いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

はじめまして・・・・・・



「はじめまして・・・・・・,お父様と,お母さまですか?」

とまどいつつも一応尋ねた。関係性を理解しておかないとこれから話の合わせようもない。もしかしたらたまたま通りすがりの夫婦と一緒に飲むことになっただとか,駆け出しの年配俳優だとかということもあるかもしれないのだから。もちろん,そんなことは無かった。

「君は一体何を言っているんだ。こんな訳の分からないことを言う女とお付き合いしているのか。いい年をしているくせに」

まあまあお父さん,と隣にいるおばさんがなだめる。
 何を言っているんだ,とはこちらのセリフだ。彼氏とご飯の待ち合わせに来たつもりが,目の前には見知らぬおじさんとおばさんが座っている。何も、「通りすがりの方ですか? それとも駆け出しの俳優さんですか?」などととんちんかんな事を聞いたわけではない。知らない人が約束の場所に不意に現れたら,どちら様かと尋ねるのは当然だ。なぜ私は開口一番責められなければならないのだ。
 彼の方を見ると,笑顔でこの場を心底楽しみにしているような顔をしている。

「お父さんとお母さんだよ。まあまあ,座って挨拶でもしなよ。それから飲もう」

 私の中で糸がプツリと切れた。

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