なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜
第37話 殺し合い
◆
亜人族。
魔力は皆無であり、魔法は一切扱うことはできない。
100年前の戦争で、妖精族と契約して魔法を使えるようにしたのもそれが理由だ。
そして亜人族の最大の特徴は、心臓がないことだ。
血液を全身に送る概念がなく、体全体が赤い組織液のみで構成されている。
骨格がなく、戦時中には体内に金属刃を仕込んだり鎧を植え込む強者もいたそうだ。
亜人族は、特定の部位が残っていればそこから徐々に再生し、無限に蘇ることが出来る。
基本的には頭部から再生し、切り落とされるとその肉は空気に溶けて消える。
バラバラの細切れになると、頭部にある特殊な部位『核』から優先して再生される。
そんな亜人族だが、死ぬ方法が大きく3つある。
1つ目は、寿命で息絶えること……亜人族にのみ見られる癌による病死や老衰だ。
2つ目は、再生するはずの細胞全てが魔力によって分解されること。
再生スピードが追い付かず、魔力に溶けてなくなるらしい。
そして3つ目。
――擬似徹甲弾による、亜人族特有の再生能力を司る組織を撃ち抜く的確なヘッドショット。
顳顬と向こう側の顳顬を結ぶあたりにコーヒー豆ほどの『核』があり、再生スピードを上回る速さで細かく砕くと2度と再生できないらしい。
これらが、亜人族の絶命方法である。
戦争の際、新竜人族の魔力迎撃は大地全てを燃やし尽くすほどの大魔法で、魔力に弱い亜人族は一斉に消失したのだそうだ。
ステイプラーの契約者だった亜人族の少年も、ヘッドショットで絶命している。
どちらにしても、亜人族は『再生能力器官・核を潰される』ことが弱点なのである。
◆
俺とイレイザーは、ハイライターと稽古をしている闘技場に足を運んだ。
広さは一般的な体育館くらいで、魔法を使った戦闘をするには十分な広さだ。
そんなことよりも!
アズリエルとステイプラーは観客席で俺の晴れ舞台を見物しに来てくれてる!
うおぉアズリエル!
お前にカッコいいところを見せて、ハートをズッキュン射止めてやるぞ!
「本当、男という生き物は闘争が好きですよね。アズちゃんは早く部屋に帰って漫画を読みたいです」
あ、そんなこと言うなって!
全部聞こえてんぞ、アズリエル!
新竜人族は地獄耳なんだからな!
「そんなこと言わないでください師匠。ノベルのカッコいいところが見れますよ!」
「……カッコいいところを見せてくれるのなら、仕方なくアズちゃんが見てあげなくもないですけど」
は、顔が赤くなった!
可愛いぞアズリエル〜!
「あのぉ。本当に良いんスか? マスターには許可とってるっスよね?」
「あぁ、心配ないぞイレイザー! 俺様がマスターに戦闘許可申請を頂きに行ったところ、『死んだら殺すから』との仰せだ!」
――親父、何回殺す気だよそれ。
「……それと、ノベルくんは知らないんスかね? 僕は亜人族で、君のレベルなんかじゃ戦闘不能には出来ないと思うっスよ? 爆撃や雷撃を知らない君なんかじゃ、僕に勝ち目は無いっスよぉ。悪いことは言わないっス。諦めてください!」
「そういうわけにもいかねぇ。俺が勝ったら、死んでもイレイザーをルーラーに会わせる! 俺が負けたら、もう無理強いはしないさ。いいな?」
俺はどんな大きさのアイテムでも10個だけ入る四次元バッグを改造し、ベルトにくっつける。
四次元の効力を発揮するチャックだけを切り抜き、小型の布にそれをセロハンテープで貼り付けた。
これで、戦闘しながら10個限定でアイテムを取り出すことが出来る!
