なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜

安田 孔明

第23話 差別が生み出すこと

 ◆

 俺は、生前とは姿が違う。
 父さんも全く違う相貌だ。
 お互いに歳は違うし、雰囲気も違う。

 ――ただ、魂の形と通じ合う電波の様なものだけで判断した。
 なんと言って説明すれば良いのか分からないが、波動のようなものが胸に伝わり、マスターの正体が自分の父親であるのだと遺伝子が回答をくれた……。
 いや、説明はもうしない!
 とりあえず、「あ、この人は親父だ」ってなったわけよ!
 もうこれ以上何も言わないでくれ!
 分かってるよ、ご都合主義だって言いたいんだろ!
 ただ、こればっかりは違う!
 これは奇跡か必然かのどっちかだからな!


「ま、マスターがまさかノベルのお父さんだったのですか?!」

「これは驚きです! 異世界でまた再開するなんて! 私のウサミミが震えるくらい驚きです!」

「まさに神の悪戯いたずら……ですね。マスター、これは全て分かった上での計画ですか?」

 ハイライターは親父に問うと、

「まぁな。私が神からもらった異能力のおかげで知ることができたよ。それにしてもタクヤ、過労で死ぬとか良くないぞ?」

 たたたたた、タクヤって呼ぶな!
 俺の本名をこのタイミングでバラすなよな!

「え! ノベルの本名ってタクヤなんですか?! ちょっと意外です」

「それでは、今度からタクヤ様とお呼びしないと」

「良いよそんなの! ノベルは俺のペンネームなの! そのままノベルでいいから!」

 俺は親父から離れてアズリエルとルーラーに強く主張する。
 と、親父は俺の肩を叩いて、

「だがタクヤ。ただのラノベヲタクだと思っていたが、それを仕事にしてちゃんとお金を稼げたな。父さん、嬉しいぞ?」

「タクヤって呼ぶな! ヲタクって言うなこのハゲ!」

「なんだ、親に向かってハゲとはなんだ! 言っておくがな、お父さんは今30歳頃って設定だ! それに見てみろ! ハゲてないぞこの生え際!」

 俺と親父はいがみ合って頭をぶつけ合う!
 親父の髪の毛は茶髪で俺と同じ、イケメンってか渋さ加減も俺とどっこい!
 ダンディなオッサンって感じか出てて、なんか気持ち悪いんだよな!
 なんで異世界でチョイカッコよくなった親父を見なきゃなんねぇんだよ!
 変な気分で胃もたれが凄いっ!

 ◆


「さて、そんな話をするために私はタクヤたちを呼んだんじゃない」

「ノベルと呼べ、薄らハゲ」

 俺はパイプ椅子に座って親父を睨み付けるが、もう俺のことを『ノベル』と呼ぶつもりは毛頭ないらしい。
 ラノベにおいて、2つ名、3つ名は誰が誰やら分からんくなるから勘弁していただきたいんだけど。

「……この世界に降り立った理由は知っている。タクヤ、現世に蘇るために小説を完成させねばならんのだろう?」

「そうだけど、なんで親父が知ってるんだ?神様にでも聞いたか?」

 そこが疑問だった。
 恐らくだが、先ほどの親父の言及によってあらかた検討はつく。

 この世界に降り立つ前、親父はあるスキルを持って転生したのだ。
 それは、『現世の全てを知れる』能力。
 家族を残して転生した無念を払拭するために、親父はこんな一見無意味なスキルを選んだのだろう。
 ただ、このスキルはかなり使い勝手がいい。
『現世の全てを知れる』というのは頭打ちなしの超絶賢者スキルだ。
 最初は俺やお袋がどうしているかを知るために使うつもりだったんだろうが、この能力に触れていくにつれて沢山のことを知ることができた。

『地球の成り立ち』
『生物の誕生』
『人間の出現方法』
『物質の作り方』
『人間の倫理や宗教』
『統率する極意』
『機械の発明』
暗黒物質ダークマターの解析』
『万年解けなかった数式の解読』
『人類の行末』
『生物が滅亡する過程』
『太陽に地球が飲まれる日時』

