人間嫌いな俺とビッチな少女

マイナスイオン

真の告白





「好きです!付き合ってください!」


振り返ってみると、罰ゲームで鍋島に嘘告白をしてから1年が経つんだよね。


そもそも、あの時どうやって鍋島を屋上に誘ったんだっけ?


鍋島とはもう半年以上も話してないし、ちゃんと会話できるかすら不安なのよね。


こんなに好きなのに......


あー、いっそのこと鍋島から私に話しかけてくれないかな~?


そしたらその流れで、


「好きです!」


いやっ、流石にそれは無理があるでしょ......


ううん、やっぱり時間が欲しいって言ったのは私なんだからちゃんと私から呼び出さないとね。


『今日の放課後、屋上で待ってます』


うーん、無難だけどやっぱりこれが1番だよね!


敢えて名前は書かないでおこうっと。匿名からの方が鍋島ドキドキしそうだし?


半年間、彼氏いない歴で考えると1年半かな?その間誰かと付き合うことはなかったけどやっぱり本質は女の子。好きな人のことを考えたらドキドキするし、ワクワクもする。


だからワクワクを違った方に利用して、嘘告白なんて馬鹿げた罰ゲームをみんなは考えたんだと思うけど。


最初に告白した時はなんか落とし文句が大事とか思って一晩必死になって考えたりもした。


やってる行動、思考ぜーんぶ最悪最低だった。


だけどきっと、想いを伝えるってことはシンプルでいいんだと思った。嘘偽りのない好きの一言で想いは伝わる。


「あれ?お姉ちゃん。今日はまた一段と早いんじゃない?」


「まあ、今日は私にとって勝負の日だから!」


「ふーん、だから今日の下着は馬鹿みたいに赤......」


「ほ、穂希、言わなくていいから!穂希も受験生なんだからちゃんと学校で勉強しなさいよー」


「あーうるさい、生徒会に入ったからって私にまで指導しなくていいからね!ま、ちゃんとお姉ちゃんの気持ちが伝わるといいね」


素直じゃないが、そんなところも可愛い妹だ。


「じゃ、私もう出るからね!」


「はいはい、行ってらっしゃいお姉ちゃん」


私は手紙を玄関に置くため、学校へと急いだ。


「ビッチなお姉ちゃんが気づけば真面目になったなぁ。ほんといい人に出会えたんだね。想いを伝えれるように頑張ってねお姉ちゃん」


*********************


「睦月ー!早く起きなさい!朝ごはんちゃんと食べて!早く学校に......」


「うるせーな姉貴、ちゃんと起きてるよ。朝ごはんも食べるから」


「ほんと、一人暮らしとかし始めたらちゃんと生活できるか心配なレベルなんだから」


「姉貴も俺が高校卒業して、寂しくなったとか言い出しても知らないからな」


「睦月そういうこと言うーんだ。ま、私としてはこうして睦月が高校に通ってくれてるだけで嬉しいけどね」


「なんだ?いきなり気持ちわりいこと言い出して?」


「睦月がこっちに来たいって言った時に私を頼ってくれて嬉しかった。それと一緒に深い傷を負った睦月を見て悲しかったわ。だから、沙霧が来た時は正直焦った。あの子はいつまで睦月を苦しめるんだろうって」


姉貴もそこまで考えてくれていたのか......


「半年経ったから言うけど睦月、あなたはもう大丈夫よ。周りの支えはあったけど、睦月はちゃんと立派に成長してるから」


「そんな堂々と褒められても恥ずかしいだけだよ。だけどありがと姉貴。姉貴がこっちに俺が来ること親に説得してくれなかったら今の自分はなかったかもしれねえから」


「睦月のお姉ちゃんは私なんだから当然でしょ?だけどもう1人あなたにきっかけをくれた人が居るでしょ?ちゃんと」


「大丈夫、わかってるよ。前に姉貴が裏切られる辛さを知ってるなら裏切ることはするなって教えてくれたからな」


「そう、分かってるのなら私は何も言わないからね!でも睦月、私の可愛い義妹を泣かせちゃダメだめよ?」


「いつから妹になったんだよ。ちゃんと約束は守ってるから......じゃあ、行ってくるから」


「はいはい、行ってらっしゃい」


姉貴はきっと俺と胡桃があの日から話してないことを知らないのだろう。


だけど俺は彼女の言葉を信じて待つだけだ。


「......ちゃんと人と関われるようになったじゃない。ありがとね萌ちゃん......馬鹿な弟だけど萌ちゃんなら安心かもしれないわね。後は沙霧......現実と向き合えるようになればいいんだけど」


……


校舎に入ると俺の下駄箱に紙が入っていることに気がつく。


『今日の放課後、屋上で待ってます』


前にも似たような紙が玄関に置かれたことがあるような気がする。


今頃紙なんて昭和なやり方を使う奴もいるのか......


誰かのいたずらかもしれねえが、その時はその時だ。
 

俺は放課後屋上へ向かうことを決めたのだった。




*********************


手紙は玄関に置いた。昼休憩に気になって下駄箱見に行ったけどちゃんと手紙は見てくれたみたいね!