「それに、俺はお前に初めて会った時とは比べものにならないくらい強くなった。4ヶ月の地獄の鍛錬、そしてステイプラーの能力も受け継いだ。ただの無力じゃない」
「だとしても、ステイプラーは僕より弱いっス。僕はNO.2の称号を持つんスよ? たかがNO.3ごときの能力を借りたところで、ね?」
「そんなの関係ない! ノベルはノベルの得意技がある! イレイザーは言い方が意地悪! ほんと、嫌い!」
「ああそうっスか! 僕だって君のことなんか1ミリも好きじゃないっス、この漬物女!」
「誰が漬物なの!」
「寝てばっかりじゃないスか。よくもまぁそんなボサボサの髪でここに来たってスね。これだから妖精族は」
「ムキー! 私、イレイザーは嫌い! いー!」
イレイザーの発言に反応し、ステイプラーがガヤを飛ばす!
なんだ、こいつら仲が悪いのか?
そういや、亜人族と妖精族は歴史的には犬猿の仲になるのか。
ステイプラーからすれば亜人族は好きだが、イレイザーからすれば妖精族は忌み嫌う存在に映るのか。
あー、歴史って本当に面倒だな。
100年前の話なんだから仲良くしろよなマジで。
「その通りだステイプラー。俺は俺なりに能力を使うさ。――俺が転生する時に女神様からもらったこの『武器』でな!」
俺はベルトに手を突っ込み、取り出したいものを念じた!
すると、ベルトから1冊のノートとペンが飛び出したのだ!
「こいつが俺の最強武器・『ノベルメイカー』だ! このノートに書けば、世界のバランスが崩れない程度なら設定の書き換えができるって代物だ!」
「え? それって前に『日記帳』だって言ってたやつっスよね?」
「あれ、実は嘘なんだ。すまんな」
俺はノートとペンを見せびらかすと、イレイザーは「どう言うことすか」と目を点にする。
そりゃまぁ最初はそういう顔になるわな。
自分で説明してて意味わからんし。
「あぁ! 何をやってるんですかノベル! 政府の人間にはノベルメイカーの秘密は隠しておくって言ったでしょう!」
「状況が変わったんだよアズリエル。それは政府の獣人差別について疑問を持っていた時の発言だ。だがマスターが親父だと分かり、獣人がこの街に立ち入ってはならない理由が獣人のためであるときた。カナヤの傭兵たちはみんな俺たちの仲間だよ」
そう、政府の人間はみんな敵ではない。
このノートの存在がこの人たちに知れたとしても、ハイライターとイレイザーはこれを盗もうなんてしない。
なぜならば、俺が信じた仲間だからだ。
「……得体の知れない防御魔力の正体はそれだったんスね。致命傷の怪我を受けてもピンピンしてたのはそのノベルメイカーの設定の書き換え……とかでダメージを受けなくしたからスか?」
「そういうことだ。あの時は悪かったな。説明したかったが、まだお前を信用できなかったんだ。ま、今は信用してんだぜ?」
説明していると、ハイライターは突然ハッと何かに気づいた様子。
「マスターが言っていた『設定の書き換え』とはそれのことか! 魔導書が使い物にならなくなった事も、全ての書物がニホンゴになったとマスターが嘆いていた元凶も、全てそのノートのせいなのか……」
「なぁるほどっス。学生の頃、詠唱文を頑張って練習してたなんて意味不明な記憶が残ってるのは、ノベルくんが設定を弄ったからなんスね?」
「そういう事。今更だがすまんな勝手に世界を弄って。努力して詠唱を覚えてたところ悪いが、魔法が簡単に撃てるようになったって割り切ってくれ」
「まあ、詠唱が簡単になったから良いんすよ?良いんすけど……そんな、世界の理を書き換える魔法なんかズルすぎっスよ。そんなの武器として使われたら」
イレイザーは恐れ慄き、ノベルメイカーを見て口を歪める。
ははは、これを使えば俺はほぼ無敵状態だぜ、ふははははー!
なぁんてな。
「あぁ。これで戦うってのは嘘だよ、イレイザー。お前にこれを自慢したかっただけ〜」
と、俺はバッグにペンとノートを戻した。
「あら、使わないんスか?!」
イレイザーはズッコケって感じで空を見上げた。
そりゃ、こんなの使って戦闘なんてできっかよ。
設定弄りながら戦うとか無理ゲーも良いところだっつの。
設定を書き換える時に風景が歪んで見える時があるし、書いてる間に攻撃されるし、そもそもテーブルがなきゃ文字は書けねぇよ!