 過去から未来まで森羅万象を知れる破格のスキルだったって訳だ。
 証拠に、至る所に見たこともない超未来の何かが落ちてるし、巨大なホワイトボードに数学界では有名な問題が解かれている。
 いわゆる、『ミレニアム』ってやつだ。
 7題ある永久不滅の数学問題が解ければ、数学組織から100万ドル貰えるって例のヤツだ。
 ま、このホワイトボードに書かれてるこれが正解なのかぜんっぜん分からんけど!

 それに、その知識と科学力があれば、あまりにも秀逸な街の区画整理や、大浴場にあったプラスチックなんかも全て合点がいく。
 ――つまり、俺の親父がこの文明をすべて作り出していると言っても過言ではないのである!

「まぁ、それはタクヤの想像通りだ」

「ノ・べ・ル! いい加減にせんとハゲラッチョするぞあんたの頭で!」


 これだけの文明をたった1人で作れるのであれば、そりゃこの世界の人たちからは色々言われるだろうな。
 例えば、『三大賢者』とかな!
 この世界でクローンを開発したり、人造人間や魔力無効化ジャマーなんかを開発できるポテンシャルを持ってすれば、何人たりとも親父には近づけない。
 まさに、最強たる能力の持ち主だ!

「た、確かにマスターが凄いのは分かりました! この中世ではありえないようなものがあり、マスターはきっと素晴らしい頭脳をお持ちなのでしょう! でも、どうしてこの発明を街の至る場所に分けてあげないのですか? アズちゃん、この宮殿に住んで4ヶ月間、ずっと思っていました!」

 なぁいすアズリエル!
 俺もそれを親父から聞き出すつもりだった!
 どう考えたって、親父の知恵を用いればすぐに最強の街が作り出せるぞ!

「――そういうわけにもいかんのだよ。私1人の独断で、この世界の理を書き換えるのが怖いからだ」

 と、親父は俺の方を見て目を細めた!
 な、なんでしょうか、俺ってば、何かしましたか?!

「はぁ。タクヤよ。私はこの世界に降り立って7年間、1度も世界に影響を与えるような事はしておらん。だが、お前ときたら……」

「はっ! ま、まさか」

 俺は自分がやらかした愚かな行為に少しだけ反省する。
 多分だけど、あそこに『廃棄』と書かれた大量の魔導書みたいなやつは本当に要らなくなったから置いてるやつだよな?
 お尻ふきとかに使えばいいと思うよ?

「84つもあった言語を廃止して日本語に統一し、公用語だけじゃなく書物の文字まで日本語に変えただろ? 幸い、世界中の人々は気付いてない。ただし、文の日本語翻訳により本の拡大や縮小によって、入り切れずに完結できてない書物や、半分ほど白紙の書物ができてしまった」

 ギクっ!

「それにお前、詠唱を簡略化させたろ? それのせいで完全に魔導書の中の内容が意味不明な文章に仕上がっている。今、ニュースになってるんだぞ、『理由は分からないが、家に使い道のない書物がたくさんある』って」

 ギクっ!

「それと、世界中の言葉という言葉から2つ名を消し、ステータスという概念を消した。タクヤ、これがどれだけ人様に迷惑をかけたか分かってるか?」

「は、はいっ……。すみません」



 恐らく、あそこに山積みになっている本は、俺がこの世界の設定を弄った時に発生した歪みだ!
 もし、この世界で魔法を覚える際に500文字ほどの詠唱を覚えるならば、それ相応の書物が必要になるはず!
 修行をして覚えた魔導師がいただろう。
 面倒だと思いながらもその局地を超えてきた人間だからこそ、賢者と崇められた人間がいたかもしれない!
 それを俺のたった1つの空想でぶっ壊した!
 500文字を『スターフレア!』とかで済むようにしてしまった!

 歴史書だって恐らく同じ被害を受けてる!

