問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-79 人助け









「……ありがとうございました!」



「え?……な、何がですか?」





受付順が、ようやくハルナたちの番に来た。
その後ろには誰も並んでおらず、周囲には外部の者たちはハルナたちだけの状況となっている。
そんな中、誰もいないことを確認しての上か、先ほどとは違う受付嬢がハルナたちにお礼を告げた。


しかし、お礼の言葉を告げられたハルナは、そのことがドコにかかっているのかが全く理解できなかった。




「あの男……”グルコ”は、とってもしつこいんです!」




ハルナの報酬の手続き中に、カウンター越しの受付嬢はその理由を簡単に語ってくれた。




ハルナたちの前に割り込んできた男の名はグルコと言い、同じような手口でいつも受付順の最後を狙ってくるという。
そうすれば、自分の申請が終了するまではこの場にいられるため、些細な内容だが色々と質問や難癖をつけて居座っているという。


グルコの目的は、この”受付嬢”だった。



一年ほど前から、現れてこの受付嬢に対し好意を示してくるという。
だが、受付嬢には既に心に決めた相手がおり、それが揺らぐことはない。
そのことを相手に相談すると、パートナーの雇用主であることが判った。


グルコは二人が将来を誓った仲と知りながら、この女性を口説こうとしているとのことだった。
そのことに対する嫌がらせが続く、女性のパートナーの仕事を変えたり、賃金を減らしたうえ仕事を増やしこの女性とも会えないようにしていたという。


そのことを聞いたハルナは、お店の中でそういう話を思い出す。
だが、結局はそんなことをしても本当の相手の感情を手にすることは出来るはずもなく、笑い話で終わらせていた。


グルコは、この女性に対し実際にそういうことを行っていた。
そのことに対し、誰も止めることは出来ず、ただ相手が諦めるまで待つしかないと考えていた。




「ふえー……アイツそんなことしてんだ。でも、さ。今回は追い払ったけど、また来るんだよね?きっと」




サヤの言葉を聞いた女性の顔が、根本的な問題は何も解決されてないと思い出して再び暗くなる。
ハルナはサヤのことを責めようとしたが、よく考えればサヤの言葉は正しいと思い直した。
そして、サヤを責めた後に言われると思っていたことを、ハルナはこの場で口にする。





「あの……もしかして、あなたは精霊使いですか?属性は……風ですか?」


「は、はい!?そうですが……どうしてそれを?」


「さっきアクセサリが散らばるのを見た時に、普通じゃない転がり方をしてたから……その、誰かが飛ばしたんじゃないかって」





女性は一度辺りをきょろきょろと確認をし、声を落としてハルナの言葉に返した。




「そうなんです……あれは私がやったんです。本当はこの業務をしている時は、緊急時以外には使ってはいけないと言われている規則なのですが……周りの方もこの状況を理解してくれているようです」




そういうと、その隣で一日の受付業務の締め処理を行っていた女性が、一度だけウインクして同意の意思を示してくれた。




「そう!よかったわね!」





ハルナは、つらい立場にあるこの女性に味方がいることを喜んだ。





「……何をしているのですか?」




その時、ハルナたちの横から声を掛けられた。



「あ、ルーシー様!」




女性は、自分の上司の名をそう呼んだ。





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