いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

鳴らない電話


「波瀾万丈ねー。それにしても,なんかいつも進展早すぎない?」

 ホットコーヒーを飲みながら夏妃と向かい合っていた。タートルネックの襟を気にしながら連絡先の書かれたレシートをとんとんと叩き,嬉しそうにこちらを見る。

「で,どうだったの?」
「どうって何が?」

 分かってるくせにじれったいなあ,とモンブランの上に載った栗をつつく手を止めて,代わりに親指と小指を立てた拳を耳に当てた。

「かけたんでしょ? 電話。今度はいつ会うの?」
「いや・・・・・・,まだかけてないけど」

 えー! と大きな声を上げて目は飛び出しそうなほど見開かれている。近くのテーブルに座っていた何人かがこちらを見た。

「ちょっと夏妃,声が大きいから」
「だってあんた,このレシート一週間も前のやつじゃない。それまで放置していたの!? 駆け引きが上手な子は違うね~」
「いやいや,駆け引きとかじゃなくて,ただ・・・・・・,何てかけたら良いの?」
「は? あんた中学生じゃないんだから,そんなんかければどうだってなるよ。バーでお世話になった挨拶でもしたら?」
「でも,時間が空き過ぎちゃったしな~」
「だから普通次の日かその日のうちでしょ。まあ,ピザ作りたいんだったらお願いしてみたら? それか,旅行とか♡」

 旅行、無理無理。でも,ピザのお願いはいいかな? 図々しいかもしれないけど,今晩,かけてみよう。




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