――それに、ハイライターとイレイザーにはノートの姿を見せてやりたかった。
なぜならば、俺は特にこの2人を信頼しているからだ。
兄貴分のハイライター、心優しいイレイザー。
俺は、この2人には異世界に帰る前に全てを教えてやりたかったんだ。
――そして、俺は彼の発言からあることを思い出す。
亜人族は基本的に魔法は扱えない。
亜人族が魔法を扱えるようになるのは、妖精族の契約の適性によるもの。
イレイザーは学生の頃に妖精族と契約をして魔法適性を持ち、魔法を撃つために練習をしていたと言った。
彼の使える魔法は少なくとも『回復魔法』が存在する。
ちょうど、俺が大怪我を負っていた時に万能って言っていいほどの超回復魔法を見せてくれた。
つまり、イレイザーに従属している妖精族は恐らく『回復属性』!
亜人族の回復力ってだけで厄介なのに、妖精族の回復魔法もかけ合わさったら、もはや無敵状態に近いんじゃないか?!
「ううん……。分かったっスよ。ノベルくんがそんなに僕と戦いたいなら僕も拒まないっス。それに、新しく得た力が強いかどうかの試し撃ちに僕を使おうとしないで欲しいっス」
「……あ、バレた?」
俺は頭をかいて2番目の目的がバレてしまったことを肯定する。
そう、俺は1度でもいいから試してみたかった。
――そこら辺のクソラノベ主人公のチートスキルじゃなくとも、この街のNO.2レベルが倒せるのかどうかを!
それに、俺は現世に帰る前にイレイザーと試合をしてみたかったんだ。
異世界に来て初めて強いと感じたお前を負かせるかどうかの一大テストだ!
「僕も久しく模擬戦闘をしてなかったから少しだけ疼いてたんスよ。僕は弱者を嬲るのはあまり好きじゃない。でも、ハイライターの過酷な鍛錬を乗り越え、ステイプラーの能力を受け継ぎ、『女神様』って存在から加護を受けている事もわかった。そんなことを聞いたら、なんだか手加減とか馬鹿みたいっス」
「燃えてきたみたいだが、本来の目的は『ルーラーとの面会』をかけた勝負だかんな? それで、俺の条件は飲むのか?」
「分かったっス。僕も駄々をこねる子供じゃない。勝負、引き受けたっス。ただし、僕には加減なんてないっスよ? 死にかけたら、この前みたいに回復魔法をゴリゴリかけてあげるっス」
イレイザーは珍しく眉間にシワを寄せ、素早いバック転で俺から距離をとった。
しなやかな骨格の動きと人間業ではあり得ない体の柔らかさ。
亜人族には骨と臓器が存在しないって話はマジマジのマジだな。
あぁ、だったら亜人族って飯食うのに、どうやって消化してうんこするんだろう。
「僕の名前はイレイザー・テイルズ。このカナヤの傭兵ではNO.2、武器は必要無し。マスターに教わった『拳法』で戦わせていただくってス」
「俺の名はノベル。順番が繰り下がるなら、俺はカナヤの傭兵ではNO.7か? 戦闘方法は銃による遠距離攻撃を採用させていただく」
そして俺とイレイザーはお互いに構え、場の空気は一気に仕上がった。
緊張感によって高鳴る心臓、今までにないほど肌がビリビリと震え立ち、イレイザーのにこやかで覇気のある表情にビビって足が竦む。
「では、始めさせてもらうぞ! 審判はこの俺様、ハイライターが務める! 戦闘不能、または10秒間立てなかった場合、そして俺様が審判を下した時点でその者は敗北とする! では、これよりイレイザー対ノベルの試合を開始する!」
――これで勝たなきゃ、きっとイレイザーは本当にルーラーと生涯会うことはない!
仮に俺が負けでもすれば、彼のプライドの高さから察するに間違いなくルーラーには会いにいけなくなる!
負けられない、イレイザーのためにもルーラーのためにもこの試合は絶対に負けられないんだ!
