エレメンツハンター

柏倉

第12章-4 結界攻防戦

 空調の効いた宝船のオペレーションルームの統合オペレーター席で、アキトは額に汗を滲ませ、能力の限界に挑戦していた。アキトの苦手な人型兵器同士の近距離戦闘に移行した所為だ。
 同時に幾つもの策謀を巡らせ、敵が意図せぬまま罠へと陥れ、余さず破壊する。そういう戦闘が得意なアキトと対照的に、反射的な動きが勝敗の趨勢を左右する近距離戦闘は、翔太が得意としている。
 弁才天の機動は見事の一言で、最近の翔太の急成長を物語っていた。
 バイオネッタの振るう高周波ブレードの剣を躱し、レーザービームの銃剣の刃をいなし、突進してくる長槍の力のベクトルをずらして同士討ちを狙う。しかし、弁才天は徹頭徹尾、近距離戦闘には不向きな機体なのだ。
 弁才天は、外見のデザインありきで開発されたため、装甲は重要部分のみの設計になっている。人型兵器バイオネッタは、関節部分の露出を極力抑え、羽重ね装甲で攻撃から保護しているのだ。
 弁才天が敵の攻撃を受け止められるのは、琵琶だけである。
 8臂のうち5本の腕は、装甲を外すと無限可変式合金だけであり、バイオネッタの剣を受け止める力はない。装甲で受ければ腕は切断されないが、弁才天の胴体にまで剣が届く。重要部分以外の箇所に当たれば、弁才天は破壊されるだろう。
 アキトは文句を口にする労力も惜しいとばかりに、無言で戦い続けている。無言のアキトにプレッシャーを感じて、しおらしく中央突破に戦法を変更する翔太・・・ではなかった。今や、遠距離からもバイオネッタが援護の為に群がり、8機以上が弁才天を囲んでの接近戦となっていた。
「アキト、大変!? 宝船がないわ」
 風姫の意図を推察せず、言葉の意味を咀嚼せず、アキトは反射的に答える。
「オレ達が乗ってんのが宝船だぜ」
 答えただけでも気を遣った対応なのだが、アキトの窮状を風姫は理解していない。そのため風姫は、詰問口調で質問を重ねてくる。
「ここが目的地ではないのかしら?」
 戦闘中に他へと意識を向けるのは難しい・・・というより命取りなのだ。風姫はジンと話している感覚なのだろう。戦闘を愉しみ、常に余裕を保てる現ロボ神という非常識しか知らないからこその、風姫の台詞であった。
 ここでアキトが怒鳴りつけたとしても、客観的に判断して非は風姫にある。
 しかしアキトは、信頼を込めた言葉を自然と口から零す。
「頼むぜ、兄貴」
 千沙は視線をディスプレイに釘付けにしながらも満面の笑みを浮かべ、翔太は口笛を一吹きする。
「うむ。任されたぞ」
 ゴウの無駄に良いバリトンボイスが、嬉しそうな声色でもってコントロールルームを包み込んだ。
 アキトがゴウと出会ってから半年間は”ツヨシさん”だった。トレジャーハンティングユニットお宝屋を辞めてからは”ゴウ”。半年後からお宝屋を辞めるまで、アキトはゴウを”兄貴”と呼び、慕っていた。
 ゴウ達3人は、アキトがいた時のお宝屋の感覚を思い起こしていたのだ。
 集中しているアキトは雰囲気の変化に気づかなかった。しかし、千沙からの情報精度が上昇し、敵の攻撃を回避する弁才天の動きがスムーズになったのには気づいた。
 そうして出来た余裕を、アキトは周囲の雰囲気の変化に向けるのではなく、作戦の考案に充てたのだ。
「翔太。囮3本、巻き付け1本、牽制1本。矢3後方上、即連3」
『了解さ』
 無限可変式合金を必要以上に曲がりくねらせ、刀/矛/長杵が前方のバイオネッタに襲い掛かる。右側面から地面にかけて鉄輪が舞い踊りバイオネッタを接近させない。その間に斧を失った無限可変式合金がバイオネッタ2機に巻きつき、動けぬよう束縛する。
 束縛した時には既に、バイオネッタは弁才天の餌食が確定していた。弁才天の右膝からレーザービームが輝線を引きバイオネッタの胴体を貫く。左膝から電磁気を帯びたレールガンの弾が装甲に亀裂が走り、バイオネッタの内部を圧壊する。
 近距離のバイオネッタ2機を撃墜。
