いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

前の旦那を気の毒に思う

 まさか,前の旦那を気の毒に思う日が来るとは思わなかった。私は,彼との同棲にうんざりしかけていた。
 彼は几帳面すぎる。始めは良かった。私が食器を洗っているときには昼間に干していた洗濯物を畳んでくれていたし,お風呂でゆっくりしている間には洗った食器を拭きあげて棚に戻してくれていた。今どういう動きをするのが最も効率が良いのかを計算しつくしているようで動きに無駄がなかった。くつろいでいるといっても綺麗な姿勢で本を読むくらいで隙がない。
 ただ,良いことばかりではなかった。
 私は,彼といるとどこか心落ち着かなくなっていることを感じた。食事をしているときも,私が水滴をこぼそうものならすぐにふき取った。几帳面な人だなと思った。ただ,だんだんと私がくつろいでいる時も何度もクイックルワイパーをかけ,粘着質のころころするやつで何度も何度もコロコロしていた。それを見るとこちらも何かをしなければという気持ちにもなるし,動こうとすると「休んでて」と言われるのだが,逆にそれがプレッシャーになりつつあった。
 だんだんと居心地が悪くなっていることに気付いた。もしかしたら,前の旦那も同じように私に息苦しさを感じていたのかも。そこまで考えるようになった。

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