問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
3-213 東の王国17
父親は槍を持ち、扉の前に立ち扉の向こうの者へ声を掛けた。
「……どなたかな?」
「私たちは、近くに住む村からやってまいりました”エンテリア”と申します。突然の訪問をお許しください、村長」
村長は槍を壁にかけ、鍵を外し扉を開く。
そこには二名の男が、雨除けの皮のローブを被ったまま立っていた。
村長は二人を中に招き、乾いた布を持ってくるようにセイラに告げる。
それと同時に、精霊の姿を隠させた。
二人を居間に連れて行き、母親が二人の前に温かいお茶を差し出す。
これから暑くなる時期だが、雨に濡れて冷えた身体のことを考え熱いお茶を選んだ。
「それで、近くの村からいらっしゃったとのことですが。それは、ここから西に行ったところの……」
「はい、そうです。そこの村長をしております息子の”エンテリア”といいます。こちらは弟の”ブランビート”と申します」
エンテリアの後ろにいた男が紹介をされて、村長に頭を下げる。
村長は相手も双子の兄弟とみるや、ある警戒心が浮かび上がる。
(この者たち、まさか……うちの娘を!?)
どのような返答が来ても動揺しない様にと気持ちを落ち着かせ、ここに来た理由を問い掛けた。
「それでそのような方々が、私にどのようなご用件でしょうか?」
「ある人物を探しているのです」
「その者は我々の村の平常を壊そうと企み、失敗して逃走していったのです」
「それで、あなた達はその方を追いかけている……と?」
「その通りでございます……」
更に村長は、具体的に何があったのかを聞いた。
二人の男は目を合わせ、お互い頷き村長から問われた内容を話し始めた。
その話しは、次のような内容だった。
ある男が、村に潜伏していた。
潜伏した先には、女性を狙っていたようだった。
そこから情報収集、偽の情報など広めて村の秩序を乱していく作戦だった。
その村の村長が謂れもないことで責められ、一部の村民が反発を起こす。
次第にその勢力は広まり、村を二分するほどになってしまった。
村長は村の者を治め、その出所を息子たちに探すように命じたという。
村長は右手で腕を組み左手で無い顎鬚を示指と母指で摩る動きを見せる。
これは父親が、何か考え事をするときの癖の動作だった。
(この者たちのいうことを……信じられるのか?)
「それと……」
エンテリアの言葉が、村長の思考を遮った。
「その者は女性の家に匿ってもらっており、ある状況が分かったことで判明したのです」
「……ん?その状況とは?」
「その女性は、やせ細り衰弱して行ったのです」
「そしてその身体には、肌を吸引したときにできる痣が至るところに見つかっております」
「ふーん……痣ねぇ」
「おい、エイミセイラ!なんだ立ち聞きとは行儀が悪い……すみません、こちら私の双子の娘でエイミとセイラです」
紹介されたエイミとセイラは二人の男性に向かって、軽く頭を下げてまた自分の思考の中に戻っていく。
そんな二人を男性たちは、じっと見つめている。
(いつかどこかで見た気が……)
「あー、思い出せないわ。でも何か見た気がするのよね……」
「わかりました、では何か知っていることがあれば教えていただけるとありがたいのですが」
「了解しました。それで、連絡はどのように?」
ブランビートは腰につけていたカバンから小さな筒を取り出す。
上着の裾で磨き、それを村長に手渡した。
「こちらで合図していただけますか?」
「……これは?」
手に取ると筒状のものはホイッスルだった。
「わが村で使用しております笛でございます、これは我らの村でしか作られていない音ですのですぐにわかります」
村長はその笛を口元に持っていき息を吹きかけようとしたが、エンテリアにその行動を止められた。
「この村に潜んでいる可能性があります、奴もこの音を覚えている可能性があります。まだ我々のことは知られるわけにはいきません、発見時以外にはご使用になられぬよう」
「す……すまん。迂闊だった」
二人はニコっと笑い問題ないことをつげ、その後ろ隣りにいる二人の娘に視線を送る。
目が合うと、サッと視線を逸らし真面目な顔に戻が、その耳には血が集まり赤く染まっていた。
訪問者は、村の外の森の中に簡易テントを立て拠点とさせてもらっていることを詫びた。
村長は村の中で提案したが、二人はそれを断る。
探している人物は注意深いため夜にしか活動をせず、探索も夜の方が行いやすいとのことだった。
村人に気付かれない様に探索するため、夜間村の中を出歩くことの許可をもらった。
なるべく早く発見し、攻撃する前には村長に告げることを約束した。
その際には関係のない村民の避難誘導を村長にお願いする。
村長もそのことに対しては承諾し、必要であれば村の中からも応援を出すことを約束する。
その二人は受け入れを有難く思ったが、なるべく二人だけで”処理”するとつげ、その応援は村を守るために使って欲しいと告げた。
「では、また何かありましたらご報告いたします」
「わかりました。必要なもの等ありましたら、遠慮なくおっしゃってください」
目の前の二人の男性の視線が自分から外れ、自分の娘たちの方へ移動するのを村長はみた。
(もしかしたら……)
村長は少しだけ嬉しい気持ちになり、二人が扉を開け大雨の中に戻っていく姿を見送った。
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