問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

5-164 スーツ








「倒し……たの?」



ハルナは目の前に起きたことを止められなかったことと、ヴェスティーユの命が尽きたことに対しての悲しみが入り混じる心で、振り絞るように言葉を発した。



「あぁ……そうだね」



ハルナはよくわからなかった。


この世界から元の世界に戻るという目的で、この世界を終わらせるということを。
この世界には、当たり前にこの世界で生きている人たちがいる。


エレーナ、アルベルト、ステイビル、ソフィーネ、マーホン、メイヤ……サナやブンデル。
それ以外にも、山で出会ったコボルトの長やあの森で出会ったギガスベアの群れも。


ハルナは、この世界で出会った人々に好意を持って接していた。
それが無に帰してしまうと考える……しかし、ハルナはその思考を即座に停止した。



(――そんなこと、考えられるはずがない!)



ハルナは頭を強く振って、その考えを頭からはじき出そうとした。




「なにやってんのアンタ……ほら、もう外に出るよ」



サヤは二人を刺した剣を手に戻し、ハルナの気持ちが切り替わるのを待たずにこの空間から強制的に排除した。




「……あ」




薄暗い空間の中にいたため、外の太陽の光はハルナの目には少し厳しく映る。
ハルナは手を挙げて、太陽の光を遮った。
次第に明るさに慣れてきて、ゆっくりと辺りを見回した。



「ふぅ……さて、これから世界の崩壊が始まるよ」


「あ、サヤちゃん。ユウタさんは?今どこに……」


そうするとサヤは首からぶら下げていた紐をひきあげ、胸の中にあった袋を取り出す。
その袋を開けて反対の掌の上で逆さまにすると、小さな石が掌の上に転がった。



「アイツはこの中にいるよ……オスロガルムとの戦いには何の役にも立たないからね。この中でのんびりとしてもらっているのさ」


「そうなんだ……サヤちゃん、なんでもできるんだね!」


「あんたが、何も知らなさすぎるんだよ……って今はそんなことどうでもいいんだよ。ほら、もうこの世界が変化を見せ始めてるよ」




そういうと、サヤは顎でハルナに後ろを見るように指示した。
それに従いハルナは、振り向くと普通の景色のように見えた……が、少し違う気がした。



「あ……れ?と、止まってる!?」




ハルナが見つけたのは、木が風にそよいだままの状態で時が止まっていることに気付いた。



「も……モイスさん!これ!?」




だが、ハルナの呼びかけにモイスは答えなかった。




「あれ?モイスさん!……モイスさん!?」




ハルナは周りをキョロキョロと見まわして、モイスの存在を探す。
そこには、あの判りやすい竜の姿はどこにもなかった。


「サヤちゃん!モイスさんがいないの!!……まさか、まだあの空間の中に!?」

「落ち着きなって、ハルナ!アタシはあのトカゲも含めてオスロガルムとヴェスティーユを除いた存在を排出したんだ……何かおかしいね。アタシの知っている”崩壊”の流れとはちょっと違うみたいだね」


「モイスさんがいなくなったのも……その関係で……!?あ、フーちゃん!フーちゃーん!?」




モイスがいなくなったことから、まさかと思いフウカの存在を確認しようとした。
だが、フウカもハルナの呼びかけに応えることはなかった。




「……魔素は、まだ使えるみたいだね。ハルナ、アンタも元素は使える?」




取り乱したハルナは、サヤの声をきっかけに無理やり気持ちを落ち着かせた。
ハルナは、左右の掌の上でそれぞれの属性を浮かび上がらせ、元素を扱うには問題がないことを確認した。



「これって……どうなってるの!?」



ハルナは、フウカとモイスのことが心配になり胃がキリキリと痛む。



その隣でサヤは、腕を組み何かを思い出すかのように目をつぶって考え込んでいる様子だった。




「ようやく……来たか」




そういうと、サヤは目を開けて組んでいた腕を解く。
その視線の先には、この世界にはない黒いスーツを着た男の姿があり、時が止まったこの世界の中を歩いて近付いてきた。








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