あなたが好きでもいいですか

文戸玲

そして出会いへ~美月side~

 結局,転校をするという選択はしなかった。もともと勝ち気な性格をしていたため,周りに好奇の目で見られたり茶々を入れられることに耐えられないわけではなかったし,友達が一切いないわけではなかった。
 ただ,ここで逃げてしまうと,辛い時にいつでも逃げてしまうんじゃないかという恐怖心のようなものが当時はあった。だから,中学校だけは卒業までは通い続けようと思った。
 私は大丈夫だった。ただ,毎朝玄関で見送ってくれるの心配そうな眼は辛かった。

「子どもは狭い視野で生きているの。大人になったら世界が広がって,いろいろな価値観が認められてくるから,それまでは自分の気持ちと上手に付き合いながら生活しなさい。」

 お母さんははある日,そう言った。おおらかで,受容しようという気持ちを示していたが,やはり我が子に辛い思いはしてほしくないのだろう。
 私の生き方を変えてほしいというよりは,私が自分の生き方を貫くことによる弊害を危惧している様子だった。
 その日からお母さんは,私の交友関係を気にするようになった。
 高校生になってしばらくすると,転校が決まった。
 お父さんは転勤族のため,単身赴任で勤めに出る期間もあった。今回も異動が出されたわけだが,家族みんなで引っ越しをしようということになった。
 会社が引っ越しの費用を負担してくれること,大都会の喧騒から離れたくなったことを理由として話はまとまったがそれは建前でもあることは私が一番よく分かっていた。
 そして,この土地から離れられてホッとする自分がいることにも気づいていた。

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