なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜
番外編 アズリエルとノベル
◆
あれからもう5年も経ちます。
アズちゃんことアズリエルは、今日もこのカナヤの傭兵として楽しく暮らしています。
実の所、この世界でずっとゴロゴロしながら、ノベルのお父さんが作ってくれるゲーム機で遊んでいるつもりでした。
でも、さすがにそればかりではつまらないし、生活費も稼げませんでした。
なので、3年ほどカナヤで過ごした後に、アズちゃんは満を辞してカナヤの傭兵として働くことを決めたのです。
天使族であるアズちゃんの戦闘力はどうやら桁違いみたいで、初日からカナヤ傭兵第1課の仕事を任されてしまいました。ちょうど、ノベルと同じ役職です。
武器は鎌で、愛用の鎌であるリーパーを担ぎながらパトロールや自営活動を行っています。
ノベルの活躍のおかげで、随分と犯罪率が減りました。
麻薬の袋に薔薇が咲いたと言う噂がカナヤ中に知れ渡り、一時期は都市伝説みたいに話されていました。
麻薬の袋に薔薇が咲いた、それはノベルの必殺技であるスクリーンショットのせいですね。
ノベルは、街のあちこちにある銃を自在に操って、狙撃することができます。
それで、ノベルは麻薬の売人を撃ち殺すのではなく、麻薬の袋に薔薇のおもちゃを打ち込んだそうです。
その伝説が、今もカナヤに生きているのです。
獣人への酷い待遇も無くなりました。
と言うのも、ノベルの『演説活動』によって、街中で獣人への評価が変わったのだそうです。
『獣人は可愛い』と言う評価に書き換わり、今ではカナヤの法律である『獣人は出入り禁止』は無くなりました。
元はといえば、獣人を守ることが目的の御触れだったため、もういらなくなったのです。
現在のカナヤでは、普通に獣人が歩いて活動しています。
それもこれも、全てノベルのおかげなのです。
◆
「ほれ腰が乗ってねぇ! そんなんじゃ、いつまで経ってもアタイの足元にも及ばないよ!」
「ひいいっ! 酷いですコンパスさん! アズちゃんはまだ本調子じゃないんですよ!」
「何が調子悪いじゃそれっ! アタイは容赦ないよ! あんたがアタイの後を継ぐんだ! そんなヤワじゃクソの役にも立ちゃしないよ!」
――と、コンパスさんはアズちゃんに向けて大鎌を振り下ろしてくるのです!
コンパスさんは今のカナヤではNO.4の実力者です。
ノベルが、ステイプラーの能力を持ったまま元の世界に帰ったために、番号が繰り上がったのです。
彼女が専攻する武器は大鎌学で、ちょうどアズちゃんの武器とべすとまっちしていました。
「アズリエル! アタイはあんたを死ぬまで鍛えてやんよ! ハイライターが鍛えたノベルって子よりもさらに苦しんでもらうからね!」
「ひいぃぃぃっ! 絶対に嫌です! 嫌ですけど、ノベルには負けられません!」
「うしっ! んじゃぁ、構えろアズリエル! 今日はどちらかが気絶するまでスパーリングだっ!」
――と、コンパスさんは鬼の形相でアズちゃんに向けて大鎌を振り上げた!
「あ、コンパス〜! 調子どうなんサ!」
扉を軽快に開けて戦闘場へと足を踏み入れたのは、ちゃらちゃらちゃら男のシザーズです!
「あっ、シザーズ! てめぇ、今日は帰らねぇって言ったろうがよ! このダメ天使がぶっ倒れるまでシゴキ回すとあれほど――」
コンパスさんはそう言いながらも、シザーズが両手で抱えるものを眺めながら大鎌をふにゃふにゃと下すのです。
「いんやさぁ〜? 俺っちってばあんまり赤ちゃんの扱い方がワカンねぇんよ! なぁコンパス助けてちくり〜」
シザーズは元気に笑う赤ちゃんをコンパスさんに見せつけると、彼女はさらにふにゃふにゃするのです!
