いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

日が差す朝に


 カーテンの隙間から差してくる日差しで目が覚めた。朝早い時間でないことは分かる。寝室の窓は南向きにある間取りの為,午前中の後半に差し掛かったころでないとまぶしくなるほどの日差しが差すことはない。少しの気怠さと,朝寝坊の罪悪感と,これからのことの憂鬱さで起き上がるのが一層だるい。
 恐る恐る時計を見ると,針は10時を少し回ったところを指していた。

ああ,辛い

思ったほど寝過ごしてはいなかったが,朝早い時間にいったんこの家を出たかった。まだ別れ話も切り出していないし,話をしたところで荷物を一度に引き払えるわけでもないので,いずれにせよ今日でおさらばという訳にはいかないのだけれども,それでもこのブルーな気持ちを少しでも紛らわせたかった。
 体を起こし,軽く伸びをすると,リビングから食欲をそそる匂いがする。私も何か作っておなかにいれよう。そう思ってベッドから降りた。下半身が,少しだけ重い。

「おはよ」

疲れを残した身体からはいつも以上に小さな声しか出なかった。それでも彼は嫌な顔一つせずに,

「おはよ。朝ご飯出来ているから食べなよ。少し遅いけど。温めなおす?」

とソファでコーヒーを飲んでゆっくりしていた身体をこちらに向けて問いかけた。
 テーブルに目をやると,そこにはサラダとフルーツの乗ったヨーグルト,ベーコンの添えられた目玉焼きにラップがしてあった。おまけに目玉焼きは私が大好きな半熟にしてある。キッチンには小さな鍋があるからみそ汁も作ってあるのだろう。彼の味噌汁は,だしをしっかりとって作ってあるため薄めの味でもしっかりとうまみと味わいのある落ち着く味だ。

「みそ汁だけ温めて食べるね。ありがと」

言った後に思わずため息が漏れそうになる。どうしてこんなにできた人とでもうまくやっていけないのだろう。本当に私にはもったいないぐらいの人だ。涙が浮かびそうにそうになるのをこらえ,ガスコンロのスイッチを押した。

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品