「それでは、始めっ!!!!!!」
亜人族。
魔力は皆無であり、魔法は一切扱うことはできない。
100年前の戦争で、妖精族と契約して魔法を使えるようにしたのもそれが理由だ。
そして亜人族の最大の特徴は、心臓がないことだ。
血液を全身に送る概念がなく、体全体が赤い組織液のみで構成されている。
骨格がなく、戦時中には体内に金属刃を仕込んだり鎧を植え込む強者もいたそうだ。
亜人族は、特定の部位が残っていればそこから徐々に再生し、無限に蘇ることが出来る。
基本的には頭部から再生し、切り落とされるとその肉は空気に溶けて消える。
バラバラの細切れになると、頭部にある特殊な部位『核』から優先して再生される。
そんな亜人族だが、死ぬ方法が大きく3つある。
1つ目は、寿命で息絶えること……亜人族にのみ見られる癌による病死や老衰だ。
2つ目は、再生するはずの細胞全てが魔力によって分解されること。
再生スピードが追い付かず、魔力に溶けてなくなるらしい。
そして3つ目。
――擬似徹甲弾による、亜人族特有の再生能力を司る組織を撃ち抜く的確なヘッドショット。
顳顬と向こう側の顳顬を結ぶあたりにコーヒー豆ほどの『核』があり、再生スピードを上回る速さで細かく砕くと2度と再生できないらしい。
これらが、亜人族の絶命方法である。
戦争の際、新竜人族の魔力迎撃は大地全てを燃やし尽くすほどの大魔法で、魔力に弱い亜人族は一斉に消失したのだそうだ。
ステイプラーの契約者だった亜人族の少年も、ヘッドショットで絶命している。
どちらにしても、亜人族は『再生能力器官・核を潰される』ことが弱点なのである。
◆
俺とイレイザーは、ハイライターと稽古をしている闘技場に足を運んだ。
広さは一般的な体育館くらいで、魔法を使った戦闘をするには十分な広さだ。
そんなことよりも!
アズリエルとステイプラーは観客席で俺の晴れ舞台を見物しに来てくれてる!
うおぉアズリエル!
お前にカッコいいところを見せて、ハートをズッキュン射止めてやるぞ!
「本当、男という生き物は闘争が好きですよね。アズちゃんは早く部屋に帰って漫画を読みたいです」
あ、そんなこと言うなって!
全部聞こえてんぞ、アズリエル!
新竜人族は地獄耳なんだからな!
「そんなこと言わないでください師匠。ノベルのカッコいいところが見れますよ!」
「……カッコいいところを見せてくれるのなら、仕方なくアズちゃんが見てあげなくもないですけど」
は、顔が赤くなった!
可愛いぞアズリエル〜!
「あのぉ。本当に良いんスか? マスターには許可とってるっスよね?」
「あぁ、心配ないぞイレイザー! 俺様がマスターに戦闘許可申請を頂きに行ったところ、『死んだら殺すから』との仰せだ!」
――親父、何回殺す気だよそれ。
「……それと、ノベルくんは知らないんスかね? 僕は亜人族で、君のレベルなんかじゃ戦闘不能には出来ないと思うっスよ? 爆撃や雷撃を知らない君なんかじゃ、僕に勝ち目は無いっスよぉ。悪いことは言わないっス。諦めてください!」
「そういうわけにもいかねぇ。俺が勝ったら、死んでもイレイザーをルーラーに会わせる! 俺が負けたら、もう無理強いはしないさ。いいな?」
俺はどんな大きさのアイテムでも10個だけ入る四次元バッグを改造し、ベルトにくっつける。
四次元の効力を発揮するチャックだけを切り抜き、小型の布にそれをセロハンテープで貼り付けた。
これで、戦闘しながら10個限定でアイテムを取り出すことが出来る!