 妖精族クリッジアタモスのルビを消し取ったんだ!
 もしかすると、クリッジアタモスってカタカナでしか書かれてないような書物があったなら、至る所が真っ白けになってるはず!
 そこまで考慮せずに、ドカドカ設定を変更してしまったー!
 この設定の変更がたった1の矛盾で本当に良かった!


「タクヤ。言っておくが、この世界にある全てのものにはちゃんと意味がある。どれだけ非効率でも、無くしてはならない文化もある。それは、人の手で、時間の流れによって徐々に解決されていくことが最も重要なのだ。戦争がそれを教えてくれたのだ。現代の人間はこれ以上進化はできず、思想は退化していく一方だ。なぜならば、人類は人類を守りたいと気づいてしまったからだ」

 痛みなしでは生きていけない時代がある。
 良い例が、現代の核爆弾だ。
 人は殺し合い、そして戦いによって文明を作り続けてきた。
 故に、文明の進化には痛みという多大な刺激が必要である。
 抑止力で斥力が働き、第二次世界大戦後はどうにか今日まで巨大な戦争は起きなかった。

 俺の考え方がこれだ。
 刺激を怠り、いて先に文明を人類に与えてしまえば最後――。

「文明の早送りは、進化を施す爆薬に同じ。それは命と精神をことごとく浪費させ、社会の癌が戦争の火花を起こす。強き権力とは、1種の悪性腫瘍だ。だから私は、あえて文明には干渉しない。自分の小さな箱庭でのみ、知識を行使する。だから私は強く、儚い」

「悪かったよ、親父」

「いいのだ、過ぎた事はもう終いにしよう。今を笑えば、過去も笑う」

 と、親父はニカっと笑った。

 いつだって、親父は合理的で冷静だった。
 転生してもなお、冷静で周りの世界が幅広く見えている。

 ――そんな親父を、俺はずっと尊敬して生きてきた。
 社会を知り尽くし、戦争という概念をすべからく嫌悪していた。
 知を積み、書物を肉に変え、思想を血として社会のために働いた。
 本を読み、知力を重ね、いつか繭を割って社会へと飛んでいく。
 死ぬ前に親父は言った、『社会には巣食う蜘蛛がいる。羽ばたく蝶が羨ましいのだ。だからタクヤ。お前は風になれ。蝶を助く気流となり、お前の知識で皆を救う風になれ』と。

 親父が亡くなった後、社会情勢や思想に疎かった俺は、本を読み始めた。
 ラノベという魔導書だったけど、その結果として俺は自分の世界を描くことができている。
 全て、親父が作り出してくれた『光』だ。

 だから俺は、『風』になりたい。
 俺がみんなを後押しする強い影響力になりたいのだ。

「それと、謝っておきたいことがある。ルーラーさん。君にだ」

「へ、私ですか?」

「そうだ。獣人である君に謝りたい。この街に『獣人は出歩くな』と触書きを出したのは私だ。その結果、君は私の部下の者が多大な迷惑をかけた。心から詫びよう」

 親父はルーラーの前で、深々と頭を下げる。
 そうだった!
 親父、獣人族になんて酷いことをしやがる!

「いいえ! もう4ヶ月前の話ですし! それに、ここまで優遇されてとても感激です!」

 ルーラーはウサミミをぴょこっとする。

 ――それにしても、どうして親父は獣人族が街を出歩くのを禁止したんだ?
 そんなことをしなければこんな事件は起きなかったというのに。

「私が悪党に見えるかタクヤ? 以前、私の法律に文句を言ったようだが」

「そういう訳じゃないよ。ただ、獣人族に酷いなって」

「……すまんな。ただ、この法律は獣人を虐げたいが目的で触書きを出したわけではない。『守るため』に出したのだ」

「えっ?」

 その一言の瞬間、俺の頭の中は逆回転を始めた。
 時々、少数派が正しいことがある。
 だが、多数派の方が意見が優先されてしまうことは言うまでもない。
 その現象が、この発言では起きているのだ。

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