 矢筒にあるミサイルは残り9本と貴重だったが、3本をロックオンもせずに放つ。左後方上に陣取っていたバイオネッタ1小隊4機へと迫る。しかし、バイオネッタに命中しないのは確定的。アキトはバイオネッタの手前で、3本の矢型誘導ミサイルを自爆させたのだ。
 バイオネッタ小隊にとって自爆したミサイルは、煙幕兼レーダージャミングの役割を果たす。しかしアキトにとって結界内は、全てを見通せてるも同然。
 次に番えた3本の矢型誘導ミサイルがバイオネッタ3機を撃破。先に自爆させたミサイル3発とバイオネッタ3機の爆発の衝撃で、残りの1機も撃墜できた。完全に偶然の産物なのだが、アキトは計算通りの結果だと豪語しようと心にメモする。
「千沙。大黒天、進出経路の最適化を!」
 バイオネッタを6機を撃墜したことで余裕ができた。アキトは千沙に次の策略の為の指示をだし、その策略を活かすための言葉を継ぐ。
「弁才天を上空へ。翔太、派手に飛びやがれ」
 バイオネッタは残り10機。
 離脱していたカヴァリエー6機が、弁才天の更に上空から迫りつつある。
『そうそう、そうこなくっちゃねぇー。空中機動は僕の得意中の得意さ。さあ、ご覧あれ』
 翔太の気持ちが天井知らずに高揚している。こういう時の翔太は、自由にやらせるに限るのだ。反応速度が上がるだけでなく、冷静な時より視野が広くなるという特殊な男が翔太なのである。
「アキトくん、最適化完了なの。機動歩兵科の攻撃を完璧に回避できるよ」
 回避できるとの判断には、敵の戦力を知らねばならない。結界内に数多のモニタリング端末からのデータとはいえ、敵の武装までは分からない。それなのに何故、千沙がTheWOCの即応機動戦闘団機動歩兵科の兵器を知っているのか?
 新造”宝船”が知っているのだった。
 アキトがジンに巻き込まれ、危険地帯に赴く可能性が高いと知った新開グループは、新造”宝船”に戦略戦術コンピューターを搭載しようとした。専用ハードウェアと専用ソフトウェアからなる戦略戦術コンピューターは、簡単に搭載できるものではない。軍事方面のノウハウの少ない新開グループは新造”宝船”への搭載を諦めた。しかし、軍事情報は詰め込んだのだった。
 新造”宝船”に汎用量子コンピューターを追加で搭載し、古代から現代までの戦略、作戦、戦術などの戦訓をデータベース化して登録した。その情報をアキトは有効活用し、TheWOCの私設軍隊相手に圧倒的な優位を確立していた。実のところ、薄氷の上の優位でしかないのだが・・・。
 その薄氷の上の優位を維持するため、アキトは次の策略を開始していた。
「大黒天全力出撃。かき回せ」
『うんうん、それで攻撃はどうするのかな? アキト』
「一任」
『そうそう、弁才天のは?』
「オレがやるぜ」
『ふーん・・・まだまだ僕には余裕があるんだけどさ』
 余裕のないアキトは必要最低限しか口を開かず、余裕のある翔太は認識の齟齬がおきないよう質問をしたのだ。
「即応待機」
『なるほどねぇー。了解したよ』
 この会話から分かるように、翔太は誤解なきよう物事を進められる男であり、普段は誤解ありきの会話を愉しむ男なのだ。

「2個機動戦闘団、それぞれ結界内まで3分、10分」
「起動。毘沙門天、寿老人、恵比寿。封じ込めるぜ!」
『福禄寿は必要ないのかな?』
「後詰め」
『了解さぁー』
 アキトと翔太、千沙が激化するTheWOCとの戦闘に注力している。
 その間、格納庫にもあった8角形の打ち合わせ机で、ゴウと風姫は史帆を待っていた。ゴウから《ここは結界内じゃないぞ》との一言を聞いたヘルは、興味を失ったようで研究論文の執筆に戻った。
 オペレーションルーム内の空気は緊張感に満ち溢れていた。アキトたちは刻々と変化する戦場と策略の実行に数ミリ秒間隔で対応している。翻って、ゴウと風姫は微動だにせずメインディスプレイを眺めている。
 史帆がグラスを1つ手に持ち、開いたオペレーションルームの扉から入ってきた。打ち合わせ机にいるゴウの前にグラスを置き、メインディスプレイの前を通るのを避け、風姫の席の隣に座る。