「あーん、可愛い! スピアちゃん! どーしたのぉ、ママが寂しくなっちゃったかな〜?」
コンパスは大鎌を戦闘場の地面に突き刺すと、シザーズの赤ちゃんを抱いてヨチヨチし始めました。
――その子は、コンパスさんとシザーズとの子供のスピアちゃんです。
1年前に生まれたこの子は、もうすでに武器強化の才能があるそうで。
「おい、アズリエルっ!」
「ははひっ! なんですかコンパスさん!」
「今日の稽古は終いだ! 明日の15時、警備が終わり次第ここに集合だ! 良いな!?」
「わ、分かりました!」
と、アズちゃんはコンパスさんに敬礼をして直ちに立ち去りました。
◆
――16時。
アズちゃんは大浴場で汗を流してカナヤギルド内を歩いていると、ちょうどイレイザーとルーラーのお二人が歩いてきました!
「あ、アズリエルさん!」
「アズちゃん! こんにちは!」
「イレイザーにルーラー! 今日は夫婦水入らずの警護ですか?」
「んー、と。ちょっと違うっスかね」
イレイザーは頬をポリポリかいて上を向いた。
その仕草、彼は何かを隠しているようですね。
「なんですか? もしかして交尾した後ですか?」
「「断じて違うっ!」」
と、夫婦揃ってツッコミを入れて、互いに頬を赤らめた。
イレイザーは、現在はカナヤのNO.2。
そしてルーラーはカナヤのNO.7に属しています。
ルーラーの専攻する武器は、弓。
超音波を乗せた矢を飛ばしてどうとかって聞きました。
「その……私、妊娠したの」
「えっ! 本当ですか! またまたおめでたじゃないですか!」
「そうっスよ。先ほど、マスターに『ルーラーの産休』をお願いしにいったんス。ルーラーはウサギさんなので、あと3週間ほどで生まれてくる予定っス」
イレイザーは笑い、ルーラーのお腹を撫でました。
とても幸せそうです。
イレイザーとルーラーの間にはすでに10人ほど子供がいて、毎日が新鮮な体験だと言ってます。
アズちゃんもそれがとても嬉しくて仕方がないです。
この風景をノベルが見れば、重ねてボケたりするのでしょうか。
「ってことは、やっぱり交尾じゃないですか!」
「「だ、だから違うって!」」
――ってツッコミを入れてくれます。
やっぱり、この2人は息がぴったりの仲良し夫婦です。
それを見て、アズちゃんはとても胸がキュウッと苦しくなってしまいます。
アズちゃんだって、もっとノベルとイチャイチャしたかった。
この夫婦を見ていると、時々どうしようもないくらい嫉妬してしまうのです。
◆
あれからもう5年も経ちます。
寂しくて寂しくて、とても辛い日々が続いています。
あの日の温もりが懐かしくて、時々泣いてしまったりします。
それでも、アズちゃんは今日も幸せであるように生きています。
――たった1人だとしても、たった1人で育てるとしても、アズちゃんは文句は言ったりしません。
それが、ノベルとの約束ですから。
「ただいまです、ノエル・アベル!」
「「あ、ママー!!」」
アズちゃんの天使たち……ノエルとアベルはいつも帰りを待っていてくれます。
言い遅れましたが、アズちゃんには子供が2人います。
銀髪でアズちゃんにそっくりな女の子はノエル、ノベルのように熱い感じが伝わってくる茶髪の男の子がアベルです。
二卵性双生児というやつです。
――あの時、ノベルと汗水垂らしながら頑張った甲斐がありました!
「ねーママ! アベルがね、またバチバチしたの! 椅子壊した!」
「ノエル! それは言わないってお約束したじゃん!」
「あらー、またやっちゃったんですかアベル! 悪戯っ子さんですね!」
アベルにはもうすでに新竜人族の角が一本だけ生えており、魔力を注げばいつでも雷を生成できるようになっています。
まだ4歳なのに、才能溢れすぎでしょう!
