ドラゴンに転生!〜せっかくなのでドラゴンを謳歌する〜

エン

襲撃と決意



「依頼の方は?あいつらはまだなのか?」
「は、はい……っ。いまだに連絡がなく……」


 カルディアたちの住むカーナの森から遠く離れた、アレストール王国にある1番栄え“国王”の住う王都にある屋敷の一室。
 そこで2人の男の姿があった。


「もうすでに1ヶ月は経つぞ?」
「はいっ……ですが……」
「まだ見つからないのか……あるいはしくじったのか…。所詮下賤な冒険者。全く役に立たないな」
「はい…そのようで……」


 誰が見ても高級だと思うような装飾を服全体にちりばめ、腕を組み偉そうに踏ん反り返った齢50ばかりの男が自身に向けて膝をついて跪いている鎧を纏った男に吐き捨てるように言う。


「……“これ”がどれだけ重要なことなのか貴様はわかっているのか……?」
「!…は、はい!重々承知しておりますっ!」
「ならばなんとしてでも“探し出せ”!!金も!人も!権力も!!なにを使っでも、手段を選ばず…貴様の命に変えてでも探し出し、“ここへ連れてくる”のだ!!!」
「はっ!!」


 鬼のような形相でそう言う男に跪いた男は、その忠誠からか……あるいは恐怖からか……。男の言葉を聞き顔を青くした男は弾かれるようにしてその部屋からさっていった。


「ふん……どいつもこいつも使えないやつらばかりだ」
「__見たいですねぇ……“公爵”さまぁ?」
「貴様……聞いていたのか」
「えぇ。それはそれは愉快な話しでしたねぇ。それでそれでぇ?果たして大丈夫なのですかぁ?」
「私が“新たな王”となるための計画なのだ。手は抜かぬし、なにがなんでも達成させるに決まっておろう」
「……ならばぁ……いいのですがねぇ?」


 部屋を飛び出した男と入れ違うように、突然部屋に姿を現したシルクハットに、黒いタキシード。傘の持ち手のような物の付いた杖に顔を手に携えた若く、最高でも20代だろうと思われるような顔をした男は、確認するように……それでいて試すように“公爵”と呼ばれた男に問いかけた。


「それに所詮小娘。そこまで遠くには行っていないはずだからな。見つけ出すのも時間の問題だ」
「あははぁ!さすがは人間ですねぇ!自分の欲のためならば他人など道具に過ぎませんかぁ?」


 おかしくてたまらないような仕草で。それでいて嘲笑うかのような口調でシルクハットの男は問う。


「それは貴様“ら”も同じことであろう?」
「あははぁ!違いありませんねぇ!」


 さぞ愉快だと言わんばかりにシルクハットの男は笑う。


「それではまだなにか進展があればまたぁ」


 そう言ってシルクハットの男は部屋から音もなく消えた。


「ククククク……私が……私が王となる日は近い…!」










+++++++++++++++




 リスアを助け出し、無事寝床に帰りついてから1週間が経った。
 あれから変わったことは護衛のためにリスアのそばにいる時間が増え、新しい寝床探しや狩りが捗っていないぐらいで、それ以外はいつも通りの……俺がドラゴンに転生してからの日常だった。


 リスアも着替えを手に入れ、服とついでに買っていたのか寝袋を使ったり、釣竿で釣りをしていたりして森での暮らしに慣れつつあった。


 そんなある日。


 外でリスアを連れて狩りをしていると。


「やっと見つけたぞ……!」


 なんだ?こいつらは。
 10人ほどの同じ鎧を着た男たちがこちらを見て「見つけた」などと言ってきた。
 俺に身に覚えはないな……リスアか?
 そう思いリスアを横目で見ると、顔を青ざめ体を震わせ俺の後ろに回っていた。


「さぁ…!これ以上は逃がさん!大人しく捕かまれ!」
「い、いやよ!」
「はっ!なら無理やり連れて行くだけのこと!」


 男たちは腰に装備した剣を抜き、リスアに向かって突進してきた。
 こいつらはリスアを害そうとしているのか?


