いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

今日のお酒は酸っぱかった

 いつもなら燻製されたハムや卵,練り物をしっかりと堪能して口の中で香りを楽しみように食べるのに,今日は少し厚めのハムを乱暴に放り込むようにして口にし,乱暴に咀嚼した。そして,煽るようにしてギムレットを一息に飲み干した。

「トオルさん,もう一杯頂けるかしら」

 少し大きめの声でおかわりをお願いした。「頂けるかしら」なんてらしくない言葉を使ってむずがゆい感じもしたが,眉間に力を込めてカウンターの女を見た。
 綺麗な女だった。本格的な冬に突入しようというのに,小麦色の肌が健康的な印象を与えている。その肌はすらっとした体に見事にマッチしていた。筋の通った高い鼻と書き上げられた髪の毛,大きな瞳を彩るように形の綺麗な二重と濃いめに整えられた眉毛からは気の強さがあふれ出ている。
 なによ,とすごみたかった。でも,宝塚の劇団員を想像させる美しさの前では,刃を突き立ててもこちらが刃こぼれしてしまうのが容易に想像できた。
 トオルさんが微笑みながらギムレットを私の前に置いた。お礼を言って一口すする。ギムレットは,いつもより酸っぱかった。

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