なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜
第25話 獣人狩り
親父が亡くなった後、社会情勢や思想に疎かった俺は、本を読み始めた。
ラノベという魔導書だったけど、その結果として俺は自分の世界を描くことができている。
全て、親父が作り出してくれた『光』だ。
だから俺は、『風』になりたい。
俺がみんなを後押しする強い影響力になりたいのだ。
「それと、謝っておきたいことがある。ルーラーさん。君にだ」
「へ、私ですか?」
「そうだ。獣人である君に謝りたい。この街に『獣人は出歩くな』と触書きを出したのは私だ。その結果、君は私の部下の者が多大な迷惑をかけた。心から詫びよう」
親父はルーラーの前で、深々と頭を下げる。
そうだった!
親父、獣人族になんて酷いことをしやがる!
「いいえ! もう4ヶ月前の話ですし! それに、ここまで優遇されてとても感激です!」
ルーラーはウサミミをぴょこっとする。
――それにしても、どうして親父は獣人族が街を出歩くのを禁止したんだ?
そんなことをしなければこんな事件は起きなかったというのに。
「私が悪党に見えるかタクヤ? 以前、私の法律に文句を言ったようだが」
「そういう訳じゃないよ。ただ、獣人族に酷いなって」
「……すまんな。ただ、この法律は獣人を虐げたいが目的で触書きを出したわけではない。『守るため』に出したのだ」
「えっ?」
その一言の瞬間、俺の頭の中は逆回転を始めた。
時々、少数派が正しいことがある。
だが、多数派の方が意見が優先されてしまうことは言うまでもない。
その現象が、この発言では起きているのだ。
「――以前、この街では『獣人狩り』が流行った。獣人の村から何匹かの孅い娘を連れ帰り、需要のある風俗店や皮を剥いでバッグを売る違法店で売買されていた」
「えっ、そんなっ! だったら私……」
「私は仕方がなく、『獣人族は立ち入り禁止』にしたのだ。少しでも犠牲を減らすために、死した彼女たちに少しでも細やかな弔いをするために――」
「マスター! そんなこと、そんなこと言わないでください!」
ルーラーとアズリエルは過敏に反応し、ルーラーはその場で崩れてしまう!
「おい、どうしたルーラー!」
「そんな……。大丈夫だって言ったのに」
「ど、どうしたのかね! 私が今、まずいことを」
「言いましたよ、どうしてルーラーの前でそんなことを言うんですか!」
アズリエルは親父に向かって怒鳴り散らす!
ルーラーはウサミミを畳んでその場でおいおいと泣き始める!
――あらかた見当が付く。
4ヶ月前。
どうしてルーラーがこの街に『入ってはいけない』と書いてあるにも関わらず、中心街を彷徨っていたのか――。
「ルーラーのお姉さんは、この街の悪党に拉致されてしまったそうです! ちょうど4ヶ月前に! なのに、どうしてそんなことを」
「な、なんと! そのような報告は受けてないぞ?! どう言うことなんだハイライター君!」
「わ、私もそのような報告は受けておりません! ……まさか、イレイザーの独断か?」
ハイライターは立ち上がると、その場で敬礼をする!
「失礼しますマスター! これより、イレイザーをここへと連れて参ります!」
「あぁ! 任せたぞ!」
「やめてください! イレイザー様は悪くないのです! 私が、私がイレイザー様にお願いしたのです! 『一緒にお姉さんを探す』と。だから、私はこの街に留まってずっと探し続けました!」
ルーラーは泣きながら両手で顔を覆った。
この絶望的な状況の中、俺はこの街についてよく知る2人の顔を眺めた。
――あぁ。
そんな顔をするのはやめてくれよ、そんな顔を絶対にルーラーに見せてはダメだ!