『させると思うか?』
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」


 俺が【念話】を使い立ち塞がるようにして話しかけると全員顔を驚愕に染め、俺を警戒するようにその場に立ち止まった。


「あの跡からしてもしかして……とは思っていたが……。どうしてドラゴンが人間の女を庇う?」
『お前らには関係のないことだ』


 俺はこいつを助けた。だから最後まで責任をもってこいつを守る。助けたのに死なれると後味は悪いし、……こいつと過ごすのは1人でいるより楽しい。


「ならば力ずくで奪い取るだけだ!!」


 そう言うと男たちは標的を俺に変えて突進してきた。
 この前の誘拐犯よりかは強いがそれでも大したことはない。


『〈電撃剣〉』


 俺の放った10本の電撃剣は男たちに向かって飛んでいき、辛うじて回避した3人を除いた7人の体を切り裂いた。


「なっ……!?」


 魔力的にもあの3人は他よりも強いようだな。
 電撃剣にもギリギリ反応できたようだ。だが……


『この程度で手数っているお前らになにができる?』


 身体強化を施した体で距離を詰め、1人爪で斬りかかる。標的となった男は回避することは叶わず、そのまま縦に切り裂かれた。


「こ、こいつは幼竜じゃないのか……!?」
『喋る時点で気づかなかったのか?生憎俺は属性幼竜だ』
「く、クソガァッ……!」


 諦めたのか?……ふむ。今回は俺がいたので未遂で終わったが、こいつらを生かしておくとまたリスアに危害を加えようとするかもしれない。
 ここで殺しておこう。


「だ、団長!あなただけでも逃げてください!!」
「そんなことできるわけないだろう!」
「属性幼竜は予想外です……!早く計画のためにも伝える必要があります…!足の速さならだ俺よりも団長の方が速いでしょう!行ってください!」
「だ、だが……!」
「はやく!!」
「すまないっ……!」


『逃すと思うか?』
「ここは通さん!!」


 剣をこちらに向け、息巻く男だが…俺を足止めするには実力が足りない。
 それに……


『新しい魔法を試そうか』


 男に向けて電気でできた棒を放つ。
 その棒は男を囲うようにして地面に突き刺さり……


『〈電檻〉』


 棒の中で少なくとも人が食らえば即死するであろう電撃が男を襲う。


「ガッ!__」


 逃げたやつは……かなり離れているな。逃げ足だけは一丁前に速い。


『逃がさ___」
「__…ぃ…………ぇ…〈………っ〉……!」


 なっ!?こいつまだ生きて!?
 即死の電撃を食らったはずの男はまだ死んでおらず魔法を放った。
 しかも、狙いはリスアか!


 死にかけの男が最後に放った魔法。 
 俺に当たっても傷一つつかないが、リスアに当たるとひとたまりもない……!


 【身体強化】を全力で施し、


『〈電刃〉!』


 新しく作った魔法。
 腕に刃を模した電気を纏いそれを振るう、【纏い・電気】の応用技を使い男の放った魔法をすんでのところで消し飛ばす。


 あ、危なかった……。死んだと思って完全に注意を向けていなかった……!
 魔法を放った男はやはり電撃に耐えたわけではなかったのかすでに死んでいた。


『リスア、大丈夫か……?』
「え、ええ……大丈夫よ…」


 逃げたやつは……!……!?
 あいつの魔力を感じない………?
 なぜだ?索敵されないように自身の魔力を隠蔽する技術でもあるのか?
 だが、これで完全にやつを見失った。こうなっては行き先もわからない以上追うことはできない。
 それに……まだ震えているリスアも心配だ。


『あいつらはもう片付いた。……とりあえず帰ろうか』
「……ええ」




 ……敵の実力によって耐えうる電撃の強さも変わる……。当たり前のことだよな。
 俺はどこかで並の魔物や人間では歯の立たないドラゴンとしての力に、魔法を過信し、慢心していたのかもしれない。
 今回は守れたが、俺の慢心でリスアがまた危険な目にあうかもしれない。もしかしたら次は死ぬかもしれない……。
 もう、こんなことはないように自分を戒めよう。


 そして……


 リスアは俺が守る……!




 ___それはとても無自覚で……込められたその中身は最初の責任などという“言葉”とは違い……別の“感情”での……




 ___ただ、その込められた感情を俺が自覚し、理解するのはもっと先のことで……




 密かに心で新たな決意をし、俺たちは寝床への帰路を歩き始めた。







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