問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-47 氷の中で眠る少女






「そ、それは……」


ハルナは、妖精が侵されているその現象に見覚えがあった。
それは、この世界で度々目にしていた現象だった。



「どうやらこの現象はな、自然界に近い生き物に起こるようなのだ」



「それは、何かに感染したのですか?」



「違う。これは自然の理を犯したものが背負う罪なのだ」



「理を……犯す?」



「そうだ。私の場合も、そうだった。たとえどんな理由があろうとも……だ」






ハルナは思い出す。
ディヴァイド山脈を越えるときに出会ったコボルトのことを。

あのコボルトも人を殺め、その罪を背負っていた。









「まさか、人を……」


「よく知っているな、人間にしては賢いな……その通りだ。どうだ、恐ろしいか?」






その質問に、ハルナは首を横に振る。
コボルトの時もそうだったが、犯した過ちにはきっと何らか理由があるに違いないと思ったから。




「私の知っているコボルトにも、同じような症状が起きていました。その過ちを犯してしまったことも、理由があったのです」





「そうか……もちろん私も理由があった。だが、人間は過ちを犯してもこの現象が起きない。なぜか、自然界に近い生き物だけに起こるのだ。この世界の仕組みを作った方は、我々にはお厳しいらしい」



「でも、このフーちゃんはその黒い物を消すことが出来るんです。だから安心し……」


「いや。私はもうダメだ、妖精にも寿命はある。お前たちが、気が遠くなるほどの時間を過ごしてきたのだ。この闇を消してしまえば、そう長くは持たないだろう。私はもうこの世界に、長く居過ぎたのだ……」




そういうとローブを整え、ハルナとアルベルトに背を向ける。





「付いてきてれ。見てほしいものがある」




妖精は自分の後ろに付いてくるように促し、洞窟の奥へと進んで行った。
二人は、妖精の後ろを黙ってに歩いてついて行く。

薄い暗闇の中進んで行き、一番奥の突き当たった場所に辿りつく。


妖精はろうそくに火を点け、周囲を照らす。




「こ、これは?」





そこには透明な気泡一つない氷の中に、随分と昔の服装の少女が眠っていた。





「あの、この方は?」


「私がこうなった原因の人間だ」









そこから妖精は、ゆっくりと今までの自分を振り返るかのように語り出した。























この精妖精はまだ王国ができる前の時代、ある精霊使いと契約をした。
何故か初めから、人型になることが出来ていた。


その精霊使いは、森の中に住む集落で生活していた。



当時は現代のように、精霊使いという職が体系的に管理されていなかった時代だった。
そのため精霊は世の中にあまり知られていなかったため、その存在を神格化している集団も多く見られた。
その時代の精霊使いは、日照りで水不足の時など精霊の力で生活を助ける助けることを主な役目としていた時代だった。



精霊は、ここでの生活に満足し集落の人々とも仲良くなった。





いつの時代でも争いは起きる。
豊かな村を狙い、他の部族が奪い取ろうと襲ってきていた。


争う術を知らなかった精霊使いは、今のような精霊の力の使い方を知らなかった。
そのため、精霊は自分の持つ全ての力を使い襲い掛かってくる他の部族を跳ね返していった。
そうして、精霊は別な力の使い方を覚えていく。



何度か追い返しているうちに、この集落は不思議な力で守られているという噂が立ち襲ってくることもなくなっていた。
そこから、契約者と安定した幸せな日々が続くと思っていた。






しかし、人の寿命は短かった。

それには、栄養不足や医学の未発達などの理由もある。
その精霊使いも例外ではなかった。




そしてその精霊使いは間際に、精霊の自由と幸せを願ってその短い生涯を終えた。





精霊は妖精となり、精霊使いのことを思いこの集落に残ることにした。

それにより、集落内で争いが起こった。


精霊使いはその人外的な能力により、この集落の中では崇められる存在となっていた。
その人物がいなくなると、”次は自分が”というものが複数現れ、妖精の確保を巡って争いが起きた。


人間との幸せな生活を夢見ていた妖精は絶望し、その集落を離れることを決意した。






妖精は新たな契約者を見つけようと、人型であることを利用し旅に出た。
だが、待っていたのは”一度契約した精霊は二度と人間と契約できない”という事実だった。





そのことを絶望的に感じ、妖精は今の洞窟の中に籠るようになってしまった。




その洞窟はとても居心地がよく、何百年の月日が流れていた。







その平穏もある日突然、終わりを告げる。








「ハァハァ……」




少女は、岩がゴロゴロとした川を必死になり、息を切らしながら上っていく。



その後ろでは、数人の男性がその少女のことを探しまわっていた。





「こっちに行った形跡があります!」




一人の男が、後ろに付いて回る男に向かって叫んだ。



「よし、追いかけろ!絶対に捕まえろ、”アレ”は高かったんだからな!?」





男の命令で他の五名の男たちは、川の上流を目指して移動を始めた。







「助けて……いや、誰か……お願い……、助けて」




少女も更なる上流を目指して、岩を乗り越えていく。
一つ一つ手探りで、進める場所を確かめながら。





少女はようやく上流の端までたどり着いた。
大量の水が流れ落ちる音は初めのようで、少女は戸惑う。

ゆっくりと滝つぼの周囲を回り、ようやく裏側に辿りついた。



少女は手探りで奥に進み、隠れる場所を探そうとした。



だが、誰もいないはずと思っていた場所から自分に向かって声が響いた。



「おい。勝手に入るな、お前は誰だ?」





妖精は突然訪れた訪問者に向かって、声を掛けた。










          

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