問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-246 東の王国50






一緒に出ていったのは、サレンの父親の家族とそれを支持をしていた一派。
そしてノービスが加わっている。
今の村より、離れた場所で拠点を構えそこに村を作ることになった。
それがいまのエイミたちの村となり、ノービスとサレンが一緒になってエイミとセイラが誕生した。





「……そうして、お前たちが生まれたというわけだ」





途中から話しをノービスがウェイラブから引き継ぎ、村を出ていった後の情報を継いで語った。




「そんなことが……」

「知らなかったわ……」



エイミとセイラは、その事実を知り困惑する。
当たり前のようにそこに村があり、当たり前のように生活をしていた自分たちの住む村が、争いによって生まれた悲しい歴史があることなど、今の穏やかな生活からは想像もできない。

あの村の纏まりが良いのも、そう言った過去の理由があるからなのだろう。
一部の住人から父親に対する良くない声も聞こえるのは、村を追い出した人物の弟だからというのもあるのかもしれない。
派閥争いに敗れたことを、未だ根に持っているのだろう。
村を出た本当の理由が、自分たちの身を守るためだったという理由も知らずに……




それと同時に、そういう経緯があってここの村の方が発展をしていたのだと、エイミもセイラも気付いていた。
村が存続している時間が、自分たちの村よりもずっと前から続いていたのだった。





ウェイラブ自身、その情報は既に知っていた様子で、ノービスの話しの内容に特別驚いたりすることはなかった。
だが、エンテリアとブランビートは突然知らされた情報に困惑した様子が伺える。

事情を知らない四人の若者が、今まで得た情報を既知の情報とリンクさせるなど頭の中で整理している最中、ウェイラブがこの場の主導権を取り戻し再びもう一つの村の物語を語り出した。




「……では、その後の話を聞かせよう。どこまで話したかな?」



そう告げて、ノービスたちが村を出た後の話を始めた。





残されたウェイラブは村の規律を強化していく方針を立てた。
今回の騒動で、今後は規律と力で村を押さえつける必要があると判断したためだった。


更にウェイラブは、もう一つ手を打つことにした。
メイドを諜報員として育てることにした。
諜報員の最初の仕事は、村の中で反逆を密かに企てている者がいないか調べることだった。

不本意ながら、結果的にこの村をよく知る参謀を村から追い出してしまったのだ。
その事態に乗じて、この村を乗っ取ろうとする者がいないか調べさせた。

メイドという立場を利用しての情報収集だが、危険な場面に出くわすことも考慮して護身術の訓練も行った上でその任務に就かせることにしていた。

その任務を遂行する者は、五名のメイドで行われていた。
そしてそのメイドのリーダーとなる者は”スミカ”という名だった。
ウェイラブはスミカを常に傍に置き、村の運営を行った。
ウェイラブにとってメイドは母親に近い存在に感じており、この状況で常に傍にメイドがいることに安心感を抱いていた。


結果、その手法は成功し村の中での監視が強化され秩序が保たれることになった。



村の運営が一段落付いて落ち着き始めた頃、ウェイラブに孤独が押し寄せてくる。
今まで近くにいた存在は、全ていなくなってしまったことに気付いた。


その時から辛さを紛らわすために、酒に逃げる日々が続いて行く。



傍にいるスミカが、その身を案じて声を掛ける。
しかしウェイラブは、アルコールの血中濃度がかなり上昇した状態となっている。
その状態は味を楽しんでいるものではなく、何かの感情を忘れようとするために口に含んでいることが傍から見てとれた。


掛けられた声に反応するも、ウェイラブは何を言っているのか判らない意味不明な言葉を発している。
以前は泥酔していた際に、弟の名前や仲の良かった女性の名前を口にしていることもあった。



スミカは、ウェイラブの近くによってグラスを持っていこうとする。
ウェイラブはお酒を取り上げられると勘違いし、スミカを腕で払いのけようとした。


しかし訓練されたメイドに、酔っ払いの攻撃など当たるはずがない。

ウェイラブはその勢いで、椅子から転げ落ち床に倒れ込んだ。
それと同時に気持ちが悪かったのか、うつぶせの状態で今まで身体の中に入れていたモノが全て口から噴き出てしまった。


辺りが、酸性の匂いとアルコールの匂いで充満していく。
ウェイラブは既に意識は無く、自分が出したモノの上でを何も感じることなくうつ伏せに横たわっている。



スミカは、ウェイラブを起こし横向きに寝かした。
口を開け、異物で息が詰まらないように指を入れ、残りのモノを吐かせようとしたがこれ以上は何もでない。
お湯で濡らした布で口周りをふき取り、汚物で汚れた衣服を脱がす。

そして、背中に背負いウェイラブを寝室まで運んだ。
ベットの上に身体を置いて、何も起頃ないことを見守ってから退室する。


ここ数日、何度か行っている行為だ。



「……」



小さな声でウェイラブが誰かを呼ぶ。




スミカは顔の近くに顔を寄せ、もう一度声を待つ。



「……サ……レン」




ゆっくりだが、ハッキリと名を呼ぶ声が聞こえた。
スミカは、その声に一言だけ”はい”と返事をした。


(聞こえてるはずはない……)


そう思ったところ、意識の混濁したウェイラブに腕を掴まれ引き寄せられた。
スミカは、顔をウェイラブの横に付ける。
抱き締められて密接した胸からは、ウェイラブの鼓動が服越しから伝わってくる。



「あぁ……サレン……」


「はい……ここに」


スミカは、ウェイラブが夢の中で呼んだ名前にそう答えた。
そして二人の唇は、重なり合う。









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