「……イレイザー君は優しすぎる。きっと、ルーラーさんに希望を持たせるために言ってくれたのだろう」
「ただ、イレイザーの私欲なのかもしれない。ルーラーをこの街に留めさせておきたいがために……」
親父とハイライターは床を眺め、ぐっと拳を握った。
――奴隷というものは、大体が使い捨てだ。
だから、奴隷の売買が無くなる事はない。
それに、すでに4ヶ月も経っているのにルーラーのお姉さんは一向に見つからない。
そうなると――。
「イレイザーが早急に俺様に報告しておけば、奴隷商は根絶やしにできたかもしれない! あの男の甘さが、ルーラーを傷つけていると知らないのか!」
「やめてくださいそういう言い方! アズちゃん、本当に怒りますよ!」
「だが、知っておいた方がいいこともある。ルーラーさん。――獣人族の売買は拉致されてから1ヶ月周期で訪れる。望郷の念を消すために、獣人に特効の薬を打つ。それは劇薬で、獣人の脳を破壊し続ける。拉致されてから1ヶ月周期で拉致されるその理由は、『獣人の消費期限が1ヶ月』だからだそうだ」
親父は顔を抱え、絶望の顔を浮かべるルーラーを見たくないと言った感じだ。
そう、ルーラーは知るべきである。
これ以上苦しまないために、絶望に頭打ちする必要があるのだ。
これが、今のルーラーの精神を傷つけないための最低限の配慮だった。
――放置されたまま心が擦り減るくらいなら、ここで希望を潰しておいたほうが優しい選択であると、親父は判断したのだろう。
「嘘っ……嘘嘘! 嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルーラーの叫びが広い空間に響き渡る。
窓ガラスは彼女の声で揺れ、積まれていた本がバサリと落ちた。
そして、事務所内が静まり返る。
ルーラーはあまりの衝撃により、気を失うように眠ってしまった。
よほどストレスを感じていたのだろう。
姉が不純な理由で死んだ。
失神してしまうには十分過ぎる理由である。
本当に、もう俺たちができる事はないのか?
ルーラーのためにできる事はないのか?
「……傭兵がいたら、人は救えるのか?」
俺は拳を握りしめる!
どうして人が死ななければならない?
どうしてこのようなことが裁かれない!
「どうしたらこんな悲しみが根絶できるんだ! 俺がもっと早く覚醒していれば、人が救えたのかもしれない!」
「た、タクヤ……!」
「俺がもっと強くなれたら! もっと多くの人を笑顔にできるはずだ! これ以上、俺は誰も悲しませるような事はさせない! 俺が強くなれば、俺が強くなればっ!」
気づけば、俺の周りには雷が走り、口からは無秩序に炎が飛び出す。
俺は至って冷静に、怒っている。
こんな理不尽が許されていいのか?!
敵は人間だなんてありえるのかこの異世界!
「の、ノベル……!」
「分かってるよハイライター。俺は傭兵になるよ。そもそも、カナヤの傭兵になるかの最終決議をここでするつもりだったんだろう?」
「そ、その通りだが……。いいんだなノベル? ここまでしておいてなんだが、傭兵になる事は絶対に強要しない。俺様たちの仕事はただカナヤを守るだけじゃない。救援依頼を受けて汚れ仕事をするし、肉を裂いて血を見ることも珍しくない。多数のために、少数を切り捨てることだってある。それでも、お前はいいんだな?」
「それでも、俺は悲惨な現状を前にして怯える事はしない! 俺はそのためにこの世界に転生してきたんだ! 命を救い、悲しみを根絶する!」
俺は拳を握りしめ、側頭部の痛みを押し殺した!
このままじゃダメなんだと、俺の心の中の俺が訴えかけてくる!
これは偽善じゃない、心の底から思える善だ!
「……よく言った、タクヤ。最初からそのつもりでお前を鍛えたのだからな。私にも迷いがあった。本当に息子をこの仕事に就けていいのかと。ただ、お前のその信念を聞けて深く安心した!」
親父は腕を組むと、俺の目の前に来て叫ぶのである!
「転生者・ノベル! このマスターが、お前をカナヤの傭兵として命を賭すことを任命する! 救済と信頼を重んじ、世のため人のために生命を捧げよ!」
「イエス、サー!」
俺は親父に向けて敬礼をする。
俺はこれで、本物のカナヤの傭兵として勤務することが決まる。
もう、迷いなど1つもない。
獣人の未来を守るため、ルーラーのような悲しみをなくすため、明日を生きようとする人のために俺は戦う!
「では、アズリエルさん。ノベルをどうかよろしく頼むからね?」
「は、はいお父さん! アズちゃんが全力でノベルをサポートします! 心配はご無用です!」
――俺とアズリエルは、こうしてカナヤの未来を担う傭兵として働くことが決定したのだ!
