問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-80 ルーシー・セイラム1










「え?ル……ゴホゴホッ!?」



ハルナはその名を呼ぼうとしたが、この世界では初めて会うため苦し紛れに咳で誤魔化した。


「ミカベリー、一体何をしている?受付はとっくに終わっている時間ではないのか?」



「はい、”あの”者から助けて下さったお方にお礼を伝えていたところです。」


ルーシーは一旦、ハルナとサヤの姿に目をやり、そこからまたミカベリーの方へ視線を戻した。



「あの男は……もう帰ったのか?」



「はい。今回は”ちょっと”した騒動がありまして、そのままお帰りになられたようです」



「そうか……」


そう言ってルーシーは、今度は身体ごと二人の方へ向けて言葉を掛けた。


「この度は、わが部下がお世話になった様で……助かった。お礼を申し上げます」



他人行儀のルーシーの姿を見て、ハルナは少し寂しくなったが、この世界で起きていることを頭の中で繰り返し悲しみの感情を抑え込んだ。

「いや、アタシら大したことしてないし……”勝手”にアイツのアクセサリが壊れただけだからね。その後のことは幸運だったけどさ」


サヤはミカベリーの方へ向かって、ニコッと微笑んでみせた。




「そうでしたか……そう言って頂けると助かります。ですが、何かお礼をしたく思います。ミカベリー、この方たちを私のの部屋へご案内して」



「はい!かしこまりました!!」


ミカベリーは、自分の障害を少しでも助けてくれた恩人をもてなそうとしてくれる上司の命令を嬉しそうに承諾した。






「……それではこちらでお待ちください」



ミカベリーは王宮精霊使いの長が執務をしている部屋に、ハルナとサヤを案内した。
案内されたソファーの上へ、飛び跳ねるようにサヤは腰掛ける。
しかし、大きな音も立てずにソファーはサヤの身体をやさしく受け止めた。
そのことからも、このソファーが高価なものであるに違いないとハルナは感じた。

ちなみに、このソファーはハルナが元の世界で王宮精霊使いの資格を得た際に入ったときにはなかった代物だった。



サヤがその感触を更に味わうためにみボンボンと身体を弾ませていると、メイドが二人に香りのよい紅茶と焼き菓子を運んできた。
そのおもてなしを味わった後、そのタイミングを見計らうようにルーシーがこの部屋に姿を見せた。
ルーシーの背後には誰もついておらず、先ほどのミカベリーの姿もない。

更には、お茶を用意してくれたメイドも、この部屋から退室することを命じた。
メイドは頭を下げて扉を閉めて、この部屋の中にはルーシーとサヤとハルナだけになった。

扉を閉めると、この部屋の中には外からの音は入ってくることはない。
誰も話さなければ、ハルナは自分の鼓動しか聞こえてこない程静かになった。



ルーシーは自分の執務用の机に座るのではなく、ハルナたちの前に置かれている一人掛けのソファーにゆっくりと腰を静めた。


「あなた方ですか?あの山のドワーフたちを捕えてきたというのは?」


その声はこれまでのルーシーに無かった、冷たく感情のない突き刺さるような声でハルナたちに問う。



「え?えぇ……そうです」




その答えに対し、ルーシーは背後に数本の炎の矢を浮かべ、その先はハルナたちに向けられていた。



「――お前たちは、何者だ?」








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