問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-285 数分のできごと






『よし……ここにはもう、用は無い。迎え撃って出るとしようか』

モイスの交戦的な発言に驚くステイビルが、もう一度確認をとる。

「モイス様、本当によろしいのですか?この場所が知られることになると良くないのではないのですか?」

神々が滅多に人前に姿を見せないことは、魔物たちにその居場所を知られることがないようにという理由だと記憶していた。
迂闊に打って出てしまったり、ハルナと一緒に外界に出ていけば魔物に発見されてしまう危険性が高まる。
そのことを気にしたステイビルが、モイスに対して進言する。
だが、モイスはステイビルの話が終わらないうちに”そんな心配は無用”と言わんばかりに、既にこの空間の解除を始めていた。

今まで色付けされていた、それぞれの存在が虹色の粒子となり解けていく。
色が完全に抜け落ちたこの場所は、湿った暗い深い洞窟の中に景色を変えた。
今までいた場所がこの場所ではないと気付いたのは、この周りに漂う空気が湿って苔の匂いを含んでいた為だった。
五感も騙されていた可能性もあったが、別な空間でハルナの肩に手を置いた感触は確かにあった。


ステイビルはこの空間を見渡すと、広い空洞になっていることに気付く。
振り返れば、洞窟の入り口と思われる場所から光が差し込んでくるのが見える。
グラキース山を登り、洞窟の入り口を探していた状況からは、移動していることがわかった。


その場所を確かめるためステイビルはソフィーネに、洞窟の周囲の状況を見てくるように命令をした。
ソフィーネは周囲を警戒しつつ、洞窟の入り口の周囲を見回す。

外の景色は今まで入り口を歩いて探してきた、グラキース山の頂上付近の見覚えがある場所だった。
だが、探しているときには決して見つけることのできなかったが、これもモイスの能力によって隠されていたのだろう。


ソフィーネは上空に気配を感じ見上げると、木々の間からレッサーデーモンが通り過ぎる姿が見えた。
どうやら、まだステイビルたちを上から探しているようで、モイスが能力を解除してもまだ目標物を見つけることができない様子だった。


そのまま時間を使い状況を見守ったが、レッサーデーモンに見つかったという気配は感じられなかった。
ソフィーネはステイビルの元に戻り、その状況を報告した。


「まだ、我々に気付いていないのはチャンスですね。一斉に攻撃を仕掛け、討伐しましょう」

ナンブルはステイビルにそう告げて、厄介な存在を早く仕留めようと提案をする。


『よし、では行くとしよう。ハルナ……付いてきなさい』

「え!?は……はい!」



モイスは、ハルナの肩の上から命令し、洞窟の外に向かって歩かせる。
ソフィーネが付いて行こうとしたが、”問題はない”と二人だけで洞窟の外に出ていった。


「……本当に私たちだけで大丈夫ですか?」

『心配ない……ほれ、来るぞ気を付けろ』

「”気を付けろ”って言ったって、どうすれば……あ!」

ハルナはモイスに対して文句の一つを言おうとしたが、それよりも早くハルナの姿を見つけたレッサーデーモンが、ゆっくりと羽ばたかせながら垂直に高度を下げてハルナたちの目の前に降り立とうとしていた。
そして、そのまま掌の上に黒い瘴気の塊を作り、攻撃に備えている。


「ちょ……ちょっと!」

ハルナはそれに対し、反撃の準備をしようと風の元素を集めようとしたその時……


『……よい、ワシに任せなさい』

「――え?」


ハルナが一言声をあげたと同時に、レッサーデーモンが目の前から姿を消す。


「こ、これって?」


『うむ、ワシの能力で異次元に送り込んでやったわ……さて、後始末に行くぞ!』

「あ、はい」


ハルナは返事をする前にモイスと一緒に飛ばされたことに、あきらめた感じでモイスの言うことに従った。


移動した空間、そこはまだ色の付いていないモイスが創った異次元空間。
モイスの不思議な力で、ハルナもその空間の中でレッサーデーモンの”存在”が認識できていた。


レッサーデーモンは急に飛ばされた見知らぬ空間に戸惑いを見せる。

黒い瘴気で攻撃しようとするが、その瘴気がこの空間では存在しないため造り出すことができなかった。
戸惑うレッサーデーモンの周りに、冷気が渦を巻きその身を閉じ込めていく。

「――グオオォオォオオォォォオ!!」


雄叫びをあげ、ながらその身が氷の中に包まれていく。

「――!!!!」


いつしかその叫び声も聞こえなくなり、そこには一体の氷漬けとなったレッサーデーモンの姿だけが存在していた。


『ハルナよ、あの氷を砕くがいい』

「はい!」


そういうと、ハルナは無数の空気を圧縮した砲弾を浮かび上がらせ、一斉に氷の塊にぶつけた。
それによってレッサーデーモンの身体は粉々に砕け、粒子となり消えていった。


『……ほれ、終わりだ』


そう告げるとモイスはこの異次元を解除し、再びグラキース山の洞窟の前にハルナと共に姿を現した。
そして何事もなかったように洞窟の中に戻り、ことが片付いたことを告げた。

その間、僅か数分の出来事だった。










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