「それに、俺はお前に初めて会った時とは比べものにならないくらい強くなった。4ヶ月の地獄の鍛錬、そしてステイプラーの能力も受け継いだ。ただの無力じゃない」
「だとしても、ステイプラーは僕より弱いっス。僕はNO.2の称号を持つんスよ? たかがNO.3ごときの能力を借りたところで、ね?」
「そんなの関係ない! ノベルはノベルの得意技がある! イレイザーは言い方が意地悪! ほんと、嫌い!」
「ああそうっスか! 僕だって君のことなんか1ミリも好きじゃないっス、この漬物女!」
「誰が漬物なの!」
「寝てばっかりじゃないスか。よくもまぁそんなボサボサの髪でここに来たってスね。これだから妖精族は」
「ムキー! 私、イレイザーは嫌い! いー!」
イレイザーの発言に反応し、ステイプラーがガヤを飛ばす!
なんだ、こいつら仲が悪いのか?
そういや、亜人族と妖精族は歴史的には犬猿の仲になるのか。
ステイプラーからすれば亜人族は好きだが、イレイザーからすれば妖精族は忌み嫌う存在に映るのか。
あー、歴史って本当に面倒だな。
100年前の話なんだから仲良くしろよなマジで。
「その通りだステイプラー。俺は俺なりに能力を使うさ。――俺が転生する時に女神様からもらったこの『武器』でな!」
俺はベルトに手を突っ込み、取り出したいものを念じた!
すると、ベルトから1冊のノートとペンが飛び出したのだ!
「こいつが俺の最強武器・『ノベルメイカー』だ! このノートに書けば、世界のバランスが崩れない程度なら設定の書き換えができるって代物だ!」
「え? それって前に『日記帳』だって言ってたやつっスよね?」
「あれ、実は嘘なんだ。すまんな」
俺はノートとペンを見せびらかすと、イレイザーは「どう言うことすか」と目を点にする。
そりゃまぁ最初はそういう顔になるわな。
自分で説明してて意味わからんし。
「あぁ! 何をやってるんですかノベル! 政府の人間にはノベルメイカーの秘密は隠しておくって言ったでしょう!」
「状況が変わったんだよアズリエル。それは政府の獣人差別について疑問を持っていた時の発言だ。だがマスターが親父だと分かり、獣人がこの街に立ち入ってはならない理由が獣人のためであるときた。カナヤの傭兵たちはみんな俺たちの仲間だよ」
そう、政府の人間はみんな敵ではない。
このノートの存在がこの人たちに知れたとしても、ハイライターとイレイザーはこれを盗もうなんてしない。
なぜならば、俺が信じた仲間だからだ。
「……得体の知れない防御魔力の正体はそれだったんスね。致命傷の怪我を受けてもピンピンしてたのはそのノベルメイカーの設定の書き換え……とかでダメージを受けなくしたからスか?」
「そういうことだ。あの時は悪かったな。説明したかったが、まだお前を信用できなかったんだ。ま、今は信用してんだぜ?」
説明していると、ハイライターは突然ハッと何かに気づいた様子。
「マスターが言っていた『設定の書き換え』とはそれのことか! 魔導書が使い物にならなくなった事も、全ての書物がニホンゴになったとマスターが嘆いていた元凶も、全てそのノートのせいなのか……」
「なぁるほどっス。学生の頃、詠唱文を頑張って練習してたなんて意味不明な記憶が残ってるのは、ノベルくんが設定を弄ったからなんスね?」
「そういう事。今更だがすまんな勝手に世界を弄って。努力して詠唱を覚えてたところ悪いが、魔法が簡単に撃てるようになったって割り切ってくれ」
「まあ、詠唱が簡単になったから良いんすよ?良いんすけど……そんな、世界の理を書き換える魔法なんかズルすぎっスよ。そんなの武器として使われたら」
イレイザーは恐れ慄き、ノベルメイカーを見て口を歪める。
ははは、これを使えば俺はほぼ無敵状態だぜ、ふははははー!
なぁんてな。
「あぁ。これで戦うってのは嘘だよ、イレイザー。お前にこれを自慢したかっただけ〜」
と、俺はバッグにペンとノートを戻した。
「あら、使わないんスか?!」
イレイザーはズッコケって感じで空を見上げた。
そりゃ、こんなの使って戦闘なんてできっかよ。
設定弄りながら戦うとか無理ゲーも良いところだっつの。
設定を書き換える時に風景が歪んで見える時があるし、書いてる間に攻撃されるし、そもそもテーブルがなきゃ文字は書けねぇよ!
