問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-54 ヴィーネの進化








「入らないんです……結晶が……入っていかないんです!?どうしよう……」





その事実に驚愕し、ガタガタと震えるハルナ。
マーホンが後ろから、ハルナの肩を抱いて落ち着くように言い聞かせた。





「あ。もしかして……ねぇ、ハル姉ちゃん。ちょっと、それ貸してみて!」





フウカはハルナの手から結晶を取り上げ、その結晶を両手で抱え見回している。




「ふんふん……え?……すごいねー!こんなことできるんだぁ……」



その様子を眺めるハルナたちは、何をしているのか理解できなかった。

しかし、何もできない他の者たちは、ただフウカのことを見守るしかなかった。




「ふむふむ……なるほど……あ、これ?」



「「あぁっ!?」」







一同は思わず声を挙げてしまった。


フウカは何か見つけたところを触ると、その結晶は元素の光となり散らばっていった。


そして周囲をゆっくりと回転した後、ヴィーネの身体をめがけて光が降り注いでいった。




光はヴィーネの身体に付着し、浸透するように染み込んでいく
そして完全に光はヴィーネの薄く透けた体の中に溶け切った。



一同は息を殺して、変化が起きるのを待つ。





しかし何の変化も見られず、エレーナもヴィーネも目覚める様子はなかった。





「ねぇ、フーちゃん……どうなったの?ヴィーネちゃんは大丈夫なの?」


「う、うん。大丈夫なんだけど、今まで見たことのない速さで、ヴィーネの中で元素がぐるぐる回ってる……」




フウカはそう言うが、ハルナたちの目には何の変化もないように映っていた。





「あ。止まった」




フウカのその一言から、ヴィーネの身体は徐々に薄くなっていく。





「フーちゃん……大丈夫、これ?」


「うーん……わかんない。でも、ここにはいるんだよ?」


「え?どういうこと?……あぁ、消えちゃう!」






ヴィーネの身体は、うっすらとしか見えない状況になっていた。







「あぁ、消えてしまうぞ!……エレーナは無事か!?」





ステイビルは、この状況に焦りを感じて思わず感情を口にしてしまった。
しかしフウカが言うには、まだそこに存在していると言っている。


エレーナの方を見ても、変化は感じられない。



すると、ヴィーネのいた場所に変化が生じた。
水の元素が集まり出して、元のヴィーネの形を作っていく。
その形ができあがった後に、眩しく光を発し始めた。








「眩しいっ……!?」









ステイビルは凝視できず、手で光を遮った。

光は徐々に収まり、その場所にはヴィーネが消える前と同じように眠っていた。
今では身体は透けることなく、しっかりとこの世界にその存在を示していた。







「ヴィーネ……ヴィーネ、起きてー!」

「ちょっと、フーちゃん!?」






フウカは無造作にヴィーネの身体を揺さぶり、深い眠りから目覚めさせようとしていた。






「う……うーん」






一晩中動きを見せなかった精霊が、フウカの呼びかけで寝返りをうった。






「お・き・てー!ねぇ、起きてよー!!」


「んー、うるさいなぁ。起きるから、静かにしてよぉ。……あれ、皆さんどうしたんですか?」







ヴィーネの視界には、ハルナたちが心配そうに自分のことを見つめていることに驚いた。

気が付いたヴィーネに対し、ステイビルが質問をする。







「ヴィーネ殿よ、お主は昨夜急に倒れて眠っておったのだ。いつのことまで覚えているのだ?」



「え、はい。確か……エレーナの具合が悪くなって、変な気が流れ込んできてエレーナが皆さんに馬車から運び出されたところまで……そうだ、エレーナ。エレーナは、大丈夫なのですか?」



「エレーナはね、今も目を覚ましていないのよ……。そういえば、今は平気なの?」





ハルナが今のエレーナの状況を説明し、エレーナとつながりを持つヴィーネに今の状態を確認する。







「はい、何故かいまは、あの”気持ち悪さ”が消えています。何かあったのですか?」


「詳しいことは後でまたせつめいするから、まず先にエレーナのことを診てくれない?」


「は、はい」








ヴィーネは、何を言われているのかわからなかった。

ハルナたちはエレーナの傍に移動し、ヴィーネもその後ろを訳も分からずについて行った。



ハルナたちがテントの中に入ってきたため、一緒にいたアルベルトは場所を譲った。
そして、ハルナたちはエレーナの姿を上から見守る。







「ねぇ、ヴィーネちゃん。あなたの中には、ある精霊……いえ、妖精のスキルを入れさせてもらったの。それはいま唯一エレーナのことを助けられる力かもしれないの」


「え?」


「勝手にそんなことをして、ごめんなさい。悪いと思っているわ……だけど、エレーナとヴィーネちゃんが助かるにはこれしか思いつかなかったの」



「新しい技を覚えたヴィーネも、かっこいいじゃないの!」



「え!?そ、そう?」






明らかにヴィーネの表情が変わったことをハルナは見逃さなかったあ。






「そうよ!」ヴィーネちゃんは、一つも二つも進化したかもよ!」



「進化……」







褒められたことに対し、まんざらでもない顔つきになる。





「だから、ちょっと新しく覚えたこと試してみて?」




「わかった、やってみる!」







ヴィーネはその気になって、エレーナの近くに寄っていった。

そして、ヴィーネはエレーナの顔をじっと見つめる。




(ゴクリ……)




一同は、その様子を息を殺して見守る。




しかし――




「分かんないよー……何もみえないけど?」




「え!?」




ハルナは再び愕然とする。

薬草も効かず、あの妖精の言っていた闇の感染でないものが理由なのか。



(これじゃエレーナは助からない……!?)




そんな思いが頭の中を埋め尽くしていった。




『……身体の中の水の流れをみよ』




「え?何??」






ヴィーネはどこからか声がして驚きの声をあげた。






          

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