ラノベという魔導書だったけど、その結果として俺は自分の世界を描くことができている。
全て、親父が作り出してくれた『光』だ。
だから俺は、『風』になりたい。
俺がみんなを後押しする強い影響力になりたいのだ。
「それと、謝っておきたいことがある。ルーラーさん。君にだ」
「へ、私ですか?」
「そうだ。獣人である君に謝りたい。この街に『獣人は出歩くな』と触書きを出したのは私だ。その結果、君は私の部下の者が多大な迷惑をかけた。心から詫びよう」
親父はルーラーの前で、深々と頭を下げる。
そうだった!
親父、獣人族になんて酷いことをしやがる!
「いいえ! もう4ヶ月前の話ですし! それに、ここまで優遇されてとても感激です!」
ルーラーはウサミミをぴょこっとする。
――それにしても、どうして親父は獣人族が街を出歩くのを禁止したんだ?
そんなことをしなければこんな事件は起きなかったというのに。
「私が悪党に見えるかタクヤ? 以前、私の法律に文句を言ったようだが」
「そういう訳じゃないよ。ただ、獣人族に酷いなって」
「……すまんな。ただ、この法律は獣人を虐げたいが目的で触書きを出したわけではない。『守るため』に出したのだ」
「えっ?」
その一言の瞬間、俺の頭の中は逆回転を始めた。
時々、少数派が正しいことがある。
だが、多数派の方が意見が優先されてしまうことは言うまでもない。
その現象が、この発言では起きているのだ。
「――以前、この街では『獣人狩り』が流行った。獣人の村から何匹かの孅い娘を連れ帰り、需要のある風俗店や皮を剥いでバッグを売る違法店で売買されていた」
「えっ、そんなっ! だったら私……」
「私は仕方がなく、『獣人族は立ち入り禁止』にしたのだ。少しでも犠牲を減らすために、死した彼女たちに少しでも細やかな弔いをするために――」
「マスター! そんなこと、そんなこと言わないでください!」
ルーラーとアズリエルは過敏に反応し、ルーラーはその場で崩れてしまう!
「おい、どうしたルーラー!」
「そんな……。大丈夫だって言ったのに」
「ど、どうしたのかね! 私が今、まずいことを」
「言いましたよ、どうしてルーラーの前でそんなことを言うんですか!」
アズリエルは親父に向かって怒鳴り散らす!
ルーラーはウサミミを畳んでその場でおいおいと泣き始める!
――あらかた見当が付く。
4ヶ月前。
どうしてルーラーがこの街に『入ってはいけない』と書いてあるにも関わらず、中心街を彷徨っていたのか――。
「ルーラーのお姉さんは、この街の悪党に拉致されてしまったそうです! ちょうど4ヶ月前に! なのに、どうしてそんなことを」
「な、なんと! そのような報告は受けてないぞ?! どう言うことなんだハイライター君!」
「わ、私もそのような報告は受けておりません! ……まさか、イレイザーの独断か?」
ハイライターは立ち上がると、その場で敬礼をする!
「失礼しますマスター! これより、イレイザーをここへと連れて参ります!」
「あぁ! 任せたぞ!」
「やめてください! イレイザー様は悪くないのです! 私が、私がイレイザー様にお願いしたのです! 『一緒にお姉さんを探す』と。だから、私はこの街に留まってずっと探し続けました!」
ルーラーは泣きながら両手で顔を覆った。
この絶望的な状況の中、俺はこの街についてよく知る2人の顔を眺めた。
――あぁ。
そんな顔をするのはやめてくれよ、そんな顔を絶対にルーラーに見せてはダメだ!
