色気より食い気の俺が料理上手の幼馴染に『毎朝、お前の作ったみそ汁が飲みたい』と言ったらすぐ同居することになった

三葉空

7 結菜の異変

昨晩はよく眠ることが出来なかった。

結菜に対する想いを自覚し、プロポーズをしてお互いの気持ちを確かめ合った。

その興奮のせいだ。

俺はむくりとベッドから起き上がると部屋を出る。

ああ、どうしよう。

今までは何気なく顔を合わせていたけど。

少し緊張してしまう。

俺は階段を下りた。

「あら、おはよう」

キッチンに立っていたのは結菜ではなく母さんだった。

「あれ、結菜は?」

「結菜ちゃんね、何か体調が優れないらしいの」

「えっ?」

「だから、お母さんが代わりに朝ごはんの支度をしておいたから」

母さんはそう言って、

「じゃあ、私も仕事に行くから。あんた達も遅刻しないようにね」

「あ、うん」

慌ただしく出て行く母さんを見送ってから、俺は再び階段を上がる。

結菜の部屋の前に立つと、遠慮がちにノックした。

「結菜、入るぞ」

部屋の中では結菜がまだベッドで寝ていた。

「結菜?」

「……ミーくん?」

か細い声で結菜は言う。

「母さんから体調が悪いって聞いたけど、大丈夫か?」

「うん……ごめんね、おみそ汁を作ってあげられなくて」

「いや、仕方ないよ。気にしないで、ゆっくり休んでな」

「ありがとう」

結菜は淡く微笑む。

俺はパタンとドアを閉じた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

ちょうど、自分の部屋から出て来た日向と出くわす。

「ああ、何か結菜の具合が悪いらしいんだ」

「えっ、大丈夫なの?」

「とりあえず、ベッドで横になっているよ」

「そっか」

俺は日向と二人で朝食を取り、身支度を済ませる。

「お兄ちゃん、学校に行く前に結菜ちゃんに声をかけておけば?」

「ああ、そうだな」

俺はまた階段を上がって結菜の下に向かう。

「結菜、俺はこれから学校に行くけど……一人で大丈夫か?」

「うん、平気だよ……」

「そっか……」

「ミーくん、こっちに来て……」

結菜の弱々しい声に呼ばれてそばに寄る。

「どうした?」

俺が身を屈めて目線を合わせると、結菜が両手を広げた。

そして、スッと目を閉じる。

「えっ?」

「……キス、して?」

「キ、キスって……けど」

体調が悪いのに、そんなことをして大丈夫だろうか?

