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山口 犬

4-89 砂漠の施設3




久々に建物の外に出たメリルは、外に吹く風と砂の礫を肌に感じる。
外気は寒くはないが、明け方の強い風に対して布一枚だけしか羽織っていないメリルの肌から体温を奪っていく。
しかし、メリルにはその夜明け前の冷たい風さえ、一瞬の自由に生きている喜びが感じられた。
一年近く閉じ込められていたが、砂漠のその景色はまるで変っておらず時間があの時のままのように感じられた。
その月日の経過は、自身の身体の衰えが証明している。
記憶の中では砂の上で走ることも、問題なく行えていた動作が今では足場の悪さに下半身が支えきれず震えてしまっている。


ジャラ……!


鎖が引っ張られ乱暴ではないが他動的に行動を促され、メリルは抵抗せずそれに従い男が引く方向へ歩き始めた。
男はメリルの歩みを見て歩く速度に気を使ってくれてはいるが、一刻も早くメリルをこの場からは離さなければならないため、やや無理をさせてしまっていた。
男はそのことに対して、申し訳なく思っている。
だが、『メリルの気持ちが折れるよう雑に扱うように』と、べラルドから当初から指示を受けている。
男はメリル程の女性が、べラルドのような男に気持ちを許すことは普通ではありえないと思っていた。
決して口にすることはできなかったが、自分の周りの者も同じ思いを抱いていることだろう。


本当なら、このままメリルと一緒にこの場から逃げてしまいたいほどだ。
それができないのは、メリルを逃がしても自分には守れるほどの力がない。
それにもし見つかってしまった場合は、べラルドからどんな仕打ちを受けるのか……そう考えただけで夢のような考えはこの夜風の中に溶けて消えていった。




「あら……メリルさんをどちらに連れて行かれるのかしら?」


「――!?」


男は、暗闇の中から聞こえた女性の声に、腰に下げた剣の柄を握り構える。


「あなた……警備兵の方ね?私は王宮専属のメイドでメイヤと申します。あら……後ろにお連れの方は、ソイランドの大臣、パイン様のご息女とお見受けしますが?そのようなお方をそのような状態にしてどちらにお連れするおつもりなのですか?」



連れている男は、”王宮”と”メイド”の部分だけが頭の中に残ってた。
警備兵、騎士、精霊使い、メイドも王国の中では国にこの身を捧げる同じもの達であると教育されている。
それは、役職による上下関係はあったしても部門間には同じ国にこの身を捧げる者として差はないと軋轢が生じないようにと王から厳しく言いつけられていた。
だが、この場を逃れるためにはメイドという者が何故こんな場所にいるのかという問題は別として、自分の命令を遂行するために上から圧力をかけてこの場を乗り切ろうと男は判断した。


「め……メイドの者が何故こんな場所にいる!?私はべラルド様の命令をうけ、このメリル様を安全な場所にお連れしなければならないのだ!邪魔をするな!!」



男はメイヤに対して威圧的に接し、その身の安全も考慮しこの場からすぐに離れるように命じた。
だが、そのメイドは自分の言葉に対して何の反応も示さずにその場に立っていた。


「――チッ!」


男は思わず舌打ちをする、自分の言うことを聞かない。
しかも込めた威圧もまるで何もなかったかのように意に介さず、冷静にこの場を観察するその目が男には苛立ちを加速させ、鞘に手に掛けた親指で剣を引き出す。



「……あら?ただのメイドである私を脅しになられるのですか?」


男はようやくここで気付いた、この目の前の女性がただのメイドではないことを。
落ち着いて考えてみれば、メイドの服装というよりも戦闘ができる服装をしていた。
男の中で一気に、緊張感が高まる。
自分たちの行動が、全て王国に監視されていたのではないかと結論に達していた。
それと同時に、男は、鎖を手から離し剣の全て鞘から抜いてメイヤに構える。

その様子を見て、メイヤは素手で抵抗の構えを見せる。





「ふふっ……ケガ、しないようにね」











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