いつまでも,いると思うな家に嫁

文戸玲

しっぽを求めて



旦那のセキュリティは堅かった。


携帯電話を置きっぱなしにしておくことはもちろん無くなり,トイレに行くときや昼寝をしているときさえポケットに忍ばせるようになった。

かといって,お風呂の中にまで持ち込むわけにはいかない。
私は歯磨きをしにきた風に装い脱衣場に入っていき,歯を磨きだした。
もちろん視線は綺麗な歯並びを映し出した三面鏡ではなく,きれいにたたまれた寝間着に注がれている。

一番下にはズボン,その上には上着がたたまれている。
おそらくこの間に携帯電話が隠されているのであろう。

鏡の下の収納にしまわれた荷物を探るふりをして扉を開け,右手で中をあさる音を極端に響かせながら,左手では旦那の寝間着の間に素早く手を忍ばせる。


あった。


ロック画面は分かっている。
誕生日の4桁。
手際よく番号を押してメッセージアプリを開きたいところだが,手元がおぼつかない。
右手は荷物をあさりながら左手で認証。
どうして利き手を使わなかったんだ!私としたことが!!!

はやる気持ちを抑えて,ロック画面を解除した。
と思ったところが,あの野郎,ロック番号を変えてやがる!!

寝間着の間に隠したり,ロック画面を変えたり,これは完全に黒だ。
この黒色を日の明かりに当てて姿をあぶりだしてやる。


赤のマントを目の前で広げられた闘牛のように,私の闘志は燃え上がっていた。


このままいくつかの番号を候補として入力してみようかとも思ったが,これ以上荷物をあさるのはあまりにも不自然だ。

私は立ち上がり,洗面台に向かって歯磨きで泡だらけになった口の中を吐き出した。
と同時に,旦那が浴室から出てきた。
「今日は歯磨き早いね? 探し物は見つかった?」
いつもは素っ頓狂で能天気な男が,この時だけは不気味に感じた。
口,歯磨き粉が垂れているよ。
と屈託のないいつもの笑顔を見せて,タオルを首にかけ,寝間着を抱えてリビングに向かっていった。



不自然だったかな。
まあいい。
私は焦ってはいない。
ゆっくりとあぶりだして,決定的で逃れようのない事実と証拠を複数つかんでやるのだから。



かくゆう私も慎重にならなければならない側面を持ち合わせていた。
浮気調査をすることとは別のことで。

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