――それに、ハイライターとイレイザーにはノートの姿を見せてやりたかった。
なぜならば、俺は特にこの2人を信頼しているからだ。
兄貴分のハイライター、心優しいイレイザー。
俺は、この2人には異世界に帰る前に全てを教えてやりたかったんだ。
――そして、俺は彼の発言からあることを思い出す。
亜人族は基本的に魔法は扱えない。
亜人族が魔法を扱えるようになるのは、妖精族の契約の適性によるもの。
イレイザーは学生の頃に妖精族と契約をして魔法適性を持ち、魔法を撃つために練習をしていたと言った。
彼の使える魔法は少なくとも『回復魔法』が存在する。
ちょうど、俺が大怪我を負っていた時に万能って言っていいほどの超回復魔法を見せてくれた。
つまり、イレイザーに従属している妖精族は恐らく『回復属性』!
亜人族の回復力ってだけで厄介なのに、妖精族の回復魔法もかけ合わさったら、もはや無敵状態に近いんじゃないか?!
「ううん……。分かったっスよ。ノベルくんがそんなに僕と戦いたいなら僕も拒まないっス。それに、新しく得た力が強いかどうかの試し撃ちに僕を使おうとしないで欲しいっス」
「……あ、バレた?」
俺は頭をかいて2番目の目的がバレてしまったことを肯定する。
そう、俺は1度でもいいから試してみたかった。
――そこら辺のクソラノベ主人公のチートスキルじゃなくとも、この街のNO.2レベルが倒せるのかどうかを!
それに、俺は現世に帰る前にイレイザーと試合をしてみたかったんだ。
異世界に来て初めて強いと感じたお前を負かせるかどうかの一大テストだ!
「僕も久しく模擬戦闘をしてなかったから少しだけ疼いてたんスよ。僕は弱者を嬲るのはあまり好きじゃない。でも、ハイライターの過酷な鍛錬を乗り越え、ステイプラーの能力を受け継ぎ、『女神様』って存在から加護を受けている事もわかった。そんなことを聞いたら、なんだか手加減とか馬鹿みたいっス」
「燃えてきたみたいだが、本来の目的は『ルーラーとの面会』をかけた勝負だかんな? それで、俺の条件は飲むのか?」
「分かったっス。僕も駄々をこねる子供じゃない。勝負、引き受けたっス。ただし、僕には加減なんてないっスよ? 死にかけたら、この前みたいに回復魔法をゴリゴリかけてあげるっス」
イレイザーは珍しく眉間にシワを寄せ、素早いバック転で俺から距離をとった。
しなやかな骨格の動きと人間業ではあり得ない体の柔らかさ。
亜人族には骨と臓器が存在しないって話はマジマジのマジだな。
あぁ、だったら亜人族って飯食うのに、どうやって消化してうんこするんだろう。
「僕の名前はイレイザー・テイルズ。このカナヤの傭兵ではNO.2、武器は必要無し。マスターに教わった『拳法』で戦わせていただくってス」
「俺の名はノベル。順番が繰り下がるなら、俺はカナヤの傭兵ではNO.7か? 戦闘方法は銃による遠距離攻撃を採用させていただく」
そして俺とイレイザーはお互いに構え、場の空気は一気に仕上がった。
緊張感によって高鳴る心臓、今までにないほど肌がビリビリと震え立ち、イレイザーのにこやかで覇気のある表情にビビって足が竦む。
「では、始めさせてもらうぞ! 審判はこの俺様、ハイライターが務める! 戦闘不能、または10秒間立てなかった場合、そして俺様が審判を下した時点でその者は敗北とする! では、これよりイレイザー対ノベルの試合を開始する!」
――これで勝たなきゃ、きっとイレイザーは本当にルーラーと生涯会うことはない!
仮に俺が負けでもすれば、彼のプライドの高さから察するに間違いなくルーラーには会いにいけなくなる!
負けられない、イレイザーのためにもルーラーのためにもこの試合は絶対に負けられないんだ!
「それでは、始めっ!!!!!!」
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