いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

手作りピザ


 ほどよい塩気の奥に上品な甘みが隠れている。蜂蜜だろうか。チーズも場所によって使われているものの種類が違うようで,そろぞれが主張をし合うわけでもなく控えめに,かつ重なり合って相乗的に深みを増している。尋ねずにはいられなかった。

「このピザはどちらのものですか?」
「気に入っていただけましたが? 趣味でピザ釜で焼いたものでして,休みの日にたくさん焼き上げたものを冷凍してお店で提供しているんです。本当は焼きたてを食べて欲しいんですけど,まさかバーの厨房にピザ釜を置けるはずもないからね」

え,手作りなの,と思わずつぶやいた。

「そうなんです。少食であまり食べられないんだけど,作るのは好きでして。お酒もですが,おつまみなんかも結構こだわっているので,気になるものがあったらおっしゃってくださいね」

バーテンダーはにこやかにメニューを差し出した。手になじむ革で作られたメニュー表を見ると,品数は少ないが目を引くものが多い

「この,燻製もご自分でされているのですか?」
「ええ,何か食べたいものがありましたか?」
「じゃあ,生ハムください」
「燻製ちゃうんかい」

不自然な関西弁でツッコミを入れるバーテンダーに思わず吹き出してしまった。
 良かった,やっぱり笑顔が素敵ですね。というバーテンダーにおつまみの燻製盛り合わせを注文した。バーテンダーが厨房へと下がっていくのを眺めながら,笑顔を褒められたのはいつだっただろうと考えた。

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