いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

だらだらするのは難しい

 
 お礼を言ってやっと家に帰ってきた。飲むのは旦那,運転するのは私。それなのにこんなに嫌味を言われて・・・・・・。ちっとも羽を伸ばせないまま休みが終わってしまう。寝るまでの時間をゆっくり過ごそうと考えていたが,そういう訳にはいかない。“だらだらすること”も難しいのだ。
 リビングに座ってお菓子をつまみながらテレビを見ていると,旦那の気配がしばらくないことに気付いた。普段ならそれは大変喜ばしいことなのだが,今日に関しては嫌な予感がする。トイレに行くと,案の定ダウンしていた。運転席をおりてから玄関までが半分千鳥足だったため,めんどくさいとは思っていたが家の中でも迷惑かけられてはたまらない。後ろから背中に軽い蹴りを入れながら声をかけた。

「おーい。もうお風呂に入って寝ちゃいなよ。汚いから絶対そこに頭を突っ込まないでね」
「おーん」

おーんってなんだよ。めんどくさくなった私は先にお風呂に入ることにした。毎日の生活にうんざりしながらも,お風呂に入っているときだけはリラックスできる。好きな香りのシャンプーに包まれて,たっぷりと半身浴をしてからお風呂を上がると,まだリビングには旦那の姿がない。いい加減しびれを切らし,イライラを抑えきれずにトイレに行くと,そこには目を背けたくなる光景が繰り広げられていた。便器が吐しゃ物でまみれていたのだ。口元に顔を近づけ,卵が腐ったような刺激臭と胃酸とポテトチップスが混ざった固形を含んだ物体に耐えながら呼吸をしていることを確認すると,旦那の背中に蹴りを入れ地獄絵図のような場から立ち去った。だらだらすることさえもこの世界では許されないのだ。

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