なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜

安田 孔明

第10話 淘汰されるもの

 ◆

 主人公の設定によって、周りの世界に影響を与えてはならない。

 簡潔に言えば、主人公の能力が強力すぎることにより、政治や経済が破綻することだ。
 主人公が最強って設定は今までに腐るほど読んできたが、その大凡おおよそのラノベの裏事情が破綻しているのだ。

 例えば、『無限にアイテムを生成できる』能力を持っている人間がいるとする。
 その設定により、剣や便利アイテムを無限に作れるのは確かに発想としては面白い。
 ただし、別の観点から見てみれば、主人公の行いは邪悪を極めた設定に切り替わる。

 序盤、お金を稼ぐために大量の万能薬エリクサーを生成して、格安の値段で売ったとする。
 格安とあれば、街の人々はエリクサーを買い溜めたり、別の街へと転売することがあるだろう。
 エリクサーの供給が活発化する中、ある程度のピークを過ぎると徐々に需要メーターが下がっていくことになる。

 さて、ここからが問題だ。
 主人公がエリクサーを湯水のように売り捌いた今、どのような状況にあるでしょう?

 そんなに難しいことではない。



 正解は、『一部業者の破綻』だ。
 エリクサーを大量に売ったことにより、その道で食い繋いでいた人間たちはほぼ間違いなく廃業になる。
 また、エリクサーの叩き売りにより、回復薬生産を生業としていた国が破産する可能性もある。

 現代で例えるなら、アメリカやサウジアラビアが産出している石油だ。
 最強スキルとか得体の知らないものに、商売の中心地を奪われるような事態だ。

 あまりにも憶測に過ぎるが、現実で考えれば非常に危険なことである。
 最悪、主人公が鼻をほじりながらしていたことが、戦争の引き金になることもあるかもしれない。

 ――『石油を生み出す人間を捕獲しろ! 俺たちの国で石油を牛耳ぎゅうじるんだ!』
 ――『オイルボーイを始末しないと、経済が破綻してしまうぞ!』

 こんなこと、現実で起きて欲しくはない。

 ◆

 俺は、生きてきた中で一番の大声をあげた!
 って言うのも、生きてきて一度も殴り合いの喧嘩をしたことがない。
 他人を威嚇するってのは、これが初体験だ。

「あぁ?! なんだよ。お前も人間なら、この獣人を追い出す手伝いをしてくれよ! この街に居ていいのは、賢い人間と利用価値が高い亜人、それと情報力に富む妖精族と力強い竜人だけだ!」

 金髪モヒカン男は俺の方に歩いてくる。
 ここが東京だったら、俺は一目散に安全地帯まで走って逃げるだろう。
 ただ、ここは異世界だ!
 日本の常識が通じないことくらい分かってら!

「人間ならば、理性があるだろうモヒカン! 弱き者を虐げるのは良くないとママンから教わらなかったか?」

 うひょー!
 こう言う言葉を言いたかったんだよな現実で!

「はぁん? 随分と頭がキテんなこいつ。知らないなら教えてやる。この街は『ペット禁止』なんだよ」

「ペットだと! あのウサギの女の子はペットじゃない! 獣人だ!」

「だから、獣人のことを『ペット』て言うんだよ! どうしたお前?」

「そ、そうなの?」

 モヒカン男は俺の手前までくると、半世紀前のチーマーみたいに上目遣いで睨んでくる!
 あらやだ!
 思想が古すぎやしませんかね!

 俺は少し周りの人たちが気になって見渡してみる。
 皆、「その通りだぞ」と言いたげな表情で俺を見てる!
 ……これってもしかして、このチンピラが悪いんじゃなくて俺が悪いのかよ!

「ペットはな、野ションするしフンを撒き散らすし、何よりもクセェ! だからな、マスターは仰った! 『獣人ペットは立ち入り禁止』だってな!」

 ――それは知らんかったなぁ!
 つまり、俺は無法者を庇うただの無法者……って立ち位置か?!

「だ、だが! この獣人の子に必要以上に言い過ぎだ! それをまず謝るんだ!」

 俺はモヒカン男に果敢に立ち向かう!
 俺はラノベの主人公だ!
 ここで腰が折れちゃ男が腐るわ!

「誰が謝るか! 逆によ、お前は虫を叩いて謝るか? 蟻を踏み潰して墓を建てるか?!」

「うっ!」

 アッパーカット!
 このやろう、頭悪そうな見た目のくせに頭の回転は早いのな!
 口喧嘩はあんまり強くないのよ俺ってば!
『虫だって、生き物だ! 等しく尊い!』って言いたいけど、流石にごめん、無理がある。


「おい、もういい。その非常識なガキよりもコイツの始末の方が先だ。さっさとコイツを叩き出すぞ」

 と、ウサミミちゃんの前に立つ、巨体スキンヘッド男がそう言う。
 あの野郎、人間だよな?!
 サイボーグとかそう言う世界観ぶっ壊すようなやつじゃなかろうな?!

「へ、ヘイ兄貴!」

「ま、待て! 俺からの話は終わってねぇぞ!」

 スキンヘッド男の方に向かうモヒカン男の手を掴もうと、手を伸ばす!
 このまま逃せば、俺は自分の信じた事を捻じ曲げたことになる!
 異世界って舞台にまで来て、信念を捨てちまいたくねぇんだよ!



 ――しかし、俺の腕はモヒカンの男まで届かず、気づけば空を見上げていた。
 飛び散る血と、白い歯。
 これってまさか、全部俺のか――?

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