソイに対して言葉を掛けた。



「その者は今……会っていないのか?」


「あぁ、連れ去られてからは一度も会っていない。力を付けて色々な場所に聞いたが、その行方はわからなかった……うまく隠蔽したもんだな」



ソイは施設を出て、能力の適性を認められ諜報員として採用された。
ソイもその命令には都合がよかったため、素直に従った。

普段は一般国民として生活し、王国内で暮らしていく。
王宮から命令があれば任務を遂行し、情報収集などの任も請けていた。
そうすることにより、自身の目的でもあった失踪したジュエの痕跡を探すこともできると判断したためだった。



「誰一人として……知らなかったよ。俺たちみたいなゴミ屑のような人間が一人いなくなったことなんてな……」


ソイは再び絶望を思い出し、顔を下に向けて自分の感情を堪えていた。



「……すまない」


その話を聞いたステイビルが、少しの沈黙のあと一言だけ告げる。
その言葉に対しソイは、まだ下を向いたまま反応を示さなかった。


ステイビルも心が痛むが、これからソイに対して辛い言葉を告げなければ先に進まないと意を決して続ける。


「……すまない、ソイ。本当に……知らぬのだ。その女性のことも、私が命令して女性を呼び寄せたことも」



「……っ!?」


「まて!ソイ!!」


顔を上げてステイビルの声がした方向へ向き、怒りの言葉を告げようとしたソイを、デイムが後ろから頭を地面に押さえつけた。
それと同時にステイビルもその行動を止めようとしたが、デイムの方が早かった。


「デイム……いい。放してやってくれ」


「し……しかし!」



同じことは二度言わないという表情で見られたデイムは、舌打ちをしながら押さえつけているソイの頭から手を放した。
しかし、自由になったソイの頭はまだ地面に顔を付けたままになっていた。
その様子を見ながら、ステイビルは再度言葉の先をつないでいく。


「あの施設は、知っている。私側に付いてくれていた”フォルトス”という者が、あの施設を管理していたと記憶している。お前はその男に先ほどのことを言われたのか?」


「……?」


ソイは初めて、今まで見せたことのない反応を見せた。
確かに、あの時”誰にそう言われたのか”……それが思い出せないでいる。


そしてステイビルは、自分の考えをソイに伝えた。








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