いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

髪の毛とシャンプー



「お邪魔しました。・・・・・・その,また来てもいいかな」

 遠慮がちに言った。もしかしたら,トオルさんは性欲のはけ口として私を見ていたのかも知れない。そんなことはないと心の底から分かっていながらも,返事を聞くのが怖かった。男の人に言いように使われるはまっぴらだと思っているけど,今回は順番を間違えた。でも,それを承知した上で家に上がり込み,事実私はあの状況を受け入れたのだから何も言い訳のしようが無い。人のことになると偉そうになるくせに,自分のこととなると途端に見境がなくなる。
 顔はうつむいたまま,目だけで相手の反応を伺った。


「そんなかわいい顔して,これ以上男心をくすぐらないで。荷物がまとまったらうちで暮らしたら良いよ。・・・・・・ごめん,偉そうなこと言ったね。もし良かったら,一緒に暮らそう」

 はい,と答えていた。有頂天になったまま抱きついた。満足のいくまで力一杯抱きついた後、荷物をまとめておきます,といって別れた。
 外に出ると,日が昇りかけて朝焼けが山の端から現れていた。冷たい風が優しく顔をなでた。髪の毛が顔にまとわりつくのを払おうとしたが,やめた。髪の毛からはシャンプーの匂いが漂っている。


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