あなたが好きでもいいですか

文戸玲

すれ違い

 
 試験は手につかなかった。開始の合図があってもどこか上の空で,気付けば30分近く時間が経っていたなんてこともあった。昨晩はもちろんペンを持つ気力は沸かなかったし,試験の結果は返ってこずとも目に見えていた。
 それでも,その日最後の試験が終了したとき,落胆する余裕すらなかった。菜々美に感じた違和感は何だったのだろう。美月の昨日の行動は,突発的なものだったのだろうか。考えるべきことはたくさんあったが,解答用紙を回収されて解散を告げられると真っ先に菜々美のもとに向かった。

「菜々美,試験どうだった?」
「んー。昨日は話し相手もいなかったからはかどったし,ぼちぼちって感じかな。」

 そう言うとかばんを取り出して荷物を詰め始めた。え,終わり? いつもなら問題がどうだったとか,私の話も聞いてくれるのに。やっぱりおかしい。思い切って聞いてみた。

「菜々美,何か怒ってる?」
「あんたね~。それ怒ってる女の子に絶対言っちゃいけない言葉ここ15年揺るがぬトップ一位じゃない。友達やめられてから女の子心まで失ってしまったのかい?」
「ちょっと,やっぱり怒ってんの? なに友達やめちゃったって。私何かしたっけ?」
「私たち生まれた時からテスト勉強だけは一緒にしてきたじゃない。それがなに? 昨日は何も言わずにそそくさと帰っちゃって。おまけに,大富豪の家で豪華なパーティーを開いてたって? せめて一言ぐらい言ってくれたらよいのに。私おかしくなりそうだったよ」

 菜々美は誘われたけど来れなかったんじゃなかったの? 確かにそそくさと私も教室を出たのは確かだけど,全く思い描いていたものと状況が違っていた。
 三人で話さなきゃ。溝を埋めるのは早い方がいい。壁面が崩れて水がせき止められているみたいに流れが悪い私たちの間も,きちんと話をすればきっと修復するはずだ。私たちの間にあるすれ違いや疑問を解決しよう。答えはきっとある。白紙のままの答案用紙じゃ,だめだ。
 多くの謎を抱えたまま美月の席に目をやると,彼女の姿はもうそこにはなかった。


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