 それでも、ゴウと風姫はメインディスプレイから視線を外さない。
 分割されたメインディスプレイの中央には、大黒天が米俵ジェットで力強く・・・というより力に任せに、猛スピードで飛行している姿が映し出されている。中央右隣には、大黒天の目からの映像が表示されていて、バイオネッタの1小隊の背後を捉えている。
 その迫力ある映像から視線をムリヤリ剥がすには、史帆の戦闘力は圧倒的に低かった。しかも耳の中へ、ゴウと風姫の興味を引く内容が次から次へと入ってくる。
「1個戦闘団が結界手前で布陣するみたいだよ~。でも、もう1個の方は寿老人方面から結界内に侵入してきたの」
「侵入してこない方は放置・・・もう」
『寿老人と恵比寿で迎撃してみせるさ』
「そうじゃねぇー。後方から不意打しろや」
『情けないから・・・せめて襲撃とかにしないかい?』
 緊張感を奪い取る会話だが、ゴウと風姫の興味を惹きつ続ける。
 そこに、コーヒーの芳醇な香りが漂い始める。クックシスがコーヒーを淹れ、運んできたのだ。もちろん、アキトが喫茶サラで購入したコーヒー豆を使用している。
 打ち合わせ机に置かれたカップから漂う香りに釣られ、漸くゴウと風姫はメインディスプレイから視線を外したのだ。
 ゴウは香りを愉しみ、一口含んで苦味と酸味の絶妙なバランスを舌で感じ、嚥下後のコクを味わう。
「相変わらず美味いな」
 吐息と共に、ゴウは素直な感想を洩らした。
 アキトにコーヒーの味を教え、喫茶サラを情報屋として紹介したのはゴウだった。ゴウ好みの味でコーヒーの美味しさをアキトは知った。それ以降、幾つもの銘柄や焙煎、淹れ方で注文したが、今はまだ、ゴウの味覚を引き継いでいるのだった。
 故に、ゴウが美味いと感じるのは当然なのだが、風姫と史帆の2人は目を瞠った。風姫はゴウにコーヒーの味が分かることに驚き、史帆はバリトンボイスの囁きに込められた称賛に満足感を得て・・・。
 一言に真逆な感想を持った2人を置き去りにするかのように、ゴウは唐突に語り始める。
「まず結界の定義からだが・・・」
「知っているわ。空間に境界を定義して内陣と外陣に分ける。そして設定した対象物に境界を越えさせない・・・どうかしら?」
「うむ、ここまでは満点だな」
「ここまで?」
 平坦な口調で史帆が呟いた。
「ああ。ここまでは、な」
 史帆に対してゴウは優しく答え、視線を風姫に戻し出来の悪い生徒に考察を促す。
「だが、応用が利かないから宝船の場所を勘違いするのだ。結界の役割を考えれば、自明の理だぞ」
 ゴウはサバイバルの教官として、風姫の思考を鍛えているのだ。ただ、風姫の意志を確認したことはない。
「役割・・・? 内陣の領域守護が、結界の役割だわ」
「うむ、零点になったぞ」
「どういうことかしら?」
「説明している最中に口を挟んだのは貴様だぞ」
 悔しそうな表情を浮かべ、風姫は必至に考えを巡らす。しかし思考の陥穽に嵌まり込み、柔軟な発想が出来なくなっていた。
 カップを口の近くに持っていき、ゴウは徐にコーヒーの芳香を愉しむ。
 風姫の周囲とゴウの周囲は、時間の流れが異なっているようだった。ゆったりと少なめのコーヒーを飲み終えたゴウの表情はリラックスしていて、風姫は額に汗を滲ませていたのだ。
「まあ、とりあえず人の話を最後まで聞くのだな」
「・・・分かったわ。最後まで聞くから、さっさと話してくれないかしら?」
「ふぅー。全く、王女様は短気だな」
 カップを机に置いてからゴウは、ワザとらしく溜息を吐き、大人げなく風姫を煽った。そして風姫は、一々ゴウの言葉に反応してしまい、苛々しながら台詞を吐き捨てる。
「早くしてくれないかしら?」
 もはや、風姫の育ちの良さを保っているのは、言葉遣いだけだった。
 頭に血が上った状態でも冷静に検討できるかどうか確認するために、ゴウは煽ってみたのだ。そして、海で対決した時と心構えに変わりがないようだと、ゴウは判断するに至った。
