あなたが好きでもいいですか

文戸玲

漏洩

 教室に入ろうとすると,エロがっぱが私のところへ走ってやってきた。顔見るだけでも縁起が悪いのに,なんだか嫌な予感がした。そしてこういう時の予感はだいたい外れない。

「お前,美月ちゃんとどうなってんの?」
「どうなってんのってなに?」

 わたしはエロがっぱのいきなりの問いかけに動揺を隠しながら答えた。大丈夫。こいつは私と美月の関係を何も知らない。お茶会を開けだとか訳の分からない主張を今日もまくしたてるのだ。

「なにって・・・・・・。おれんちにこんなん届けられてて。おかんにすげー不審がられたんだけど」

 エロがっぱが手に持っているものを見て,私は絶望した。今すぐこの場から走って逃げだしたかった。彼の手には昨日美月から手渡された封筒の中身と全く同じものがあった。中を見ずとも,そこに何が入っているのかが分かる。

「・・・・・・なにそれ。ラブレターか何か? 気分悪いからやめてくれないかな」

 吐き気がする。身体が拒絶反応を起こしているのを無理やり抑え込み,軽口をたたいた。誰がどの角度で見ても,私の表情はユーモアを発している人のものには見えないだろう。

「いや,別に嫌な思いをさせてやろうとかではないんだよ。ただ,なにか困ってないかなって思って」
 
 私の中で何かが途切れた。プツンという音をたてて,もうつながることはないという冷たさを含んで。

「もうほっといて!! 私と美月に関わらないで!!!」

 封筒を投げつけるとそのままかばんを持って教室を飛び出した。耳が触らなくても分かるほどに熱くなり,のどが締め付けられるような感覚に陥る。息苦しい。両耳の上の方が痛い。
 相手が悪くないことも,自分のことを本気で心配していることも分かっていた。それでも,新しく気づいた自分の新たな側面に土足で入り込まれたような感覚になり,恥ずかしさと悔しさで訳が分からなくなっていた。廊下を走る。玄関へ向かう。行き先を考える前に,とにかくこの敷地から一刻も早く抜け出したい。景色がぐるぐるとまわっているようで,自分がまっすぐ走れているのかも分からないまま靴をきちんと履きもせず学校の外へ飛び出した。

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