問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
3-89 ブンデルの逃亡
ステイビルたちと一緒にいると、厄介なことに巻き込まれる。
そんな面倒なことは、絶対に嫌だった。
そういう争いごとや厄介が嫌で、ブンデルは自分からエルフの村を飛び出した。
(あの日、精霊に捕まってしまったばっかりに……)
だが、ようやく今までの自由気ままな生活に戻ることができそうだった。
「さて、今度はどこに行こうかな……ん?」
ブンデルが腰かけていた枝から立ち上がると、その視界に森の中を動く影を見つけた。
「んん?……あっ!?」
よく見るとその影は数人のドワーフだった。
カムフラージュされたローブを纏ったその顔は、ドワーフの長老の一人サナだった。
「どうしてあんなところに……マズイ!?……いや、俺には関係ないし……」
サナの後ろにいる一人が足を引っかかり、倒れ込んでしまった。
その者を助けに戻ろうとするサナ、もう一人のドワーフもサナを手助けしている。
――ヒュッ……ドス
後ろから追いかけてきたドワーフが、ボウガンから矢を放った。
その矢は倒れ込んだドワーフのローブに突き刺さる。
慌てるサナは、胸元から短刀を取り出しローブを切り裂く。
どうやら、矢は身体からは外れたようだった。
サナともう一人の付き添いが、倒れたドワーフを引き起こすが追手は、もうすぐそこにまで迫っていた。
「あいつ、何やっててんの!?早く逃げなきゃ……あぁ!!!」
遠くから眺めるているブンデルは、思わず声を荒げた。
ブンデルの位置からみれば、サナと追手の距離はほんのわずかだった。
サナも追手を確認した様で、急いでその場を離れようとする。
だが倒れ込んだドワーフは、ケガをしたのかその場を上手く離れることが出来なかった。
倒れたドワーフは、自分を置いて先に行くように伝えている。
その様子を見てもう一人の付き添いもサナを先に連れて行こうとするが、サナはその付き添いを引っ張り上げ何とか連れて行こうとしている。
だが、追手は容赦なくその距離を縮めていく。
「……サナ様、申し訳ございません。私と一緒に来ていただけませんでしょうか。そうすれば、その者たちの身柄の安全は保障いたしますので」
「何を言っているの!あなた達、町を……私たちの町をこんなにして、それで何を保証してくれるっていうの!?」
「これは、仕方のないことなのです!ドワーフを守るためにはこうするしかなかったのです。あなたも長老のお一人なら、この気持ちを理解できますでしょ?」
サナは引き揚げた付き添いの無事を確認しながら、その手で汚れを掃っている。
「サナ様、あの者の戯言を耳にしてはいけません。綺麗事をいくら並べても、あの者たちの言葉には誠実さが伝わってきませ……きゃぁっ!!!」
その言葉を告げていた付き添いのドワーフは、追手から蹴りを喰らい後ろに飛ばされた。
「……関係のない者は黙ってて頂けませんか?私はいま、サナ様と話ししているのですから……」
上から見下ろして告げる言葉と目色は、この現状では明らかに自分が優位であるということを物語っていた。
「ねぇ、アナタ。本当にそれでドワーフを救えると思っているの?」
「……?」
サナからの静かな質問に、追手は戸惑う。
「それはそうでしょう、サナ様?我々は常に発展し続けているのです。他の種族にその技術を奪われてはなりません!他のやつらは我々を侵略しようとしています!」
「へぇ、あれが進歩?発展?今までの技術の域を超えていないような成果が……ですか?」
「――!?」
そう言われたドワーフの顔は、怒りで顔が一気に赤黒く染まる。
「この……下手に出てれば、クソが!?」
「サナ様!!」
男は剣を振り上げて、サナに切りかかった。
――ッ!
斧を振り下ろしたドワーフの手に、何かを切り裂いた感覚が伝わる。
襲ったドワーフとサナの間に、今までいなかった者が新たに登場した。
「ぶ、ブンデルさん!ど、どうしてここに!?」
ブンデルはその声には答えず、うめき声をあげている。
「ブンデルさん……大丈夫ですか?」
「サナ様……後ろを」
「……?」
サナは倒れ掛かるブンデルの身体を支えると、背中から暖かいぬるっとした液体を手に感じる。
身体をひっくり返すと、先ほどの攻撃をブンデルが身代わりになってくれたことに気付いた。
エルフの特徴的な耳は少し欠け、背中には大きな切り傷が付いている。
「……く、くそっ!?」
サナを襲ったドワーフは、自分が逆上して突発的にとってしまった行動とこの結果を見て怖くなりその場を逃げ出していった。
「ぶ……無事……か?」
苦痛にゆがむ顔でブンデルは、寄りかかるサナの胸の中で声を出す。
「え、えぇ。それよりもあなたの……貴方の傷が……」
ブンデルは、サナから無事でるとの言葉を聞きそのまま力尽きた。
(こんなこと……俺らしくもない……ほっとけばよかった……のに)
「ブンデルさん……しっかりして、ブンデルさん!!!」
(うるさい声だな……静かにしてくれよ……もう眠いんだ……しかし、気持ちのいい枕だな)
頭の中でつぶやきながら、サナの胸の中で眠るようにブンデルの意識は闇に沈んでいった。
          
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