 現在TheWOCと戦闘中であり、説明に多くの時間を掛けられる状況にない。ゴウは教育を諦め、今は結界の解説だけに留めることにする。
「内陣と外陣があるのだから、結界の用途は2通りになるな。護ると封じ込めるだ。今回の結界の用途は、封じ込めることを役割としたのだ。それゆえ宝船は、外陣に配置することになる。良いか、結界を敷くのは、敵と自分を境界で分断するためなのだぞ。常識的に考えれば、私設とはいえ軍隊を敵に廻して、この仕組みは実現し難い。だが、アキトの開発したオリハルコン通信が、この結界を実現した。宝船の人工知能がソフトウェア部分の開発を担当したが・・・ソフトウェア開発専用のコンピューターでないため性能と精度が良くなかったがな。まあ、史帆の貢献がなければ、こんなにも巧くいかなかったぞ」
 急な自分の名前が出て、史帆は呆気に取られ小声で独言する。
「・・・アタシが?」
 ゆったりとした所作で、ゴウはグラスを持ち、水を一口含む。その動きは、人に全く警戒を抱かせなかった。見えていても、気にならない、気にさせない。ゴウが苦労して身につけ磨き続けている技(わざ)であり、業(わざ)である。
「うむ、史帆が、だ」
 史帆は驚きの視線で、風姫は疑いと驚きの入り混じった視線で、ゴウを見つめる。
「珍しく技術分野で、アキトが人を褒めていたぞ。そういえば・・・水龍カンパニーの速水工場長以来だな」
「それは凄いことなのかしら?」
「ふむ、スゴイだろうなぁー」
「・・・うん、たぶん凄い。ちょっと嬉しいかも・・・」
 史帆は微笑を浮かべ、素直に答えた。本来の彼女らしさが声と表情に現れていた。
 史帆は元々素直な性格で、祖父を始めとした水龍カンパニーのエンジニア達から教えられた技術を余さず吸収してきたのだ。
 しかし、アキトは初対面の印象が悪く。風姫とジン、彩香は教えるより騙す方が好きな性格。お宝屋は一般人枠から飛び出し、トレジャーハンター枠には納まりきらないので警戒を解けない。放り込まれた環境に適応できず、全員から少し距離を取っていた。
 ゴウは思い出したように、一言付け加える。
「んっ? だが、研究分野ではヘルを褒めていたぞ」
 ヘルと同列に扱われたと史帆は感じ、ショックに表情を曇らせる。
「ちょっと、イヤかも・・・」
「人格と能力に相関関係はないぞ。いや・・・ちょーっと、人として逝っちゃってる方がオモシロいアイディアを持ってるらしいぞ。現に、ヒヒイロカネ合金の基礎研究者達の趣味は珍しいのが色々あってな。ダークマターのテイスティングとか、ダークマターのみで作製したインテリアを部屋に飾るとか・・・」
 味覚や触覚、嗅覚に対してダークマターは作用するため、テイスティングが可能ではある。しかし人類にとっては、ほとんど解明されていない未知の物質であり、人体にどのような影響がでるか分からない。テイスティングという行為は、自分自身で人体実験をしているようなものなのだ。
 また基本的に、ダークマターは電磁波に干渉しないため、インテリアとして視覚で愉しむことは不可能である。風鈴のように、空気を介して聴覚を刺激することは可能だが・・・。
「あー、なるほど・・・逝っているというのは、人間性を亡くしているという意味かしら?」
「それは違うぞ」
「あら、どう違うのかしら?」
「人間性というのを人生で培わなかったから、元々持ち合わせてないという意味だ」
 ゴウ自身は研究者と接点がないので、すべて新開グループ開発部門のスタインマン統括からの受け売りだった。つまり、逝ってるというのも、スタインマン統括の言葉である。
 ゴウはスタインマン統括から聞いた研究者達の数々のエピソードとヘルと知り合ったことから、彼らが逝ってるのだと確信を持った。しかし、そんな人物は一部あり、研究者の大半はまともな人生を送り、人間性を持ち合わせている。
「・・・アタシも?」
「安心しろ。史帆は違うぞ。研究者ではないからな。んっ? そうだった、そうだった。技術分野と言っても開発者と言ってたぞ。速水工場長は、技術者だともな」
