なろう作家が転生して、なろう作品の主人公になりました!〜物語を自由に紡げるチートスキルに、矛盾メーターがMAXになると死亡するデメリットを添えて〜

安田 孔明

第5話 異世界召喚

 ◆

 内ポケットに所持していた財布の中を見ると、大凡おおよそ10000ゴールド入っていた。
 神様は優しかったようで、初手から餓死したり無一文で詰まないようにこれだけ俺に金を持たしておいてくれたのだろう。
 設定を書き換えた際、お金の単位と為替も決めておいた。
 1Gは1円換算で、この世界観を知らない読者でも分かりやすいようにしておいた。
『銀貨3枚ぽっちかよ』とか『銅貨50枚くれるのか?!』みたいなノリになるの好かんし。
 ちなみに、紙幣や硬貨も日本通貨と同じモデルに書き換えておいた。
 こうした方が、俺には好都合だしな。
 ただ、1000Gの紙幣に書いてあるこの人……誰だ?!
 野口さんじゃないだろうなとは思ったが、なんだこのムカつく顔した猫耳男は!
 猫耳はな、女の子だから可愛んだぞ!
 男の猫耳はただのあざとい妖怪だっつの!

 ――俺は宿屋に着き、急いで部屋を借りて机の上にノートと財布を置いた。

 宿屋の中は落ち着いた蝋燭の炎で橙色に輝き、揺らぐ炎の形で明るさが変わる。
 煌びやかな炎の色に癒され、俺はふぅと息を吐いた。
 ま、そのため息の理由の半分以上はこれだけど。

【空の上にいるアズリエルに話しかけるノベルだったが、それは他人から見れば変質者のそれだった!】

「ちゃんと、ノートにも書かれてる……」

 先ほどの事件も、ノベルメイカーにちゃんと記載されている。
 ノートの自動推敲機能は俺にとっては本当に敵でしかない。
 野糞したことも、ティッシュがないからケツを拭かなかったことも、カッコいい黒いズボンに誤ってションベンをかけたことも全て書かれてる。

 あれ、これってラノベじゃなくて黒歴史ノートだっけか?

『あら、随分と自動推敲されてますね。すでに5000文字も書かれてるので、残り95%を埋めれば完結です! 意外と楽勝じゃないですか!』

「5000字丸々、そのまま使うかよ。これから要らない部分を改稿して文を絞る。1000字くらいに絞れたらちょうどいいか?」

「そんなんでいいんですか? そのペースだと、現世に帰るまで100日ほどかかりますけど」

「それでいいんだよアズリエル。俺は小説家だ。書きたい文は、俺が決める」

 俺はペンを握り、白ペンを出してノートに目を通す。
 そう、俺は小説家である。
 俺が主人公の物語ならば、俺がカッコいいところを抜粋してやりたい!
 これが、作者兼主人公の大特権だからな!

【ノベルはウルフのうんこを踏んだが、それには全く気付かない!】

 ……んんっ?

【ノベルは川で水を手ですくい、口の中に流し込んだ。ゴブリンの排便は川の中でするとも知らずに――】

 ……。

【やった! ノベルはクリスタルオークのうんこを手に入れたぞ!】

 俺のポケットの中には、キラキラした綺麗な石が入っている。
 道中見つけて、高値で売れると思って拾ったんだ。


 ぴえん。


「なぁアズリエル。俺を慰めてはくれんか?」

『どうしてです?』

「もう、心が折れちゃいそうだから」

『何を言ってるんですか! アズちゃんはいつでもノベルさんを応援してますよ! アズちゃんが担当になったからには、必ず試練を成功させて見せます! そして、また地球に戻ってラノベを心置きなく書いてください!』

「あ、アズリエル……!」

 彼女の言葉で、なんだか少しだけ楽になった気がする。
 いつでも味方がいてくれるってのは、こうも心強いものなんだな。
 アズリエルはダメ天使で俺のことを殺しかけたけど、なんやかんや悪い奴ではないよな。
 ……一体、どんな女の子なんだろう。
 一度だけでもいいから、姿を見せてくれないかな。

『それに、ノベルさんのようなラノベヲタクの方なら、なおのこと早く試練達成できますよ!』

 びきっ。

 どこか、俺の心の奥でヒビが生えた音がした。

『展開の組み立て方もお上手ですし! 今までにここまで可能性を感じる事はありませんでした! やっぱり、ヲタクって強いんですね! 見直しちゃいました!』

 びきびきっ!

