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山口 犬

5-156 もう一つの空間






「サヤちゃん!?」




サヤのとった行動に対して発したハルナの声は、もうサヤには届いていなかった。

飛ばされたこの空間には、ハルナ、フウカ、モイス、そしてヴェスティーユがいた。
環境は先ほどと全く同じものがあり、あの空間をコピーしたかのようだった。


ヴァスティーユの動きよりは若干鈍い気がするが、ヴェスティーユは明らかに殺意をもってハルナたちに攻撃を仕掛けてきた。


だが、先ほど一緒でモイスがハルナたちの前に立つことによって防ぐことができている。
しかし、ハルナは一向に反撃する意思は見せない。




『ハルナ様、どうされたのですか!?今は無傷とはいえ、ヴェスティーユがあのサヤのように接近戦に持ち込むことも考えられます!早く攻撃を!?』


「で、でも……」




ハルナには胸の奥に引っ掛かるものがあり、それが原因で攻撃に出ることができなかった。




「さっきから、ヴェスティーユは一言も話していないんです」




ハルナの記憶だと、口数が少ないヴァスティーユと比べて、ヴェスティーユはうるさい程におしゃべりだった気がした。
それは初めてモイスティアで襲撃を受けたあの日も、モレドーネの湖の近くで会った時も、よくしゃべっていた記憶が強い。

ここにきて、オスロガルムに乗っ取られていたとしても、先ほどのヴァスティーユの方であれだけサヤと会話をしていたはずが、ヴェスティーユは一言も発していないことを説明した。




『し、しかし。それがどうされたのですか?今は、このヴェスティーユを倒すことの方が大切なのでは?』


「そうなのかもしれませんが……私にはそうではない様に思えるんです……なぜかわからないですけど」




そういう間にもヴェスティーユは、ハルナたちに向かって黒い瘴気を放ち続ける。
だが、ようやくモイスもそのことがおかしいと感じ始めた。





『アヤツ……ずっと、この攻撃ですな。無駄なことを……いつまで……何か別な意図が?』


「もしかして、完全に操られてな……っ!?」




そう言おうとした途端、ハルナの頭に声が流れてくる。




(ったく……んた……アイツも……聞いてるんだよ!?)


(もしかして……ヴェスティーユ!?)


(そうだよ!……身体を乗っ取られる前に、意識を退避させたんだ。今の攻撃は、オスロガルムの瘴気を無駄に打ってるんだ。そうすればこの身体も取り戻すことができる、ちょっとアンタ協力してくれない?)


『は……ハルナ様。どうされました……また黙ってしまって』


「あ、ごめんなさい。ちょっとまたあとで説明します。いまヴぇ……ゴホン!ちょっと立て込んでて、すみませんがこのまま防いでいてください!」


『……?わ、わかりましたぞ!?』




モイスは何も事情が飲み込めなかったが、ハルナの命令に従いそのままの状態でいた。
幸いに被害は何一つ起きていたないため、この状況を鑑みてハルナの指示に従うことにした。


そしてハルナはモイスの背中で、再びヴェスティーユとの接触に試みる。




「……っと、その前に。フーちゃん、軽くでいいからあのヴェスティーユに”水”を強めにかけてあげて」


「……ん?わかった!」


(これで、どうですか?怪しまれないでしょ?)


(ふん、ない頭使っちゃって……まぁ、これで怪しまれることはないかね。ちょっと痛いけど)


(え!?少し弱めましょうか!?)


(あんたは馬鹿か!?この感覚はアイツにも伝わってんだよ!!そんなことしなくていいんだよ!!)


(わ……わかった!?)



ハルナは、ヴェスティーユからある提案を投げかけられた。










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