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山口 犬

5-163 意外な感情











身体の中から、魔素が抜けていく。


薄れていく意識の中、オスロガルムはヴェスティーユが思い返していた記憶が意識の中に流れてきた。



(こ奴らにも……こんな絆が……それに引き換え……このワシは)



目を開ける力も辛くなってきたが、目を開けて目の前の様子を見る。
ヴェスティーユとは一本の剣で繋がっており、その奥にはハルナの姿が見えた。
その表情は今にも泣きそうな顔をしているが、誰のためにそのような感情を持っているかオスロガルムは不思議に感じた。




(敵であるヴェスティーユに……そんなことが……)




だが、オスロガルムの中にそれに対する怒りのような感情を持った。



(何だ……これは?)




その答えを導き出してくれたのは、以外にもサヤだった。



「あんた……それは嫉妬だよ。アンタにもそういう感情があるんだねぇ」


『む……思考が繋がってしまったか……しかし、もうどうでもよい……ワシはこの世から消えていくのだろう。……ぜ……なぜ、ワシはこの世に存在していたのか……その理由(わけ)が知りたかった……そのことを……だから、ワシはこの世の存在する者たちを見続け……取り込み……理解してきた……そのつもりだった。しかし、それでも……ワシの求める答えには……たどり着けなかった』





サヤは、初めてオスロガルムの本心を聞いた気がした。
あの誰も入ってこない洞窟の小さな穴の中で、ずっと一人でそんなことを考えていたのだと。

サヤはオスロガルムに実体を与え、オスロガルムは魔素の扱いとそれまで蓄積した知識をサヤに与えた。
お互いの感覚を共有していた頃の感覚が、久々にサヤとオスロガルムの間で取り交わされている。


サヤはオスロガルムから流れてくる感情を受け止めた上で、その言葉に対して返した。




「アンタは……仲間が欲しかったんじゃないか?アタシがこの世界に来た時に、面倒を見てくれた時もアンタは自分と分かり合える存在が欲しかったんだよ、きっと」


『ま……さか……ワシが……』


「いいや……そうだと思うね。だからこそ、アンタは今ヴェスティーユに向けた悲しみの感情向けたハルナのこと、羨ましく思ったんだ。だからこそ、この理解しかけたこの世界のこと……アンタは消してしまいたくなかった……そうだろ?」


『……そうかもしれんな……こんなにワシのことを理解しているのは……この世の中で、お主だけであろう……だが、それでよい……そうだ……ワシは……仲間が……欲しかったのだ……ワシのこと……理解して……いる。他の誰……か……が……あぁ……ワシはもう……満足だ……あとは……もう……お前の……好きにするが……いい……サヤよ……』


「あぁ。アンタはこの世界で、りっぱに役割を果たした。それはあたしが知ってる……だから、もうゆっくりと眠るがいいさ」


『ふっ……最後に……こんなに……満足……気分……で……さら……ばだ……サ……』





最後の名を最後まで言い終えることがなく、ヴァスティーユの身体のオスロガルムは全ての機能を停止する。
それと同時に、ヴェスティーユも力付きかけていた。




「おか……さま……また……お会い……お待ち……しており……ます」


「あぁ、これまでお疲れさん。少しの間、眠ってな……必ず起こしてやるから」


「…………」




ヴェスティーユの口は動いて見せるが、言葉は出てこなかった。

そして満足そうに、身体の力が抜け落ちていった。











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