なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜

安田 孔明

第30話 心への銃撃

 ◆

 ラノベの主人公は、なんだかんだ言って女性的性が極めて高い。
 出会って数秒の女性に抱きつかれたり、風呂で素っ裸の女性と出会っても焦るだけでそれ以降は冷静だ。

 ◆

 ただ、俺はずっと気が気じゃないってくらい緊張状態が続いてるんだけど!
 なんだってんだ異世界生活!
 突然、妖精族の女性の抱き枕にされて、ずっと一緒に寝てんだ!
 落ち着かないぞ、一切この状況に慣れないぞ!

「ノベル。もぞもぞしないで」

「そろそろ寝疲れたよ俺! もう丸一日も寝てんだぞ!」

 ――そう、あれから24時間が経過した。
 時計の針は2周回って、朝の9時。
 それだと言うのにステイプラーは未だに眠そうな声を出して俺に抱きつくのである!

「まだ起きるには早い。このまま私の抱き枕に……くー」

「いや、そろそろイイっしょ! 俺はここに寝に来たんじゃない! 銃学を教わりに来たの!」

「だから、今教えてる。ノベルはじっとしてるだけでいい」

 それがもう限界なんですわ!
 言っておくけど、俺は毎日グータラしている時間はないのだ!
 こうして俺が寝ている間も、昨日逃してしまった麻薬の密売人が1人の人間の脳を侵す薬を売り捌いてるかもしれない!
 俺はこれ以上、待つ事はできないんだ!

「すまん、ステイプラー! 俺にはもっとやるべき事があるんだ! だから俺は」

「ノベルは待つの、嫌い?」

 ステイプラーの手が急に緩まった。
 今までは俺を逃さないために強く抱きしめてくれていたのに。

「……これはお勉強。強者は待てる。強者は焦らない」

「た、確かにそうだが」

「だったら、ノベルは待てる。罠使いの君なら」

 ――罠使い!
 まさか、俺とハイライターが朝早くから稽古していたのをずっと見てたとでも言うのか?!
 闘技場にフリントロック式銃がぶら下がっていたのだとすれば、『風景念射スクリーンショット』で観察はできていたはず。

「ノベルは賢い子。獲物が間合いに入るのを待って、殺さない子。無力化を最優先にする子。だから私は思う。君の最適性武器は『銃』だって」

 ステイプラーは手を離すと、ベッドの中でもぞもぞと動き始める。

「私はいつも考えてた。この世界から武器がなくなれば、戦いは無くなるんだって。だけど、それは夢の中の夢。人は人を殺すために武器を作る。でも、私は戦いたくない。だから、私は遠距離武器である『銃』を学んだ。相手を無力化するための脅威、戦う意思を削ぐための最高の武器。私は『抑止力』になりたい。そのために、傭兵になったんだから」

「……ステイプラー」


 彼女は、誰よりも立派な狩人だ。
 初めから、戦うつもりは毛頭ない。
 殺すための技術を学ばず、どうすれば相手が降参してくれるか。
 そればかりを考えて生きてきた。

 ――彼女の心の中が俺の中に流れ込んでくる。
 まるで俺とステイプラーが1つになったみたいだ。
 これはきっと、妖精族特有の魔力なのだろう。
 一緒に居続ける事で、木と木が絡まって1つの命になったかのような心地に落ち着く。

「ノベル。万歳して」

「万歳? あぁ」

 俺はステイプラーに言われるがままに両手を耳につけた。
 すると、ステイプラーは俺の隊服を引っ張って胸辺りまであげたのである!

「ば、バカ何してんだ!」

「効率をあげたい」

「効率って、俺とお前の肌を密着させてシンクロ率を上げるとかそう言う感じか?!」

「分かってるなら服を脱いで。一気に加速させる」

 ……まさか、まさか!
 さっき、俺の後ろでもぞもぞしてたのって!

「おま、まさか全部服脱いでるのかお前?!」

「そう。どうして焦ってるの?」

「どうしてって! あぁ、妖精族ってのは裸になるのが好きなのかよ!」

「好きだよ。だって、涼しいし」

 お前個人に聞いてるんじゃない!
 あぁ、本当に俺の自我よ保ってくれ!
 本当に理性が吹き飛びそうでやばいぞこのままじゃ!

 ◆

 俺は、すっぽんぽんだ。
 ステイプラーもすっぽんぽんだ。
 男と女が2人すっぽんぽんで、ベッドの中にいて、肌と肌を擦ってる。
 何この状況、どう言うことか説明してくれ異世界!

「力を抜いてノベル。最後の仕上げをするから」

「仕上げ……ですか?!」

 ドキドキが止まらないし、期待でいろいろなところがウズウズする!
 すると、ステイプラーの生のおっぱいが背中に当たり、全身の神経が反応してビリビリする!
 彼女の両手が俺の手に触れて、耳元に再び彼女の唇が!

「ノベル。伝わってる?」

「伝わってます伝わってます! そりゃもう限界になるくらい!」

「そう。それじゃ、おやすみ」

 まだ寝るのかよ、もういいよ!
 ……でも、寝るしかないよな。
 ステイプラーのやっていることは、なんだかんだ意味のないことはなかった。
 こうして直接肌をくっつけ合うことも、効率上昇のためだし。
 ここは彼女の言う通り、眠って力をもらおうじゃないか。
 妖精族の『力を分け与える』能力を信じてな。

 ◆


「私には、殺していい人といけない人の違いがわからない」

 ぶはっ!
 なんだここ!
 水の中か、海の中か?!
 口からぶくぶくと泡が出ているのに、なぜか呼吸はできている。
 恐らく、ここは夢の中だ!
 ステイプラーの能力で夢の中を泳ぐ事ができている……と考えていいだろう。

「やぁ、ノベル。やっとここに来てくれたんだね」

 この声は、ステイプラーか?!
 俺はその声を聞いて振り返ると、そこには短髪黒髪の美少女がゆらりゆらりと泳いでいた。
 目の色は青色で、綺麗な花の髪飾りがきちんと付けられている。
 随分と小柄で、ステイプラーの面影はあれど、見た目は小学生くらいだ。

「そう。私はステイプラー。ただし、もう100年も前の姿だ」

「ど、どう言うことだ?」

「この頃の私は、随分と酷い仕打ちを受けたんでね。心が壊れたまま大人になってしまったんだ」

「――つまり、君は100年前の『酷い仕打ち』を受ける前のステイプラーなのか?」

「そう言うことさ。私はステイプラーが壊れてしまう前の私。普通の女の子だった頃の記憶の末端なんだ」

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