安静にしておくべきじゃないだろうか。

けど、もし風邪なら、いっそのこと俺に移して治せば良い。

そんな風に思い至り、俺は結菜とキスをした。

「んっ……行ってらっしゃい、ミーくん」

「ああ。何かあったら連絡しろよ?」

「うん」

結菜は柔らかく微笑んだ。







結菜とより想いが通じ合った朝の雰囲気を期待していた自分がいた。

けれども、そんな風に幸せな気持ちだったのは、もしかしたら俺だけだったのかもしれない。

結菜にとっては、プレッシャーとして重くのしかかっていたのか。

あるいは、やはり俺と結婚するのは……

分からない。

今まで、色気よりも食い気の人生を送って来たから。

女の子の感情が分からない。

情けない男だ。

「おい、湊人。昼メシ食わないのか?」

自分の席でうなだれていた俺に恵一が声をかける。

俺は奴の顔をじっと見た。

「な、何だよ?」

「……お前じゃ相談相手にならないな」

「何だよ、失礼な奴だな。とりあえず、話してみろよ。アレだろ? 今日、結菜ちゃんが休んでいることと関係があるとか」

「ああ。ここじゃアレだから、屋上にでも行こうぜ」

そして、購買でパンを買ってから屋上に向かう。

俺はことのあらましを恵一に話した。

「……既に離婚の危機か」

「殴るぞ」

「いや、もう殴っているし」

頬に俺の拳を減り込ませた状態で恵一は言う。

「けど、アレだな。お前にプロポーズされて、その翌日に寝込むってのは……中々にナーバスな問題だな」

「まあ、そうだな……」

「俺も力になってやりたいけど、大して恋愛経験がある訳でもないからなぁ」

「知っている」

「殴るぞ」

「いや、もう殴っているし」

俺は頬に恵一の拳を減り込ませた状態で言う。

「じゃあ、ちょっとモテる奴らに聞いてみるか」







帰宅すると、俺は玄関でため息を漏らす。

「はぁ~……」

あれから、恵一と一緒に学校でモテる奴らに色々と話を聞いてみた。

もちろん、俺と結菜の事情は包み隠して。

そうしたら、

「そんなの女の子をこうして、ああして……チャラチャーラ、チャラチャーラ……」

何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

そして、結局は何も解決しないまま自宅に帰って来た次第である。

「とりあえず、結菜の顔を見るか」

俺は階段を上がり、結菜の部屋の前に立つ。

「結菜、帰ったぞ」

「……ミーくん?」

「ああ。入るぞ」

部屋の中では結菜が変わらずベッドで横になっていた。

「具合はどうだ?」

「うん、大丈夫」

「そっか……」

俺はベッドのそばに腰を下ろして、ぐっと拳を握った。

「ごめん、結菜」

「え?」

「もし、俺のプロポーズが重荷になっているなら、取り消すから。それに、お前が嫌になったら、この同居生活も解消してくれて構わないから」

「……ミーくんはそれで良いの?」

「本当は嫌だよ。けど、いくら幼馴染だからって、結菜を独占して良い訳じゃないから。俺は例え結菜が他の男と結ばれたとしても、それで幸せになってくれれば……」

ふわり、と。

また、柔らかく包まれた。

「……ごめんね、ミーくん。私、嘘を吐いたの」

「嘘……って?」

「今日ね、本当は具合なんて悪くないの」

「へっ?」

俺は目を丸くする。

「仮病ってことか?」

「うん」

「な、何でまた? 今日、サボりたい授業でもあったのか?」

「昨日ね、ミーくんと初めてキスをしたでしょ?」

「あ、ああ」

「それだけでも十分に幸せだったけど、もっと欲が出ちゃって……行ってらっしゃいのチューがしたかったの」

「い、行ってらっしゃいのチュー……」

確かに、今朝キスをせがまれたな。

「だから……」

結菜に不意をつかれ、俺はキスをされた。

「……これはお帰りなさいのチューだよ?」

ポカンとする俺の前で、結菜は小首を傾げて言う。

「……じゃ、じゃあ。俺のプロポーズが嫌だった訳じゃないの?」

「当たり前だよ。私は小さい頃から、ずっとミーくんのお嫁さんになりたかったんだもん」

「ゆ、結菜……」

「なに、ミーくん?」

俺たちは見つめ合う。

今は結菜の美味いメシよりも、結菜のことを食べたいと思ってしまう。

やっぱり、俺は変態だろうか?

「……良いよ、来て?」

俺はゴクリと息を呑む。

と、ドアの向こうに気配を察した。

「……日向」

「……あ、バレた?」

声がして、ドアが開く。

「もう、お兄ちゃんってば妹の気配に敏感すぎ。もしかして、シスコン?」

「黙れ。良い所だったのに、邪魔をするな」

「あら、もしかして、あたしがいなかったら、行く所まで行ったとか?」

「その可能性は十分にあり得た」

「ミ、ミーくん……」

結菜が激しく赤面する。

「全く、お兄ちゃんもすっかり性欲マンだね」

「誰が性欲マンだ」

「もういっそのこと、これからは一緒のベッドで寝たら」

「なぬっ?」

「ミーくんと一緒のベッドで……」

すると、更に結菜の顔が真っ赤に染まる。

プシュウウウゥ、と湯気の立つ音がした。

「お、おい。結菜、大丈夫か?」

「ミ、ミーくん~……」

「あらら」

結果として、結菜は本当に熱を出して学校を休んだ。






          

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