魔装戦士

河鹿 虫圭

8:気炎万丈が如く

遠回しに琉聖さんは俺を気遣ったのだ。

この石を渡さなければ君は戦うことになると。

誰だってそうだ。自分が戦う力を手に入れたならば尚更。だが、あの時俺は希望を見た、輝きを見た、未来を見た、俺の夢はこれだと……目の前で傷ついた人に手を差し伸べる。そして、その人を庇い戦う。何よりも、救いたいと言う気持ちが湧き上がっていたのだ。

「俺は……!」

石を力強く握る。光の反射で俺の顔が映る。

 俺は、どうしたい?

 俺は、何がしたい?

今まで湧き上がったことの無い感情が炎のように燃え始めた。

        悲しむ姿を見たくない。

   哀しい涙を見たくない。

俺は、治療室を勢いよく飛び出した。機関本部は町の一番中心にある。その中心から見えるほど廃工場の火は勢いが凄かった。俺は、その火を目指し走り出す。琉聖さんが現場に向かい数分が立つ。

『間に合わないだろうか……?』

そんなことを思い焦りが生じる。走っている途中でつまづき転ぶが、素早く体制を立て直す。貫かれた腹部は痛いはずなのに体は前へ前へと走り出す。

「ぐっ……!」

腹部を握りそれでも走る。痛みを我慢して、「助けたい」と言う気持ちとともに……
 



火事の起こる数分前……

新島 鷹斗にいじま たかととその他一行は廃工場でタバコの煙を吹かせていた。もちろん、鷹斗を除いて……一行の見る先にはボロボロの学生服をきた眼鏡の少年がいた。その学生服は鷹斗の通う学校のものではなかった……どうやら暇つぶしに他校の生徒をいじめているようだ。

「えっとぉ……?田中君だっけ?どうしたの?ゲームではあんなにイキってたくせにリアルになるとそんなにヘボいんだね?」

ボサボサの髪の毛を鷲掴みにして寺内は田中の顔面を地面にぶつける。息をするので精一杯の田中はもう喋る気にもなっていない。

「…………」

「ハハッッこいつ死んじゃったよ。ねぇタカ〜どうする?」

「知らねぇよテラが好きにすれば?俺帰る。」

つまらなそうに鷹斗は廃工場を出ようとしたが、鷹斗の足が宙に浮く……

「っ……!?」

鷹斗はいつの間にか首を捕まれ持ち上げられていた。それは鷹斗が息をするよりも、瞬きをするよりも早く。異変を感じた寺内、中谷、木本は鷹斗の方へと歩いてゆく。その時三人が見たのは恐怖そのものだろう。
 縦に割れる口から垂れる唾液は糸を引き、人間離れした数個の複眼はぐりぐりと動き、鷹斗を見た。

「キシャァ……アア?」

そこに意識はなく、理性も、知性もなかった……ただ本能で動き獲物を捕食するハンターがそこにはいた。

「なんだよ……こいつ……」

「やべぇ……やべぇよ……」

そんなことを思い思いに喋ると三人は廃工場の裏口から素早く出て行った。気を失った田中と二人になりしかも死の直前の鷹斗はただ涙を堪えるのに一生懸命だった。

「キシャァァァ」

そして、鷹斗はその異形の腰に何度も使える魔術陣があるのを見つけそこに得意の炎魔法を放つ。魔力エネルギーの炎に反応した魔術陣は一気に二人を包み込んだ。間一髪で鷹斗は軽度の火傷で済んだが、異形は全身に炎が燃え広がっていた。黒焦げになった異形は倒れ込む。

「やった……?」

そんなことを呟いた刹那……無数の蜘蛛が異形を包み、火傷などなかったかのように蜘蛛男は立ち上がった。

「シャァァキシャ……」

意味のわからないことを叫ぶと蜘蛛男は鷹斗に襲いかかる。蜘蛛男が鷹斗を押し倒したその音で気を失っていた田中が起き上がり軽く悲鳴をあげる。そして、そのまま寺内達と同じ方へと逃げた。

『とうとう、一人になっちまった……』

力を入れ食べられまいとこらえるが、力が抜け肩に噛み付かれた。悪あがきで鷹斗は魔力消費を惜しまずに魔法を放った……

業火フレイム!!」

可燃性のガスがあったのかとんちんかんな方向にはなった業火フレイムは大きな音を立て、廃工場内を全て炎で包み込んだ。
それでも捕食を辞めない蜘蛛男は鷹斗の耳のそばで咀嚼音を立てる。そして、炎は廃工場の外も包み込みいよいよ大事になってきた。

