問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

4-149 チェリー家の屋敷で7





―――カチャ


薄暗い廊下の中、再び別室の扉が開く。
その部屋はステイビルの部屋だった。


ハルナは、先ほどまでのエレーナの話を思い出し鼓動が早くなる。


「え?……あ……」


ハルナは迷った、このまま進むべきか一度どこかに身を潜めるべきか。
そう迷っている間に、開いた扉の反対からは人影が見え始める。

ハルナは、とりあえずべステイビルを緊張させない様にと作り笑いで迎えることにした。



扉は閉められ、ハルナに気付かないのか人影は背中に向けて進んで行く。
見送る後姿は女性で、ステイビルのものではないことに気付いた。
そしてハルナの嗅覚は、また新たな臭いを捉える。
それは、先ほどの女性の匂いに混じったステイビルのものだった。
女性の匂いも、ここ数日世話になっているため覚えのある臭いだった。


何かあったのかと心配し、ハルナはその影の後を追っていく。
ハルナの気配に気づかない程、何かが起きていたのではないかと心配した。


廊下を歩いて行き、屋敷の端に突き当たる。
話しかけるならこのタイミングと、ハルナは相手を怯えさせない様に静かな声で呼びかけた。



「あの……メリルさん……?」


呼び止められた声に背中は反応したが、振り返るまでに少し時間を要した。
振り返ると、メリルの潤んだ目にはランプの灯りが揺らめいていた。


「は、ハルナ様……こんな夜中にどうされたのですか?」


「えぇ……眠れなくて……中庭で過ごさせていただこうかと」


メリルの近くに寄ると、ステイビルの匂いがさらに濃くなった。
その中に含まれる匂いは先ほどエレーナにも感じたが、そこまでメリルとは親密ではないためハルナはそのまま流すことにした。


「でしたら……わたくしもご一緒させていただいても……その、よろしいですか?」


「え?……あ、はい。大丈夫です!」


まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったハルナは一瞬戸惑った。
特に断る理由もなく、嫌っているわけではないため、メリルの申し出を受け入れた。
それよりも、ハルナの方がお世話になっているので、逆に気を使うメリルに申し訳ないという気持ちが後から生まれてきた。


メイルは、ハルナに付き添ってくれてもいいという言葉に微笑んだ。
そして、ハルナを気遣って気持ちが落ち着くお茶を持っていくというので先に行っててほしいと伝えた。



ハルナは中庭に入るための扉を開く、外から乾いた風が流れ込んでくる。
砂も入ってくるため、これ以上汚さないため急いで扉を閉めた。

庭園を眺めることができる、テーブルと椅子が設置されている。
ハルナはそこにゆっくりと腰を下ろした。


上を向くと夜空に星が煌めいており、低い高さの薄い雲が風に流されていく。
天体には詳しくはないが、どことなく東京の空とは違うことはわかる。
この世界にも宇宙があり、太陽と月がある。
人がいて、草木も生えている。
精霊、魔法、魔物など、元いた世界には存在しない物はある。
この世界に慣れてきたせいか、時々向こうの世界にもそれらは存在していたのではないかと錯覚を起こしてしまうこともある。

更には、普通の引きこもりのような生活をしていた自分が、今では一国の王子と最強の仲間と共に旅をしている。

それは決して夢の話ではない。
冬美やユウタ……そして、小夜がこの世界に存在している。

それにステイビルも小夜と会っているといった。
ユウタの行方も気になるが、小夜のことが心配なのだった。


(小夜ちゃん……この世界で何があったんだろう)



離れたところで、扉が開く音がした。
ハルナは自分だけの世界から、再び現実に戻ってくる。


「――お待たせしました」

手にしたトレイの上にティーポットとカップが二つ、そしてジャムが乗っている焼き菓子が皿の上に並べられていた。
メリルはテーブルの上にトレイを置いて、カップの中に入れていたお茶を注ぐ。
その蒸気からは、甘いストロベリーのような香りが漂ってくる。
注いだカップの中にさらにミルクを入れ、数回かき混ぜてカップをハルナの前に置いた。
もう一つのカップを自分の前に置き、メリルはそこでようやく腰を下ろした。


「どうぞ……ハルナ様のお口に会いますかどうか」


メリルの勧めに、ハルナは礼を言ってカップの乗った皿を手に取り、カップを口元に持っていき口に含んだ。
香りと同じく口にストロベリーの酸味と甘さが広がり、酸味もミルクが入ることによって甘みがまろやかになり心落ち着く味わいになっていた。



「すっごく美味しいです!これ、私の好みです!!」


ハルナは初めて体験する味に、静かな夜に似合わない音量となってしまったことをとっさに手で口を隠した。
しかし、メリルはそんなことを気にもせず、差し出したお茶がハルナの味覚に合ったことを喜んだ。


「ハルナ様は……不思議なお方ですね。そんなところに王子も……」


「え?なんですか?」


ハルナは、出されたお菓子も口に入れながらさらなるお茶の味を楽しんでいた。


「い……いえ、なんでもありません」


出されたお茶とお菓子が美味しいのは確かだが、ハルナ自身もあまり親しくない人と二人きりな状況は平気ではなかった。
そのため、飲食をすることでこの場をどう乗り越えるかを探っていた。


だが、その様子を見る行動も次のメリルからの言葉でこの場の空気が変わった。




「ハルナ様……ステイビル王子のことを……どう思ってらっしゃいますか?」








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