「それよりも見て、ママ! あたち、飛べるようになったよ!」
「え、本当ですか! マジですか!?」
と、ノエルは天使の微笑みを見せながら、黒い小さな翼で部屋の中をフヨフヨと浮き出したのです!
嘘でしょ、アズちゃんは天使族ですけど飛んだことなんて一度も無いんですけど!
アズちゃんの背中に生えてる黒い翼なんて、飾りですよ!
「2人とも、ちゃんと大きくなって偉いじゃないですか! そんな2人に、今日はとっておきカレーを作ってあげますからね!」
「「え、カレー! やったぁ!」」
ノエルとアベルはテンションが爆上がりして、テーブルの周りを走り回る。
アズちゃんは子供ができてすぐに、カナヤの1軒家を借りることにしました。
家の場所は、アズちゃんとノベルが愛を誓い合った川沿いのベンチの前です。
家賃などは、全てノベルのお父さんが出してくれています。
そのうち、お父さんに恩返ししなければなりません。
「ママー! 早くカレー!」
「分かりましたよ。それじゃ、作りますか!」
アズちゃんはグンと背伸びをして、キッチンの方に歩いて行った。
◆
その日、アズちゃんは眠れませんでした。
ノエルとアベルはすぅすぅと寝息を立てて、アズちゃんの胸をギュッと抱きしめています。
別に暑苦しいとかじゃないです。
ただ、やはり寂しくてたまらないのです。
『俺はアズリエルを絶対に忘れない! どんな作品のアズリエルも、超絶幸せにしてみせる! だから、もう泣くな!』
泣いてしまいます。
ノベルは今頃、何をしているのでしょう。
5年も向こうに居れば、他に好きな人が出来て結婚してたりするのでしょうか?
アズちゃんは毎日そんなことばかりを考えて不安で寝れません。
ノベルに限ってそんなことはないと分かっていても、やはり不安でなりません。
好きな人がどこで何をしているかなんて、物語の住人であるアズちゃんにはなんら関係ないことは分かってます。
でも、でも、でも!
アズちゃんは、ノベルのことが好きすぎてどうしようもないのです。
「うっ、ううっ……」
悲しい。
悲しくて、とてつもなく寂しくて。
この苦しい期間がずっと続くなんて、アズちゃんには耐えられそうにありません。
ノエル、アベル……。
ママ、挫けそうです。
『ねぇママ! パパはいつ帰ってくるの?』
『え、ええっと……! お仕事が終わったらです!』
――苦しいです、ノベル。
辛いですよ。
◆
明け方。
アズちゃんは寝不足で、ノエルとアベルに起こされる日々が続いています。
彼女たちのきゃいきゃいと笑う声に起こされ、ボサボサの銀髪を掻きながら欠伸をするのです。
「おはよー、ノエル、アベル」
「「おはよーママ!」」
2人は元気だ。
アズちゃんはそれで、ママとして幸せです。
「ねぇママ! そういえばね、朝方ね、玄関前がうるさかったよ!」
「え、どういうことですか?」
「あのね! 『女神だー!』って叫んでる人がいたの!」
ノエルは両手を振りながらそう言ったのだ。
女神っていうのはどういうことなのか分からず、アズちゃんはお腹をポリポリと掻きながら玄関へ向かうと……。
瞬間、ギョッとして目が覚めたのです!
「え、なんですかこれ!」
アズちゃんは郵便受けのところがキラキラと輝いているのを見たのです!
すぐに郵便受けを開けて中に入っている1つの封筒を開けました!