「……イレイザー君は優しすぎる。きっと、ルーラーさんに希望を持たせるために言ってくれたのだろう」
「ただ、イレイザーの私欲なのかもしれない。ルーラーをこの街に留めさせておきたいがために……」
親父とハイライターは床を眺め、ぐっと拳を握った。
――奴隷というものは、大体が使い捨てだ。
だから、奴隷の売買が無くなる事はない。
それに、すでに4ヶ月も経っているのにルーラーのお姉さんは一向に見つからない。
そうなると――。
「イレイザーが早急に俺様に報告しておけば、奴隷商は根絶やしにできたかもしれない! あの男の甘さが、ルーラーを傷つけていると知らないのか!」
「やめてくださいそういう言い方! アズちゃん、本当に怒りますよ!」
「だが、知っておいた方がいいこともある。ルーラーさん。――獣人族の売買は拉致されてから1ヶ月周期で訪れる。望郷の念を消すために、獣人に特効の薬を打つ。それは劇薬で、獣人の脳を破壊し続ける。拉致されてから1ヶ月周期で拉致されるその理由は、『獣人の消費期限が1ヶ月』だからだそうだ」
親父は顔を抱え、絶望の顔を浮かべるルーラーを見たくないと言った感じだ。
そう、ルーラーは知るべきである。
これ以上苦しまないために、絶望に頭打ちする必要があるのだ。
これが、今のルーラーの精神を傷つけないための最低限の配慮だった。
――放置されたまま心が擦り減るくらいなら、ここで希望を潰しておいたほうが優しい選択であると、親父は判断したのだろう。
「嘘っ……嘘嘘! 嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルーラーの叫びが広い空間に響き渡る。
窓ガラスは彼女の声で揺れ、積まれていた本がバサリと落ちた。
そして、事務所内が静まり返る。
ルーラーはあまりの衝撃により、気を失うように眠ってしまった。
よほどストレスを感じていたのだろう。
姉が不純な理由で死んだ。
失神してしまうには十分過ぎる理由である。
本当に、もう俺たちができる事はないのか?
ルーラーのためにできる事はないのか?
「……傭兵がいたら、人は救えるのか?」
俺は拳を握りしめる!
どうして人が死ななければならない?
どうしてこのようなことが裁かれない!
「どうしたらこんな悲しみが根絶できるんだ! 俺がもっと早く覚醒していれば、人が救えたのかもしれない!」
「た、タクヤ……!」
「俺がもっと強くなれたら! もっと多くの人を笑顔にできるはずだ! これ以上、俺は誰も悲しませるような事はさせない! 俺が強くなれば、俺が強くなればっ!」
気づけば、俺の周りには雷が走り、口からは無秩序に炎が飛び出す。
俺は至って冷静に、怒っている。
こんな理不尽が許されていいのか?!
敵は人間だなんてありえるのかこの異世界!
「の、ノベル……!」
「分かってるよハイライター。俺は傭兵になるよ。そもそも、カナヤの傭兵になるかの最終決議をここでするつもりだったんだろう?」
「そ、その通りだが……。いいんだなノベル? ここまでしておいてなんだが、傭兵になる事は絶対に強要しない。俺様たちの仕事はただカナヤを守るだけじゃない。救援依頼を受けて汚れ仕事をするし、肉を裂いて血を見ることも珍しくない。多数のために、少数を切り捨てることだってある。それでも、お前はいいんだな?」
「それでも、俺は悲惨な現状を前にして怯える事はしない! 俺はそのためにこの世界に転生してきたんだ! 命を救い、悲しみを根絶する!」
俺は拳を握りしめ、側頭部の痛みを押し殺した!
このままじゃダメなんだと、俺の心の中の俺が訴えかけてくる!
これは偽善じゃない、心の底から思える善だ!
「……よく言った、タクヤ。最初からそのつもりでお前を鍛えたのだからな。私にも迷いがあった。本当に息子をこの仕事に就けていいのかと。ただ、お前のその信念を聞けて深く安心した!」
親父は腕を組むと、俺の目の前に来て叫ぶのである!
「転生者・ノベル! このマスターが、お前をカナヤの傭兵として命を賭すことを任命する! 救済と信頼を重んじ、世のため人のために生命を捧げよ!」
「イエス、サー!」
俺は親父に向けて敬礼をする。
俺はこれで、本物のカナヤの傭兵として勤務することが決まる。
もう、迷いなど1つもない。
獣人の未来を守るため、ルーラーのような悲しみをなくすため、明日を生きようとする人のために俺は戦う!
「では、アズリエルさん。ノベルをどうかよろしく頼むからね?」
「は、はいお父さん! アズちゃんが全力でノベルをサポートします! 心配はご無用です!」
――俺とアズリエルは、こうしてカナヤの未来を担う傭兵として働くことが決定したのだ!
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