問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
3-253 東の王国57
「うちのクリスとも子をなしていただけるのであればその条件……飲みましょう」
(え?いいの……か、本当に!?)
ウェイラブはカイロシュから目線を変えずに、視界の中に入っているクリスを見る。
クリス自身は……問題が無いように見えた。
そんなウェイラブの心情を知ってか知らないか、カイロシュが一瞬固まったウェイラブに話しかけた。
「ウェイラブ様、少々お尋ねしてもよろしいですかな?」
「え?……あぁ、構わない。何か?」
カイロシュは”コホン”と咳払いをし、身体を前に乗り出してウェイラブに近づけた。
顎髭のせいで、大きな顔が近づいてさらに大きく見える。
ウェイラブは上がった心拍数を必死におさえながら、その威圧的な大きさに抵抗した。
「その子はもしかして……ウェイラブ様と関係のあるお子様でいらっしゃいますかな?」
「……っ!そ、それは!?」
その反応を見て、カイロシュの表情は緊張を解き笑みへと変化していった。
「いやいや、失礼しました……男たるもの、いろんなところに妾の者がいたって良いのですぞ!それだけ男の価値が高いという証拠でござい
ますからなぁ!」
カイロシュにも、同様の経験があるのだろう。
噂によると、正妻の他に幾人もの女性の面倒を見ていると聞いている。
子供にしても、カイロシュの歳から考えられないくらい若い子もいたのだった。
そういうことでは、目の前にいるクリスもそういう事情を持つ一人なのだろうと悟った。
カイロシュは、ウェイラブを自分と同じであると親近感を覚え、更に機嫌が良くなった。
「私としては先程の件……ウェイラブ様とクリスの間に子をなしていただければ、そのことに関しては目を瞑りましょうぞ!」
カイロシュからの言葉は、ウェイラブの想像していた悪い想像が杞憂に終わったと感じさせるような内容だった。
ウェイラブは支障なく物事が進むことにスミカの調査力と考察力の高さに驚きつつ、何かがこの状況の中で取り残されているような違和感を覚えた。
その理由が目の前にいることに気付いたウェイラブは、その疑問を解消するべく質問する。
「クリス……さん。貴女は、それで問題ないのですか?」
この話自体に問題が有るか無いかで言えば【有る】に決まっているし、質問の質が低レベルであることも、ウェイラブ自身も理解している。
だが、人ひとりの人生が関わってくる重要な決め事の中で、”聞かれなかったから……”などという愚かな誤ちがあってはならない。
そういう思いで、ウェイラブはパートナーになる可能性の高いクリスに対して確認をとった。
だが、それに対し返答をしたのはクリス本人ではなくカイロシュだった。
「その心配には及びませんぞ、ウェイラブ様。この娘は、ずっとウェイラブ様に憧れておりましたからな。いまここにこのクリスの願いが叶うというものです、我が娘は幸せ者なのです!!」
カイロシュは嬉々としてクリスの気持ちを代弁していた。
それが本物かどうかはわからないが……
ニコニコとしたカイロシュの視線を外し、ウェイラブはハッキリとクリスの顔に視線を向けた。
「クリスさん……いいんですね、本当に」
ウェイラブは、再びカイロシュに口を挟ませない雰囲気を出しクリスのことを見る。
そこには父親に関係なく、自分の気持ちで答えてほしいという願いを込めながら。
「……はい」
クリスからの答えは、とても短いものだった。
そこからウェイラブは感じ取る、自分に好意を持っていること自体は間違いではないことを。
再び思い出すのは、スミカから初めてこの話を聞いた時の情報だった。
カイロシュは複数の子がいるが、女性が誕生したのはクリスだけだということ。
それ以降カイロシュに子は出来ていない。
年齢もあるのだろうが、女性が生まれたことで安心したのだろうとスミカは推測していた。
そしてその女性は将来、ウェイラブと一緒にさせるためだったという結論に達していた。
クリスは小さい頃から、”お前はウェイラブ様の妻となるのだ”と言われ続けていた。
そのため、悪いムシがつかないようにあまり人前には出さず、家の中でその時が来るのを待ちながら過ごしてきたのだ。
いわばクリスは、それだけの存在であると言える。
カイロシュの政治的な道具として、ここまで育てられてきた。
今までもクリス自身に自由などなかったことは、想像に難くない。
(もし、この話がなかったらこの子は……)
そう思うと、ウェイラブの胸が締め付けられるように痛みが生じる。
それと同時に、スミカとの間に初めて産まれた女の子の存在も思い出した。
(これも……罪を償う一つになるのか?)
自分勝手な都合の良い解釈に、思わず自分を鼻で笑った。
「……どうされました?ウェイラブ様」
薄ら笑うウェイビルの反応が気になったカイロシュの言葉で、自分の思考の世界から引き戻された。
「いや……なんでもない。決断をしていたところだ」
「おぉ!それではウェイラブ様、この話は……」
「うむ、進めよう……クリス、これからよろしく頼む」
「はい……ウェイラブ様」
クリスは小さな目を一度見開き、初めてまともにウェイラブの顔を見る。
その目は真っ赤に染まり、涙が流れ落ちそうになっていた。
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