問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-93 精霊の力








「それじゃよろしくね!」


「まっかせてー!」







フウカとヴィーネはドワーフに指示を受けながら、岩の蓋の前までたどり着いた。



そして、蓋の縁に沿ってロープと岩を凍らせて繋ぎとめる。



――ビュオ!!





「うわぁああっぁぁあ!!」





不規則な風が、ローブを持つフウカの身体を飛ばしていく。






「フーちゃん!?」


「大丈夫、ちょっと楽しかった!」




フウカは打ち付けられていたロープに助けられ、遠くまで飛ばされることはなかった。





作業中何度か突風に襲われたが、フウカは風邪の流れを見極めうまく回避することができるようになっていた。



十数分で作業は無事に終わり、いよいよその成果を試す時が来る。







フウカは風の流れを探りながら、その時を待つ。





――!?





感覚が、フウカを通してハルナにも伝わる。

その瞬間、崖を駆け上がるように風が吹き抜ける。






「フーちゃん!!」



「はいっ!」






フウカは抱えていたローブを風の流れに沿って投げた。




……バッ!



パラシュートは大きく広がり、力強い風を受け止めている。


フウカとハルナは、追いかけるようにパラシュートに向かって風を送る。





……ズ……ズズ……







「あ!ハルナ、動いているわ!!頑張って!!」







ハルナもフウカも、精一杯の力で風を送り込む。
角度と強度を微調整しながら出なければ、すぐにローブとの接合部分が避けてしまう。
所詮はローブのため、そこまで強度はない。


ただただ風を送るよりも、精神をすり減らす作業だった。



だが、その成果は出ていた。

徐々に岩の蓋は、前に出てきている。


だが、その状況にも変化が訪れる。
崖を登って吹き上がってくる風が、ぴったりと止んでしまった。





「……あと少しじゃないか!その精霊の力で何とかならないのか!?」






ブンデルは、目の前で起きてた成功しかけた作戦に興奮しながらハルナに告げた。






「これ以上は……あのローブが……ハァハァ……切れるかも」




疲れを押さえつけながら、ハルナがブンデルの言葉に返した。








今では手製のパラシュートは、ぐったりと下に垂れている。

さすがのフウカも、疲れてしまっているようだった。








だが、成果は出ていた。
半分程度、岩の蓋は前に出ているのが見える。





ハルナの呼吸も落ち着きを取り戻し、ようやく次の一手に移ろうとした。

一旦ボロボロになったローブを回収し、フウカは嫌がるヴィーネを連れて飛び出た岩の近くまで行く。






「どう、フーちゃん。入れそう?」



「うーん何とか……よいっしょ。入れたよー」



「ほら、ヴィーネも。いってらっしゃい、でも気を付けてね」





ヴィーネは嫌々ながら、エレーナに言われてフウカの後を追って岩の隙間の中に入っていく。




「フーちゃん……どこ?」





ヴィーネは外から急に暗闇の中に入り、まだ視界が慣れなかった。





「ここだよ!」





フウカはヴィーネの腕を引いて自分の位置を確認させる。


岩を見ると、中からカンヌキのようなものでロックされていた。
そのカンヌキは、外からの力によって無様なほど曲げられていた。

しかしこれは、ハルナの方法でしか破られることのない方法だった。

飛行技術がなく、あったとしてもこの程度の力を空中で発揮できる仕組みは存在しない。


しかし、この後ドワーフは今回のことに対して対策をしてくるだろう。










目が慣れてきた二人は、岩の蓋から少し距離を置きハルナに言われた通りこの岩を外に押し出す。





まず、ヴィーネが氷の壁で通路を塞ぐ。
そして、通路の中を水と空気で内圧を挙げて岩を押し出す作戦だった。





「ヴィーネちゃんいい?いくよ?」


「うん、いいよ」


「せーのぉ……」

























「フーちゃんたち……大丈夫かな?もし反対派の人がいたら……」





ハルナ急に弱気になる。
もしも、自分が提案した作戦でフウカたちの身に何か起きた場合、その責任の取りようがない。





「大丈夫よ、あの子たちも結構成長してるんだから。あのモイスティアくらいのレベルでなければ大丈夫だと思うけどね」


「そうですよ、ハルナさん。今はあなたの考えてくれた案でしか、この場を解決できそうにもなかったのですから」




エレーナとソフィーネが、悔やむハルナに気遣った。






……ゴゴゴゴゴゴ





足元から、小さな振動が伝わってくる。





「地……震?」



「いえ、あれを!」




ドワーフが崖の端から岩を指さす。



その隙間からは水が吹き出しており、中から相当な圧力がかかっていることが見える。

吹き出された水はますます勢いを増し、ところどころで空気が噴出しているのは二人が頑張ってくれている証拠だった。




「フーちゃん……」





ハルナは胸の前で両手を組んで、祈るようにその様子を見つめる。



その成果は、徐々に表れてきた。

岩の蓋の隠れていた部分が、次第にその姿を現していく。





「あと少しよ!!」



「がんばってー!!」




エレーナとハルナは、自分の精霊の頑張りに励ましの声を送る。




そして……





――ボン!!!





破裂した様な音共に、一気に水と泡が噴出した。

そして、二人の精霊は再び無事に姿を見せる。




「やったよー!!」



フウカが、ハルナの元に向かって飛び込んできた。
ハルナもその喜びを、胸の中でしっかりと受け止めた。





「よし!通路は確保した。……いよいよ入っていくぞ!」




「はい!」



ドワーフも含め、皆が一斉にステイビルの掛け声に返事をする。



そしてブンデルが用意したロープではしごを作り、ハルナたちは入り口を目指して崖を降りていった。







          

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