今日の私はだいぶん挙動不審らしく、いつもは尊敬の眼差しで見てくれてる後輩たちが不審げに私を見ているのが分かった。
……
「胡桃先輩なんか様子おかしくね?」


「いや、いつも通り可愛い」


「そんなことは分かってんだよ。なんか挙動不審ぽくねって話だよ」


「もしかして、この中に好きな人が!」


「いねーよ。だって今ここに3年生いねーじゃんかよ」 


「男子~話してないではやく!」


「うるせー遠吠え女ー」


「誰が遠吠え女だー!」


「こいつもただのバカップルじゃねえかよ」


……


キーンコーンカーンコーン


そして運命の、私を激励するかのように6限終了のチャイムが校内に鳴り響く。ま、チャイムが応援なら今日だけで10回以上応援されてる
ことになるけど......


「胡桃先輩!ここの書類なんですけど~」


「ごめんね、悪いけど後にして。どうしても外せない用事があるから!」


「でもこれ今日が提出期限なのでチェックだけでも」


「あー、もう分かった。チェックするからそんな捨てられた子犬みたいな顔しないの」


ごめん鍋島、呼び出したのに遅れそう......


……


「鍋島睦月、進路希望調査の提出今日までなのにお前の分はまだ貰ってないぞ!書いたのなら提出しに今日中に職員室に来なさい」


 「すみません、書いたら持っていくんで」


……


私は生徒会の後輩の書類を一通り目を通し、急いで屋上へと向かった。


向かったけど......誰もいない?


そういえば鍋島って私よりも先に現れたことなかった気がする。


まあ、いっつも私が呼び出すことがほとんどだからかもしれないけど。


だけど、これって来ないパターンもありえるよね?


半年も話さず過ごして、愛想つかしてこないみたいなことがあったりするのかな?


そんなマイナスなことを考えると告白すらできないのではないかと涙が出そうになる。


「もうなんでこないのよぉ......」


ガチャっ!


私がそういった瞬間に屋上の扉が開く。


そしていかにも、いや凄くめんどくさそうな顔をした鍋島が現れた。


「胡桃?何でお前がここに?」


「人を散々待たせといて謝罪の言葉も言えなくなったのかなー?前に呼び出した時は開口一番謝罪してたのに~」


「普通匿名で手紙置いてあったらまずは疑ってかかるだろ。だけど遅れたことは事実だ。待たせて悪かった」


「でもそもそもその前って一番最初に呼び出された時だろ?リンチされてるかと思ってビビってたんだよ」


「そんなことしないわよ。凄く悪いことしたなとは反省してるけど......」


「いいよ、元々気にしてなかったしな」


「ねえ、鍋島。聞いて欲しいことがあるの」


「なんだ?死んで欲しいとかそんなこと以外なら聞くことはできるぞ?」


「そのセリフ前も言ってたよね。いきなり呼び出して死んで欲しいっていうのは多分、あの子くらいしか言わないから」


「あぁ、あいつなら言いそうだ」


少し遠い目をしながらそう答える鍋島。


私は深く深呼吸をした。少ししか話してないけど、やっぱり鍋島との会話は楽しい。


「なあ、今俺と話してるけどもう話しても大丈夫なのか?」


「あの時はいきなり時間をちょうだいなんて言ってごめん。私のしてきたことが消えるわけじゃないけど鍋島にこれからの私を見て欲しかったの。だから生徒会に入った。前は色々遊んでたかもしれないけど、今ちゃんと真面目に生きようとしてる。そう思わせてくれたのは鍋島なの」


「本当はずっと話したかった。離れるなんて嫌だったけど中途半端な気持ちで鍋島と関わっていきたくなかったから、時間が欲しかったの」


「胡桃......なんでそこまで」


「鍋島のことが好きだからに決まってるよ!惚れさすなんてこと言ってたのに気づいたら私が鍋島に惚れちゃってた。私は鍋島のことが大好きです。私と付き合ってください」


気づけば私の目から涙が溢れていた。


きっとこれは安堵の涙。ちゃんと伝えれて良かった。本当の私の気持ちを......


「......俺もとっくに胡桃に惚れてる。お前の前向きさが俺をこのままじゃダメだと気づかせてくれた。ほんと感謝しても仕切れねえよ」


「それにこの半年、胡桃と話せなかったのは正直辛かった。俺も惚れることはねえなんて言ってたけどしっかり惚れてたみたいだ」


そう言って、優しく抱きしめてくれる鍋島。


その温もりは何よりも温かく、そしてとても優しかった。


「ねえ、鍋島。慰めじゃないぎゅーだね」


「あの時は本当びっくりした。てかそういう発言がビッチぽいんだよ」


「ならそのまま両思いのチューはいらないってこ......」


私の言葉が最後まで発せられることはなかった。


「んっ、ぷはっ......えっ?鍋島、今」


鍋島の口で私の口を見事に塞がれてしまった。
そして何より甘い......


「キスしたいと思ってしちゃった俺も大概そうなのかもしれないな」


照れ隠しか、笑いながら屋上の出口へ向かう鍋島。


「もうー私は生徒会の役員なんだからねー!」


「ふっ、告白してハグした奴が言うことじゃねーよ。やっぱりお前はビッチだよ」


「すぐビッチって言うんだからー!」
……


 最初は嘘告白だった、振られて悔しかったから惚れさせて振るつもりだった。


気づけば私が鍋島に惚れていた。


鍋島も私に惚れてくれた。


 付き合い始めてからの方がきっと大変なこともあると思う。だけど不思議と2人なら乗り越えられる、そんな風な気持ちがある。


「ねえ、鍋島。今年は高校祭!最後はここで過ごそうね」


「あぁ、約束だ」


1人で歩き出す必要はない。隣には大好きな彼がいてくれるのだから......





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