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山口 犬

3-193 水の大竜神のモイス






そして、いよいよハルナたちは山頂付近に到着した。


このグラキース山は付近で一番の高い山であることは、周りの山頂が見下ろせることからもわかる。

時折背中から吹く風は、エルフ飲む側から駆け上り、ドワーフ町と人間が住む山間に向かって駆け下りていく。





ここから少し進んだ場所に、ゾンデルが隔離されていた酸の池が存在する。
匂いは無いが、酸のせいでかなり離れた場所でも草木が黄色く変色していた。

これだけ風が強くても、酸に晒されてしまったのが理由だった。




その酸の池の反対側の山側に、ゾンデルは大竜神の住処を見つけたという。




ナンブルはその場所まで、皆を案内した。









「ここが、父……ゾンデルが見たという大竜神の住処の入り口です」



「ここが……」








ステイビルは、その近くに生えている大きな木に手を付いて周囲を見渡した。
確かに大きな穴が開いていた痕跡もなく、ただ自然の営みがそのまま行われているだけの場所のようにも見えた。

ナンブルが魔力の流れを探ってみても、特に変わった様子はない。





そこから全員で手分けをして、”何か”ないか探すことにした。

草木を分け、岩肌を探り、フウカやヴィーネの精霊に感じるものはないか見てもらったが、結局変わりはなかった。








「あーもぅ!どこいるのよ!!」









何も状況が進展しないことに、真っ先に不快感を見せたのはエレーナだった。






「……確かに、エレーナが言いたいこともわかるわよ。もう、ここに住んでいないっていう可能性もるかもしれないしね」







その言葉を聞いて、反応を示したのはステイビルだった。







「……何故そう思う?モレドーネであの池の使いのモノはここだと言っていたんじゃないか?」








「はい……ですが、ゾンデルさんの話だと一旦ここでサイロンさんの祖先の方に襲われましたよね?なんていうか、生き物が自分の住処を襲われたらもうそこは危険と感じて、手放して他の場所に移動してしまったんじゃないかと思ったんです。それに……」



「……それに?」




ハルナは一旦言葉を区切り、その先を促すようにステイビルが問い掛ける。
ハルナはモイスとの時間を思い出し、どのように説明をするべきか考えてようやく考えがまとまった。





「えぇ……っと。それにですね、モイスさんは特殊なスキルを持ってるみたいですから自分の居場所を別な場所に移動させ」






その瞬間、ハルナは目の前が真っ黒になった。








「え!?」



「ちょっと、ナニコレ!?」




隣からはエレーナの声が聞こえ、ハルナは少しだけ安心した。





「……エルライツ!」







ブンデルの声が魔法を発動させ、この暗闇に明かりを灯そうとする。
しかし、魔法は発動したが光は照らされることはなかった。






「ど、どうなっているんだ……!?」


「落ち着きなさい、ブンデル。どうやら我々は、どこか違う場所に来たみたいですね……」






ナンブルは、今この場所には立つための地面があり、空気があり、魔素も流れていることを確認した。







『……よく来たな。ふむ、こういう魔法もあるのか、実に興味深い』




どこからともなく声が聞こえたと同時に、ブンデルは出現させた見えない光が空気の中に還っていく感覚を覚えた。





「……あ、貴方は?」



サナが見えないブンデルの服を掴んだままま、恐る恐る声の主に声を掛ける。






『恐れなくともよい……ドワーフの娘よ。我はお主らの敵ではないとだけまずは言っておこうか。それよりも、これを見るがいい』




この空間にいる者全ての頭の中に、映像が流れ込んでくる。






「あ……あれは!?」



「レッサーデーモン!?」




頭に浮かんだ映像を見て、エレーナとハルナは声を荒げた。



場所はグラキース山の山頂付近で、ハルナたちはここを歩いてきたため見覚えがあった。

何もないところから一体の悪魔は姿を現し、その周囲を探るような仕草を見せる。
悪魔が探っている場所は、先ほどまでハルナたちが大竜神の住処の入り口を探していた場所だった。




突然消えた追跡対象を探している様子だった。

しばらく周囲を探索していたが存在そのものが消えてしまい、諦めて背中の羽を広げ空にその姿を消していった。






「もしかして、我々は付けられていたのか?この場所を探るために……」





『そのようだな、東の王国の王子よ。だが、それは向こうにしてみれば偶然だったようだ。あの襲撃からずっと、どこからかエルフや人間たちの行動を監視していたからな』







周囲に虹色の波が流れ始め、光と色を映し出す。
次第にハルナたちの感覚に、視覚が取り戻された。

この空間では、存在自信に色が付いているわけではなくこの虹色の光がその存在に色を付けているように見えた。

位置関係は、森の中で探索をしていたときとかわらずそのまま別な空間に移動されており、一同はそれぞれを確認し合い安堵の表情を浮かべる。




そして、その空間に一際巨大な存在が姿を現す。


蒼色の体幹に四肢が備わり、細長い尾が伸びている。
背中には二枚の羽が折り畳まれて、その節にはかぎ爪のようなものもも見える。

胴から伸びた長い首は二度程曲がりその先には、二本の角が生えた顔がこちらを見下ろしていた。

そして、ハルナたちを見回し言葉を掛ける。




『――よくきた、皆の者。わしが、水の大竜神のモイスだ』





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