問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

3-12 ユウナ







「ユウナよ……お前は、嫌じゃないのか?結構出鱈目なことも言われていると聞いているが」





心配そうに語るベスの言葉に対し、ユウナは落ち着いた顔で鏡の前で髪を梳かしながら応える。





「大丈夫ですよ、お兄様。私はジェフリー様からの言いつけを辛いと思ったことは、一度もありません。どこに連れて行かれるか分からない、あの時の恐怖に比べれば苦ではありません」


「そうか……それならばいいが、もし無理だと思ったら無理と言っていいんだぞ?お前ひとりで、ウチのことを背負うと思わなくていいんだからな」





その言葉にユウナは笑い、鏡からベスの方に向き直して話す。






「お兄様は、心配し過ぎでわたしに構い過ぎです。だから、少し前まで男性とも付き合うこともなかったのですよ?私が交際を申し込んだときに断られた理由知っていますか?”お兄様が怖いから”がですよ、もう!?」


「そんなこと言われても……」





ベスは困った顔で、ユウナの姿を見つめた。






「だ……だが、ジェフリーのことはどうなのだ?怖くないのか!?」



「ジェフリー”様”ですよ、お兄様。……あの方は、ああ見えて甘えん坊なところがあるのですよ?強がってはいますが、根は弱いのです。……ですが私は……」






――バン!



ドアが勢いよく開くと、そこにジェフリーが立っていた。
手にした花束は、握りしめられて潰れかけている。





「ジェフリー様!?ど、どうされたのですか?」


「私が、甘えん坊だと?……根が弱いだと?……よくも、そんなことが言えたな、ユウナ?」





ユウナは悟った、ジェフリーは少し前からドアの前でずっと話を聞いていたのだと。





「ご、誤解です、ジェフリー様!私はあなた様を……」



「うるさいっ!!!」


「きゃあっ!」





ジェフリーは、手にしていた潰れた花束をユウナに投げつけた。






「信じていたのに……お前のことを。お前なら、私のことをわかってくれると……だが、もう、いい」



「ジェフリー様!?」



「お前に恐怖を思い出させてやる……お前とは、これまでだ!」



「ジェ……ジェフリー様」






ジェフリーは顔を真っ赤にして、部屋を後にした。






その翌日、ベスの家が売りに出されることが決定した。
これで、ベスたちはこの家に住むことができなくなった。



そして、ベスはジェフリーの従者として使用人の小屋に住まうことになった。

ユウナのことは、どこかの家に引き取られたと聞いているが、ジェフリーが情報の規制をしていて詳しいことは判らなかった。














「……そんな経緯があって、いまのあなたの状況がある。そういうことね?」



「それに、聞けば聞くほどわたし。全く関係ないんじゃ……?」



「ですが、このままですとハルナ様の身にも危険が迫ることにもなりそうですね。ジェフリーという男が、考えている通りの男だとすれば」



今まで静かに聞いていたアルベルトが、自分の考えたリスクを伝える。
その意見に、ソフィーネも賛同する。




「現在の表面的な問題は、ベス殿が受けた難解な命令とハルナ様の安全に対しての二つですね。その共通するきな原因として、ジェフリーという男の”性格”ですわね」



「その通りです、ソフィーネ殿」



この状況を面白がるエレーナと困惑するだけのハルナと違い、二人は付き添いの身として冷静に現状を理解していた。



「とにかく、ジェフリーという男を何とかしませんと……」





ソフィーネはそう言って目をつぶる。



「わかりました。ベス様」


「はい……」



ベスはソフィーネに呼ばれ、近くによる。
そしてソフィーネはこれからの行動を、ベスに指示をした。










――コンコン


ベスは派手な扉のドアをノックし、中に入っていく。



「おぉ、ベスか?どうだった、ハルナは私のことをどう思っていた??」




ジェフリーは、ベスに真っ先に結果を聞いた。




「それが、ハルナ様は……いま、王選の件で手一杯でそういうことは考えられない……と」



「おい、ベス。昨日言ったことと違うんじゃねーか?」



「は……はい」




ベスの背中には、滝のように汗が流れていく。


ソフィーネ曰く、やはりこの問題については正直に返した方がいいとのことだった。
もし、そこからジェフリーが強引な手段に出てくるようであれば、こちらもジェフリーをとらえるチャンスになるという考えだった。


ベスのことは、今までの報いとして素直に罰を受けなさいとソフィーネに言われた。
命に関わるようなことになれば、手助けするとのことだった。




――ガシャン!




頭を下げているベスの足元に、グラスが投げられて陶器の破片が散らばる。




「ベス……お前は、俺に嘘をついたのか……ついたんだな?」


ベスの心拍数が上がり、その強さのあまり耳から拍動する音が聞こえてくる。



「俺をだましたのか?妹のユウナと同じで、俺をだましたのか???」




「そ、それは……」



「分かったよ、ベス。お前は嘘つきだ、今日から嘘しか言うな。あぁ、そうだ。ハルナが俺のことを好きだという噂を流せ……それが本当になった時お前を”嘘つき”から解放してやろう。それ以外のことを話したことがバレたら……わかってるな?あの時の借金の金額をそのまま背負わせたまま、この屋敷から放り出してやる!!」





ベスはジェフリーの命令に承諾し、部屋を出ていった。

その日から、屋敷の関係者に”ハルナがジェフリーに気がある”という噂が広まり始めた。








          

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