――すると、アズちゃんは膝の力が抜けてその場に丸くなってしまいます。
「ど、どうしたのママ!」
「ううっ! うううっ!」
その手紙は、女神様――慈愛の女神様からのお手紙でした。
内容を見て、アズちゃんは驚きまくってしまったのです。
「大丈夫? お熱があるの?」
「ううっ! らいじょうぶれすよアベル! あまりにも……ううっ! うわぁぁぁぁん!」
アズちゃんは、ノエルとアベルを抱きしめて泣きまくりました。
ノベルが心不全で死亡したという報告の手紙でした。
◆
アズちゃんは、ノベルから消されてしまったお気に入りの服を着ています。
というのも、カナヤの仕立て屋さんで全く同じようなものを作ってもらったのです。
学生服のような見た目で、ちゃんと黒い翼を出す場所がある。
赤いスカートとニーソックス。
アズちゃんみたいな人妻さんが着ていい服装なのか少し迷いましたよ。
――主婦が着るともはや、これはコスプレです。
「ママ、どこに行くの?」
「お仕事です! しかも、とびっきり大事なお仕事ですよ!」
アズちゃんはお風呂に入って体を綺麗にして、髪の毛を綺麗に梳かして、口から血が出るまで歯を磨きました。
準備は万端です。
『慈愛の女神より。いかがお過ごしでしょうか。ノベルさんが小説の世界から去って5年の歳月が流れましたね。つまり、ノベルさんが住んでいる世界ではもう50年が経過したことになります。ノベルさんは賢いですね。ノベルメイカーの設定書き換えを使って、小説の世界の時間経過を10倍遅くするだなんて』
アズちゃんは靴紐をしっかりと結び、香水をこれでもかと服に振り撒きました。
「ママ、臭いそれ!」
「え、マジですか!? お風呂にもう一回入ってきます!」
『ノベルさんは享年77歳、心不全で亡くなりました。誰とも結婚せず、純潔のまま死を迎えました。それと、彼の小説作品はアニメ化は無理でしたが、ちゃんと漫画化までは行きましたよ。彼のことを褒めてあげてください』
「アベル! 臭くないですか!? 香水の匂いは取れましたか!?」
「臭くないけど……お仕事に行くだけなのにそんなに気にするの?」
「そりゃそうでしょう! 一世一代のイベントなのですから!」
『さて、彼は神奈川県立赤松病院の305室にいます。私が手引きいたしますので、ぜひこちらまでいらしてください。ノベルさんの魂がお待ちです』
アズちゃんは大鎌を召喚し、全身の装備を全て整えました!
完璧すぎて、ノベルもびっくり仰天するでしょう!
わははははははっ!
草の良い匂いがします。
幻想のような眩い太陽光が天から注がれています。
風で囁く雑草たちは、まるでノベルが転生してきてくれることを喜んでるように歌っています。
全てのことが、幸せに感じられます。
あの日交わした約束を、ノベルは50年もずっと忘れずにいてくれたのですね。
泣きたいけど、今泣いたら会う時に顔がグシャグシャになってしまいそうです。
なので、今は泣きません。
会ったら、ぶち泣きます。
「それじゃあ、お仕事に行ってきますよ!」
「待ってよママ! そのでっかいのを持ってどこに行くの!」
ノエルは大鎌を指差してアズちゃんのことを心配してくれました。
でも、安心していてください。
というか、期待しておいてください。
アズリエル。
生と死を司る死告天使です。
魂を刈り取って、現世の名を書物から消す――なんて、そんなのめんどくさいのでやりません。
ただ魂を刈り取るだけでいいのです。
『仮にノベルさんが死んだら、アズちゃんが真っ先に魂を刈り取って極楽へと連れて行ってあげます! 極楽も極楽、超絶極楽にです!』
そう、そういうお約束です。
なので、この約束を守らせていただきますよ。
――アズちゃんの最愛の人、ラノベヲタクのバカアホノベル!
「大好きなパパを迎えに行ってきます! それじゃあ、お留守番をよろしくお願いしますね、ノエル、アベル!」
〜fin〜
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