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山口 犬

2-115 ボーキンの息子2





月日は過ぎて、赤子は順調に育っていく。ボーキンは、セイムが自慢の息子となった。
勉強もよくできボーキンから教わった剣術や体術も、若くしてその辺りの警備兵には敵わないくらいの腕前となっていた。



ある日、セイムは王宮警備兵になりたいとボーキンに告げる。
そのことにボーキンは猛反対した。
ボーキンは、危険で競争の激しい警備兵にはなって欲しくなかった。
学者や商人になって、自分とは別の道を歩いて欲しかった。




同じ時期にマギーの家に、ちょうど女性が住み込みで働いていることを聞いた。
その者と一緒になって、兄がやっていた宿屋を継いではどうかと持ち掛けた。
セイムはもじもじしていたが、案外悪い反応を見せなかった。

ボーキンはマギーと話しを進めていたが、相手の女性が記憶がないことと自分の身体が弱いことを理由に断ってきたとのことで、セイムと会うこともなく話はなくなってしまった。



セイムは女性にもてないことを密かに悩んでいた。
容姿はそんなに悪いわけではないが、硬すぎる性格のためか親しい間柄になる女性には巡り合えたことがなかった。
今回の件で、余計に自分には警備兵の道しかないと思い込むようになってしまった。
ボーキンも自分から進めてしまった手前、その傷を癒すことはできなかった。




見事にその年の入隊試験に主席で合格し、翌年には警備兵として働くことになった。
そして、さらに一年が過ぎて――




「お父様、聞いてください!今度、王宮警備兵の試験を受けることになりました!」




久々に家に帰り、嬉しそうに話すセイム。

警備兵になり業務の忙しさから、家を出て寮での生活を送っていた。
しかし、月に一、二回ある非番の日には必ずと言っていいほど、家に帰って両親に顔を見せに来ていた。




セイムが警備兵になって2年が経過し、業績や昇格試験にも合格し王宮警備兵へを受験する資格を手にしたのだった。
ボーキン自身も通例に比べて最短で王宮警備兵への昇格試験を受けたものだが、セイムはそれをさらに上回っていた。
しかも、ゴーフの下にセイムを預けているため、その報告は逐一ボーキンの耳にも入っていた。


なので、その優秀さは誰よりも理解はしているが、素直に喜ぶことができなかった。
ボーキンとスィレンは、いまもセイムには穏やかな生活を送って欲しいと願っている。




セイムもボーキンたちの思いが判らなくもなく、なるべく心配を掛けない様にしているつもりではある。
それはボーキンたちにも、セイムの言動から伝わってきていた。



だが今夜は小言を止め、ただただセイムの優秀さを祝うことにした。







「……そしてセイムは、王宮警備兵に昇格したが、王子の無謀な依頼によって命を落とし……いや、殺されたのだ!」






ボーキンは息子のことを語り、王子に殺されたのだといった。





「では、その恨みが今回の犯行につながったと?」


「そうだ、一年前にこの真実を知ってな。そこから王選のこの時期を狙って計画を立ててきた。お前たちが来たことで、少し計画がずれたところもあったが、これで王家に対してセイムの敵を討つことができるのだ!」



ボーキンの短刀を握る手に力が入るのが、剣を当てられた首から伝わってくる。
ニーナはそれに怯えることもなく、ただ自分の運命を受け入れるように目をつぶりその時を待つ。





――バターン!!




勢いよくドアが開き、時が一瞬止まった。





「待て、ボーキン!」


「カステオ……王子!?」


カステオが遅れて到着し、フェルノールと一緒に部屋に入ってきた。




「お前がそんなに私や王家のことを嫌っているとは思わなかった。いや、当然だな……今まですまなかった、特にセイムのことは……申し訳ないことをした」



「な……何をいまさら!?”お前”がセイムを殺したのだ……お前が命令をしなければ」




ボーキンはカステオに向かって叫ぶ、今までの恨みを今ここで晴らすために。




「そうだな……私がもう少ししっかりしていれば」


「ボーキンさん……あなた黒い悪魔と契約しているわね?」


「「えぇ?」」





ハルナとエレーナハ同時の驚く。
二人が同時に思い出したのは、アイリスの変わり果てた姿だった。
あの時は無理やカルローナに言われヴェスティーユに無理やり契約させられたのだった。


それと、ハルナはもう一つフェルノールをみて驚いたことがある。



(冬美さん!?)



最初にフェルノールの姿を見た際に、冬美と見間違えるくらい雰囲気が似ていたのだった。

だが、今はそんなことを気にしている時間はない。
ニーナのために、ボーキンの説得が必要だった。




ボーキンは、フェルノールの言葉に反応し袖をまくる。
その腕には、見覚えのある黒い痣が浮かび上がっていた。




「ボーキンさん、早く治療をしないと!?」



ハルナがボーキンに声を掛け、フウカを呼び出した。



「やめろ!……もういいんだ、私は罪を犯してしまったのだ。あの従者の首をはね、黒い魔物を植え込んだのは私だ」





「やはり……」


ステイビルは、そう口にした。
全ての推理の答え合わせは、上手くいっているようだった。




「ならば、私も本当のことを話そう。その後で、お前がどうするか決めるといい……ボーキン」




カステオはステイビルの視線に気付いたが、構わずに話を続けた。



「セイムが王宮警備兵となり、私の警備を担当することになったのは知っているな?これから話すことは、誓って真実だ。その時のことから、順に話していこう……」










          

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