「アタシが開発者? えっ?!」
 史帆の困惑や疑問を置き去りにし、史帆の気持ちを一顧だにせず、ゴウは
「うむ、それとな。史帆は技術者に向いてないとも言ってたぞ」
「向いて・・・ない。なんで?」
 史帆に思うところがあるのだろう。
 俯き、両肩を小刻みに震わせている。
「技術者と開発者・・・何が違うっていうのかしら?」
 風姫は史帆を庇うように、ゴウへと突っかかった。
 宝船にいるメンバーの中で、風姫は史帆と一番長い時間を過ごしていた。だから史帆が悩んでいることも、悔しさを胸に技術力を高めようと、必至に足掻いていることも知っていた。抱えきれずに史帆は一度だけ風姫に心中を吐露したことがあった。
《アタシと何処が違うのかな・・・始めから頭の良さが違うからなのかなぁ・・・》
《アタシは技術者のはずなのに・・・》
《どうすれば・・・、どうすれば・・・。アタシは・・・技術者としてユキヒョウに乗船したのに》
《背中が・・・遠いよ》
 努力すればするほど、アキトとの技術力が大きいと思い知らされたようで、瞳に涙を湛えながら嘆いた。その吐露を聞いた時、風姫は意味のない慰めしか口にできず、適切な言葉をかけられなかった。
「それは、後でアキトに訊けば良いな。今は結界の話が先だ。何せ、現在進行形で結界を維持してるのだからな」
「分かった、そうするわ。絶対に訊くから」
 風姫の視線はゴウに向けていたが、言葉は史帆に向けられた台詞だった。
 言葉の内容ではなく、決然とした風姫の意志の力が史帆に伝わったらしい。史帆は唇を惹き結び、俯いていた顔をあげ、しっかりと視線をゴウに向けたのだ。
「ふっはっはっははーーー、勝手にするが良い。俺は結界の説明をしたら戻らねばならぬしな・・・。とにかくだ、今回の結界は敵を封じ込める為のもの。そして間抜けな王女様同様、中央に宝船があると誤認させるのだ」
 説明の最中にも人を煽ることを辞めないゴウは、非常に大人げがない・・・というより、何かにつけトラブルの素を撒き散らすのが、お宝屋の流儀。そして、トラブルの素を避けないのが、風姫である。
「王女様ではあるわ」
 しかし間抜けではないと暗に匂わせるだけに風姫はとどめた。ゴウも、追い打ちをかけるような台詞を吐かず、話を進める。
「毘沙門天と福禄寿の傍に待機させていたジュズマルを、俺達が大黒天のいる場所まで操縦したのは、TheWOCにレーダーで追わせるためだ。自律飛行偵察機であるジュズマルに任せたら、TheWOCのレーダーになんて捉えらる訳ないぞ。つまり、だ。大黒天の位置に宝船があると思わせるための偽装工作。TheWOCは毘沙門天と福禄寿が宝船に帰還し、新たに大黒天を発進させたと考えるだろうな。宝船を襲撃しようと他の戦闘団も参戦するなら、毘沙門天と福禄寿がいる場所を通る確率が高くなる」
「どうして?」
 史帆の質問に風姫が答える。
「毘沙門天と福禄寿が離れたなら、そこに伏兵がいない蓋然性が高くなるからだわ。敢えてレーダーに捉えさせたのは、宝船の位置を誤認させるだけでなく誘いにもなるから・・・どうかしら?」
「うむ、正解だ王女様。ただし半分だな」
「あと、何があるというのかしら?」
「脱出路だな」
「・・・悪辣だわ」
「そんなにアキトを褒めるな」
 風姫と史帆の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのを愉しみつつ、ゴウは声を弾ませ答えを教える。
「作戦の立案、七福神の布陣はアキトの考案だぞ」
 風姫はアキトの性格を疑うような視線を送り、史帆はアキトの性格が悪辣であると理解した。
 能力に人格は関係なく、性格により才能が奪われることはない。二人とも若さ故なのか、その事実に対して疑問の余地を残しているようだった。

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