「俺……死んだわ……」

鷹斗は心に固く誓った……次に産まれてきたら夜は絶対に出歩かないと。そして、絶対信用できる友を作ろうと。




「状況確認……内部より少々の魔力反応あり……おい!大丈夫か!」

魔法術対策機関よりも消防隊がいち早く到着していた。そこへ魔法術対策機関の班員らしき二名がこちらへ来た。消防隊が敬礼をすると二人は軽く敬礼をし、状況確認をする。

「……わかりましたが、なぜ、中へ入り救助をしないのですか?」

戸惑いながらも消防隊の隊長らしき人物は答える。

「中に別の強い魔力反応がします。おそらく魔族かと思います。危険な数値を表示していたので中に入るのは危険かと……」

山の上なので消防車も乗って来れませんでしたと付け加えると燃える廃工場を見つめた。

「これは……その……酷いと思うのですが……」

隊長は苦虫を噛み潰したような顔で涙を流す。

「中の人ごと魔族が焼け死ぬのを待ちます。」

「バカですか!?」

夢希が隊長を怒鳴ると凪が隊長の顔を引っぱたいた。

「なんのために私達がいるのですか?考えてくだい。」

「そうだよね。」

そして、話に割り込んできたのは遅れてやってきた星々 琉聖だった。だが、琉聖は

「でも、だからと言って僕らは炎の中に飛び込んでいけないだろう?」

それはそうですけど……と夢希が言葉につまる。

「でも、このままでは……」

「隊長さん……誰も水魔法や水魔術を使えないの?」

凪が隊長に尋ねると隊長はさらに涙を流す。

「みんな魔法自体からっきしでして、魔術もできるものはおりません。この火は魔力エネルギーが大変高いので普通の水では……大変申し訳ない……」

「困ったね。」

琉聖は本気で困ったように眉間にシワを寄せる。その瞬間……琉聖の脳裏に石を持った少年が……晴山 優吾が思い浮かぶ。

『なぜ?このタイミングで?』

琉聖はさらに、眉間にシワを寄せる。すると、後ろから荒い息遣いが聞こえてきた。

「……っ!?」

『まさか……』

そう思った矢先、晴山 優吾は現れた。

「はぁ、はぁ、はぁ、…………っ!?」

その廃工場を見た瞬間に再び足を進める。もちろん、熱い鉄の扉を壁を突破できるとは思っていなかった。

だから……

 俺は、消防隊が乗って来ていたバイクにこっそり手をかける。使い方が分からなかったのでとりあえず、右手の動くハンドルを思いっきり回した。

ブゥオオオオオン!

その場の全員が固まった。アクセルがふかされたと思った時にはもう俺はその場にはいなかったかからだ……
 運良く、脆いところに当たったのか、すぐに鉄の壁か扉はぶち抜かれた。




壁か扉か分からないが壊れる音が聞こえた。その音で気を失っていた俺は目を覚ます。肩の咀嚼音はまだ鳴り止まない。

俺が見つめる先にはバイクと共にいじめていたあいつが倒れていた。

「なんで……!?お前なんだよっ……」

一番嫌な奴だ。助けられたくないやつだ。だが、何故か、安心した。ホッとした。

ガクガクブルブルになってるくせに立ち上がってこっちに向かってきた。

『バカかよっ……』

涙を流しながらそう思った。それに気づいた蜘蛛男はそっちに視線を向けた。

「キシャァァァアァ?」

至る所から血が出ているが、晴山 優吾はそんなボロボロの中でも蜘蛛男に向かっていった。

「はあああ!」

拳をぶつけるが、蜘蛛男はすんなり避け、優吾を蹴りつける。

「くっ……そ」

そのまま地面にへこたれると優吾はまだ立ち上がろうとした。

「俺は……っ!」

石を力強く握しめる。

優吾は頭に流れる詠唱を唱える。

「気炎万丈が如く!燃える拳!貫くは信念!!我、炎を纏いて、悪を清める!」

炎が石へと吸い込まれる……紅く輝く霊石は優吾を紅い光で包み込む。周りに浮いている鉄の塊が優吾へ刺さる。炎がさらにそれを包み込み空気が勢いよく優吾を中心に円を描きながら弾けた。

「炎化!魔装!」

周りの炎が全て優吾の石を中心に吸収された。廃工場の火事は一瞬にして消え去った。

「キシャァァァアァ」

蜘蛛男が威嚇をすると優吾の足は地を弾く
二人は勢いよく殴り合う。だが、蜘蛛男の拳は優吾へは届いていない。圧倒的に優吾が優勢で進める戦いはいよいよフィナーレを迎える。優吾は右足を前にクラッチングスタートの構えをする。

「キシャ……ァァ……」

弱った蜘蛛男は逃げようと背を向ける。

「逃がさない!」

再び優吾の足は地を弾く。さっきよりも力強く……左足で蜘蛛男の背骨を狙った膝蹴りをする。そして、真上に上がった蜘蛛男を燃え盛る右足の飛び蹴りで仕留める。

赤狼脚ウルフテスタロッサ!!」

その爆発音は朝日の輝く町へ鳴り響く。

その日の朝日は今年一番美しかった。

To Be Continued……


















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