「アズリエル?」

『はい! なんでしょうか!』

 俺は、白いペン先赤いペン先に切り替える。

「このノベルメイカーを使って召喚魔法とかってできるのか?」

『できますよ、知りませんけど!』

 アズリエルは元気よくそう答える。
 ははぁん、そうなのね。

「それじゃ、他の世界から召喚させることとかってできるのか?」

『できるんじゃないですか? たぶん!』

 俺は赤いペンを設定記入欄の上に走らせる。
 一度はやってみたかった、美少女の異世界召喚!
 こんなところでできるとはな。

「アズリエルはカナヤって街を歩いてみたいとか思ったことあるか?」

『そうですね、一度くらいなら遊んでみたいと思います!』

 へぇ、それは好都合だね。

「アズリエル。それじゃ、一度遊びにおいでよ、カナヤに!」

 俺は赤ペンで設定記入欄に書き終えた。
 内容は、異世界召喚をするというものだが、ただの召喚ではない。

『……え、なんですかこれ! アズちゃんの体がっ!』

 頭の中に語りかけるアズリエルの声が徐々に遠のいていくと、甲高い叫び声がテーブルの前から響き始める!
 魔法陣が床に描かれると、光の柱が現れる!
 宿屋の床はミシミシと鳴り、今にも勢いで崩れてしまいそうだ!

「うわぁぁぁぁ! とうとうやりましたね!」

「これが、異世界召喚だこのやろう!」

 透き通った天使の声が宿屋に響くと、目の前に眩い光が差し込む!
 すると、光の合間から黒い翼が2枚見えて、銀色で艶やかな髪がバサバサとなびく!
 お望み通りカナヤには連れてきてやったぞ!

「初めまして、アズリエル!」

 俺は魔法陣の中に現れた少女にむけて握手しようと手を差し伸べると――!

「とぅりゃぁぁぁぁぁぁ!」

「へぼみっ!」

 突然、張り手が俺を襲った!
 その張り手は意外と痛く、人生において初めて女性にビンタを食らった瞬間であった!

「やりましたね、やらかしましたね!こんな時にアズちゃんを召喚しましたね!このバカバカ!」

 アズリエルは俺に馬乗りになると、グーパンでポカポカ頭を叩いてくる!


 彼女は想像通りロリっ気の強い中学生くらいの女の子だ!
 赤い目で、肌は少し白い。
 銀髪で、風呂上がりなのか髪の毛が濡れている!
 ズボンは履いてなくて、ブカブカの白いワイシャツとピンク色のパンツだけのだらしない姿だった!
 そして、サッパリした後だからなのかすっごい良い匂いがする!

「よりにもよって、こんな薄着の時に召喚するだなんて変態です変態! バカちんアホちんすかぽんたーん!」

「っこっちだって言いたい事は山ほどあるんだぞアズリエル!」

 ポカポカと俺の頭を叩き続けるアズリエル!
 俺はそんな彼女の両ほっぺを摘み、ぐいーっと横に引っ張る!

「あだだだだだだだ! ひたいれすのべるはん!」

「俺は、ラノベ『好き』だ! ラノベヲタクじゃないって何回言ったんだ!」

 俺のことを何度もヲタクと言ったアズリエルが悪い!
 俺は今年で27歳になるが、自分のことを一度も『ヲタク』だと思った事はない!
 増して、俺は何度もアズリエルに訂正しろって言ったのだ!
 このやろ、このやろぉ!

「これは俺からの制裁だ!」

「ぶいいいいいいい! ひろいれすのべるはん!」

 プニプニほっぺだろうと、幼女のほっぺだろうと関係ない!
 俺は、ラノベ好きだ!
 ラノベと結婚してもいいと思うほど活字が好きなだけであって、俺はヲタクではないっ!

「あやまれぇぇぇぇぇ!」

「ふいいいい! ふいまへぇぇぇーん!」

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