家出中の美女を拾ったら、僕が好きなあの子のお姉さんだった

三葉空

4 ひどいお姉さん

「はぁ~……」

学校に着くなり、僕はため息を漏らしてしまう。

「おい、翔太。どうした、そんな風に辛気臭い顔をしちゃって」

大樹が声をかけてきた。

「いや、何でもないよ……」

僕は力なく答える。

「おはよう」

ふいに、凛と澄んだ声に呼ばれてハッとする。

「す、須藤……さん」

「おはよう、沢村くん。川本くんも」

「お、おはよう……」

「ういーっす」

「沢村くん、ちょっと元気がないみたいだけど、大丈夫?」

僕はすぐ目の前で憧れの女子の顔を見たせいか、一気に頭がクラクラしてしまう。

「うぅ……」

「やだ、沢村くん。本当に具合が悪そう」

「いや、平気だよ……」

「ううん。心配だから、保健室に行きましょう」

須藤が俺に手を握ると、ドキリとした。

「須藤、悪いけど翔太のことを頼むわ」

大樹がそんなことを言う。

「分かった、任せて」

チラと大樹を見ると、グッと親指を立てていた。

あいつ、余計な気遣いを……

「さあ、行きましょう」

俺はしっかり者の須藤に手を引かれて教室を出た。







なぜ、こんなことに……

「沢村くん、大丈夫?」

須藤はしぼった濡れタオルを僕の額に置きながら言う。

「あ、うん。ありがとう。けど、こんなに大げさにしなくても良いよ」

「ダメよ、だって顔色が悪いんだから」

須藤は少し怒った様に言う。

幸か不幸か、今日は保健の先生が急用でいなかった。

そのため、須藤がわざわざ先生に許可をもらって、僕の看病をしてくれているのだ。

な、何だ、このシチュエーションは……

「そういえば、沢村くんって一人暮らしをしているって聞いたけど、本当なの?」

「うん、そうだよ」

「すごいね。私にはとても真似できないよ」

「いやいや、そんな……須藤さんはしっかりしているよね」

「そんなことないよ。ただお節介なだけ」

「ああ、それはあるかも」

「ちょっと、ひどいよ」

うわぁ、ぷくっと頬を膨らませる須藤がメチャクチャ可愛い。

「一人暮らしだと色々と大変だよね」

「いや、まあ……むしろ、一人の方が楽だったな」

「えっ?」

「ううん、何でもない。須藤さんはあまり悩みとか無さそうだよね。あ、もちろん、良い意味でだよ? いつも明るくハツラツとしているから」

「ありがとう。けど、私にも悩みがあるんだよ」

「え、何? 僕で良ければ聞くよ?」

「うーん……実はね、私はお姉ちゃんがいるんだけど」

「へえ、そうなんだ。須藤さんに似ているの?」

「ううん、正反対ってよく言われる。いつも私とかにセクハラ発言をして……」

「あ~、そうなんだ。苦労するね」

「しかもお姉ちゃん、家出をしちゃったんだ」

「へ~……」

あれ、何かどこかで聞いた話だな……いや、まさかね。

「お姉さん、早く帰って来ると良いね」

「うん。あんなお姉ちゃんだけど、居ないと寂しいから」

「好きなんだね、お姉さんのことが」

「やだもう、恥ずかしい……」

うーん、照れる須藤も可愛いなぁ。

あ、まずい、興奮したら熱が……

「ちょっと、沢村くん。顔が赤いよ?」

「いや、ハハ……」

「ほら、ちゃんと寝ないと。私もそろそろ教室に戻るから、良い子にしているんだよ?」

「は、はーい」

「じゃあね」

須藤は最後に笑顔を残して去って行く。

「……誰も来ないよな?」

僕はカーテンを閉めた。







保健室でよく寝たおかげで、何だか気分がスッキリした。

「ただいま~」

僕はいつものように言う。

「あ、翔ちゃん。おかえり~」

リビングでくつろいでいた灯里さんが言う。

僕は目を丸くした。

「ん、どうしたの?」

「あ、いや……おかえりって言われるの、何だか新鮮だな~って」

「ドキっとした?」

灯里さんは蠱惑的に微笑む。

「まあ、ちょっとだけ」

「エッチだなぁ、翔ちゃんは」

「何でやねん」

僕は靴を脱ぐ。

「ねえねえ、靴下は脱がないの?」

「え? 何でですか?」

「嗅ぎたいの。くさ~い、靴下♡」

「へ、変態だ……絶対に嗅がせないんだからね!」

「ふふふ、そう言われると嗅ぎたくなるのが女のさがよ」

「あんただけだよ」

「あ、でもこの距離からでも臭いが……くんか、くんか」

「わああああああああああああぁ!」

僕は若干泣きながら脱衣所に駆け込んで洗濯カゴに靴下をぶち込んだ。

「ハァ、ハァ……最低です」

「え、むしろ最高の臭さだから安心して♡」

「そんなに年下を苛めて楽しいか~!」

僕は泣きながら抗議する。

「よしよし、分かった。お姉さんのおっぱいをあげるから、それでおあいこだ」

「いや、意味が分からないです」

「ほらほら~、お姉さんのおっぱいですよ~」

灯里さんは両手で胸を抱えてぷるぷると揺らす。

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ……」

ツン。

「あんっ!」

「こ、声が大きいですよ」

「だって、翔ちゃんが嫌らしいタッチをするから……♡」

「今すぐここから立ち去れ!」

「あ、そうだ。今日の晩ご飯は?」

「スルーかよ、良い度胸しているじゃねえか」

僕は半分あきらめモードになる。

「今日は牛肉のゴボウ巻きです」

「何それ、超おいしそう~! あたし、ゴボウ好き~!」

「へえ、意外ですね」

「だって、便秘に良いんだもん♡」

「あんた、発言に気を付けろよ。マジで頼むから、僕の中での女子にイメージを崩さないでくれ」

「翔ちゃん、そんなだから、童貞なんだよ」

グサーッ!

「……よし、決めた。ゴボウ巻きを煮る鍋の中に顔を突っ込んで死のう」

「落ち着いて、翔ちゃん! 童貞くんは最高に可愛い素敵な男の子だよ!」

「ちょっと、あまり童貞、童貞って言わないで下さい」

「じゃあ、チェリーくん♡」

「あー、死にて~」

学校では憧れの須藤に優しくしてもらって癒しだったのに。

家に帰った途端にコレとか……

「えへへ~、翔ちゃんのお料理楽しみだな~」

……けどまあ、悪くないか。

「せっかくだから、灯里さんも手伝ってみます?」

「え、嫌だよ。ゴボウを触ると汚れるし」

「くたばってしまえ」

やっぱり、この年上女さんはウザかった。






          

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