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山口 犬

4-47 ロースト家へ





「ステイビル様……ロースト家の方からです」


ステイビルは差し出された手紙とダガーを一緒に掴み、ダガーを腰に仕舞った後に手紙を開いて中を見る。
ハルナはこの世界の文字がまだ全て読めないため、中を覗いても何が書いてあるかわからなかった。
ステイビルの横顔を見て、目が左右に動く姿を見守った。



中身を読み終えステイビルは手紙をまた、最初に折っていた四つ折りの状態に戻す。




「この手紙の差出人は……ロースト家からだ。多分カルディが依頼したのだろう」


「えぇ!?カルディさんですか!!」


ハルナは久しぶりにその名を口にした気がする。
ディバイド山脈を超え、西の王国に向かった際には協力し合った人物だ。


「それで、その内容は……何と?」


エレーナは、冷静な口調でステイビルに確認をした。


「それは……な。グラム殿は我々に協力を仰ぐようにという内容だったよ」



「ということは、やはりキャスメル王子たちも一度この町にやってきたのでしょうね。でも、すぐに出ていかれたのでしょうか?この町の状況はご存じでしょうに……」


エレーナが言いたいことは、ステイビルは良く理解している。
”なぜ何もせずに、この町を素通りしていったのか――”ということだろう。


その言葉に対し、アルベルトはいくつかの答えが思い浮かべ、そのうちの中から一つ、もっともらしいものを選んで口にした。


「多分……クリエの家に被害が及ばぬようにしたのだろうな」



クリエの家は、この町で長く続いている少ない家の一つだ。
特にソイランドは、王国設立時に一番最後に認定された町だった。
元々この荒れた土地に住んでいる者は少なかったため、この町を見続けてきた家は数家だけだった。

それ以外は、ソイランドへ移住してきた者たちだ。


クリエの家……ポートフ家はその当時からある旧家のうちの一つ。
そして、古いというだけで何の特別な権力は持ってはいなかったし、国から特別な権力を与えられてもいなかった。
荒れた土地の町を維持してくれた功績をたたえ、ほんのわずかな資金的援助があるだけでそれ以外は他の家と大した差はなかった。
資金援助といっても、カルディのロースト家の方が商業的に成功しているため裕福ではある。
王国からの援助以外にも何か努力をしなければ、家として維持ができない……クリエの家はそんな程度の力の家だった。

しかし、ポートフ家は信頼が厚く協力者も多かった。
それは、自分たちの利益を投げ出してまで困っているものを救う姿勢が周りを惹きつけている。




「まずは、カルディの……ロースト家と接触してみるとしようか」


ステイビルの一言に、一同が賛同の意を示して頷いた。



夜中を待って、暗闇に隠れながら一同はメイヤが残していった馬車に乗り込んだ。
グラムの他、チェイルとクリアも一緒についてきた。
そして、馬車はローストの家に向かって走らせた。






到着した場所は、ハルナの世界でいうところの中規模スーパーマーケットほどの大きさの建物がある。
この世界では個人の店舗が主流の中、総合的に扱っている品物を扱っている店として有名らしい。

敷地の裏側には倉庫があり、馬車を隠すように停めた。
周囲を監視する二人組の武装した警備兵がその姿を見つけ、ランタンで照らしながら馬車に近付いてくる。


「こら!そこの馬車!!そんなところで何をしている!!」



警備兵は応援を呼び、馬車はあっという間に一定の距離をとり囲まれた。
よく訓練されていると同時に、この周囲ではこういうことがよく起こりえることなのだろうと感じた。

それに、この馬車も充分に怪しい。
荷台を改造して座席を付けた馬車は、十名弱ほど運べる造りになっている。
馬を操る御者も深くフードを被り、その顔を認識しづらくしておりローブもこの店に似つかわしくないくらいのボロ布を纏っている。
こんな夜中に店ではなく倉庫の前で身を隠すように停めていれば、”怪しくない”という方が疑われるだろう。


「おい!全員、降りて来い!!無駄な抵抗はするな!!」


荷台の後ろから一人、二人と降りてくる。



(……?)



最後に小さな子が抱きかかえられながら降ろされる姿も見えた。

馬の手綱を握っていた御者も、さっそうと飛び降りる。
その姿は明らかに、慣れた身のこなしだった。

その周囲を囲む警備兵の間で緊張感が高まり、構えた槍を握る手に更なる力が加わる。


御者だった者がローブのフードを外そうと手に掛けたその時、荷台から降りた一人目の人物が手を挙げてその動きを制した。
そのままゆっくりと警備兵の声を掛けた者の方へ歩いて行くが、その動きを止められた。



「動くな!そこで止まれ!!」


その掛け声と共に、その人物は歩みを止めた。
これだけ警備兵に囲まれ、自分たちの企みが失敗して抵抗をやめたのだと警備兵の男は推測した。
現に、こちらからの命令にも抵抗することなく素直に聞いている。

だが、今まで見た盗賊とは違う”何か”を警備兵は感じている。
この張り詰めた気が抜けない空気が、状況的に優位な人数であっても消えることはない。



「ゆっくりと布を取り……顔を見せろ!」



命令された男は両手を上げて、フードに手をかけてそれを後ろに引きはがす。
現れた顔に見覚えはないが、ただの盗人ではない何かを感じている。



「お……お前は……一体何者だ?」



「私は、ステイビル……ステイビル・エンテリア・ブランビートだ。カルディの知り合いでロースト家の方と話がしたい」









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