あなたが好きでもいいですか

文戸玲

口笛

 

 菜々美と腹を割って話した翌日は,すっきりした顔で家を出た。
 今日はテスト最終日。でも,私たちの間に大きく立ちはだかるのはテストではなかった。私は覚悟をしてきたつもりだ。これから三人の間に生まれることになるのかもしれない心の壁に立ち向かう覚悟だ。
 教室に入ったらまっ先に美月のところへ行こうと思っていたが,まだ彼女は登校していなかった。昨日から登校時間が極端に遅くなった。あの日の後ろめたさから登校を渋っているのか,それとも何か別の理由があるのか・・・・・・。
 菜々美はというと,私よりも早く来ていた。席に座っていたが私に気付くと立ち上がり手を振った。

「遅いじゃない。やる気になってるのは私だけ?」

 歯を出して笑った。でも,その笑顔に陰湿さはない。常に菜々美の原動力は正義感だ。

「やる気って何よ。私は前みたいにみんなで仲良くしたいだけ。」
「それってテストよりも大事なこと? 大学入試というか,進級がかかってるけど」
「何言ってんの。テストなんてくそくらえだよ。私は気に入った友達と一生仲良くしていきたいの。」
「ひゅー。青春~~。ま,そうだよね」

 菜々美が口笛を吹いた。それは,これからの重苦しくなるであろう予兆を吹き飛ばすような明るさがあった。ナチュラルな色付きのリップが菜々美の唇より色っぽく際立たせている。その尖らせた唇に男は惹かれるのだろうなあ,なんて全く関係ないことを考えては,私もその色気に惹かれていることをくすぐったく思う。

「あ,今私のくちびる狙ってたでしょ。ほんと,あんた絶対毒されてるって」

 菜々美が口元を隠して言った。鋭いなあ,と一瞬たじろいだが,何でもないように返す。

「まじでやめてよ。菜々美を見ると昨日から下がまじで湿ってくんの」
「・・・・・・まじ?」
「冗談に決まってんでしょ。」

 小突き合っていると菜々美の視線が教室の入り口に向いたのを感じた。美月が来たのだと悟った。
 私たちは顔を見合わせて大きくうなずき,美月のもとへと向かった。

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