問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

6-62 選択










モイスは二人のことを精霊使いだと判断した。
自分の首を押さえつけているこのモノも、精霊の力によって具現化されたものだと考えていた。


モイスは空間の中の元素を薄くして、その力を弱めてこの状況から抜け出そうとした。


自分の身体も元素からできているため、この周囲の元素が薄くなれば体内から元素が拡散してしまう。
だが、それ以上に”人間”から受けている屈辱的な行為をモイスは耐えられなかった。


モイスはこの空間の中の元素の濃度を下げ、首にありったけの力を注ぎ忌々しい自分を押さえつけているモノを外しにかかった。
だが、自分が思い描いていた結果は得られなかった。





「悪いわね……この空間の制御権、あたしが奪っちゃったからさ。アンタは何かしようとしてたけど、もう何もできないよ?」



『……!?』



「ちょっとアンタの身体の一部をもらって調べさせてもらったんだけどさ……」



ハルナはその言葉に、初めてモイスの背中の一部がえぐり取られているのが見える。
そこには瘴気の塊で塞いであり、モイスの元素の流出は抑える処置がなされていた。




「あんた……自分の力を使いこなせてないよね?今まで何やってきたのさ?……あいつの方がこの能力を使いこなせてたよ」



サヤの言葉で、その対象が元の世界のモイスのことが思い浮かんだ。



「使いこなせていない……ってどういうことなの?」



「アンタのその力……初めからそのくらい使えたのかい?」



ハルナは思い返す、あの始まりの森の中で起きた出来事のことを。
あの時、制御不能な巨大な竜巻を作りだしたが、あれは風の力の”空気を移動させる”という力しか使っていなかった。
その後のオリーブたちとの訓練所の中で、その力を変形させたり創り出した形を移動させたりという訓練をした。
そこでようやくハルナは、風だけの力ではあるが様々な用途に応じて変化させる術を身に付けたことを思い出した。


「そうか!その力を応用させる訓練をしてなかったってこと?」


「その通りだよ……あっちのモイスはその辺りの能力をいろいろ使いこなせてたよ。きっとこっちは、力任せにやってるだけで勝ててたもんだから……その辺を疎かにしたんだろうね、コイツはさ」



人間が話している言葉は聞こえているが、その内容は理解できていなかった。
ただ一つわかっていることは、”このままでは、この人間たちに負けてしまう”ということだった。
モイスはこの場をどのように切り抜けるべきか……今までは自分が相手の運命を握っていることが当たり前だった中、初めての出来事に対しての最適な答えを導き出すことに全ての意識を集中させる。


だが、その選択権さえも人間は奪っていく。



「これでアンタは、ほとんどアタシたちに勝つことはできないんだけど……どうする?」


『どうする_?……とは?一体どういうことだ?』



「アンタはアタシたちの下に付くか、この世から消えてしまうか……好きな方を選ばせてあげるよ。アンタと違ってアタシは優しいからね」



再びサヤは、モイスの眼球の傍に顔を近づけた。









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